(歴史ライター:西股 総生)

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まずは焦点距離を意識しながら撮る

 城の写真を撮るとき、たとえば天守を撮るとして、天守を見上げて「ほう」と思ったら立ち止まってカメラを構え、ズームリングを回して、ちょうどよくファインダーに収まるようフレーミングして、シャッターを切る・・・こんな撮り方、してませんか?

 ずばり言いますが、こういう撮り方をしているうちは、城の写真は上達しません。写真が上手い人は、カメラを構える前に、どのくらいの画角で被写体をフレーミングするか、あらかじめ決めているものです。

 画角とはレンズごとに写し込める範囲のことで、ザックリ言うと画角はレンズの焦点距離によって決まってきます。「何mm」という数値のことですね。写真の上手い人、カメラを扱い慣れている人は、被写体を目にしたときに、これは何mmくらいの画角でフレーミングしよう、というイメージがパッと湧きます。立ち止まってカメラを構えてからズームを使うのは、最終的な微調整くらいにとどめるのです。

 なぜかというと、広角レンズ(ズームの広角側)と望遠レンズ(望遠側)とでは、描写の特性が違うからです。写真の初心者は、広角レンズは広い範囲を写し込めるレンズ、望遠レンズは遠くの物を大きく写せるレンズ、と心得ています。

 でも、広角と望遠の違いは、それだけではないのです。おわかりでしょうか? 写真が上手な人は、レンズの焦点距離による描写特性の違いを理解できているのです。城の写真を撮るのだけれど、どうもいまいちピリッとしないという人は、まず焦点距離を意識しながら撮るクセをつけるとよいでしょう。

 レンズは、焦点距離が短いほど広角になり、焦点距離が長いほど望遠になります。具体的に何mmで画角何度という関係は、カメラのフォーマット(撮像センサーのサイズ)によって違ってくるので、以下35mmフルサイズ判の数値を基準に説明しましょう。

 35mmフルサイズ判では焦点距離50mm内外のレンズを標準レンズと呼び、それより短い物が広角レンズ、長い物が望遠レンズになります。50mm標準レンズの画角は約46°で、人間が自然に物を見た時の感覚に近い描写になります。

 広角レンズは、広い範囲を写し込むことができますが、その分、人間の視角より遠近感が強く描写されます。近くの物は大きく、遠くの物は小さく写るわけです。この傾向は、画角が広くなればなるほど、つまり焦点距離が短くなればなるほど強まります。

 反対に、遠くの物を大きく写せる望遠レンズでは、遠近感が圧縮されて写ります。この傾向も、焦点距離が長くなればなるほど強まります。また、ピントの深さを被写界深度と言いますが、広角レンズほど被写界深度は深くなり、望遠ほど浅くなります。

 では、城を撮るのに最適の焦点距離は何mmなのでしょう? 一口に城の写真といっても、被写体は天守や櫓、門、石垣、堀、はては土塁や切岸など多種多様に及びますが、被写体としてもっとも需要があるのは、やはり天守や櫓、門といった城郭建築でしょう。

 そこで、筆者の長年の経験から、ずはり言います。近世城郭を撮るときにもっとも使いやすい焦点距離は、35mmです。また、写真がもっとも上達する焦点距離は、50mmです。なので、35mmと50mmの焦点距離をきっちり使い分け、使いこなせるようになれば、近世城郭の撮り方は間違いなくワンステップ上がります。(後編へつづく)

(後編)続・城を撮るのに最適な画角レンズは?まずは「35mm」と「50mm」の単焦点レンズを使いこなす

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姫路城 撮影/西股 総生