マジンガーZ』には右半身が女性、左半身が男性の「あしゅら男爵という怪人が登場します。

これはかなり特殊な造形のキャラクターに思えますが、自然界には稀に体の左右で性別が異なる生物が見つかることがあります。

ニュージーランドのオタゴ大学(University of Otago)動物学部に所属するハミッシュ・G・スペンサー氏ら研究チームが報告した、「スグロミツドリ(学名:Chlorophanes spiza)」は体の半分がオスで、もう半分がメスになっているという

その特殊なスグロミツドリの個体は、体のちょうど真ん中で青色と緑色に分かれています。

このような「雌雄モザイク」の鳥が発見されることはほとんどなく、スペンサー氏が、「多くの野鳥観察家は、生涯で一度も雌雄モザイクの鳥を観察することはない」と述べるほどです。

しかしその見た目ゆえか、この個体は仲間に馴染むことはなく、孤独だったようです。

研究の詳細は、2023年付の学術誌『Journal of Field Ornithology』に掲載されました。

目次

「半分がオス、もう半分がメス」の鳥が発見される

生物学者のスペンサー氏がコロンビアで休暇を楽しんでいた時、地元のアマチュア鳥類学者のジョン・ムリーロ氏が彼に「素晴らしい映像を見せたい」と言いました。

ムリーロ氏がスマホを取り出して見せたのは、農場のエサ台に訪れる「スグロミツドリ(学名:Chlorophanes spiza」を撮った動画でした。

スグロミツドリとは体長14cm、体重20gほどの鳥であり、南アメリカの森林地帯に分布しています。

オスとメスで見た目が大きく異なるのも特徴です。

スグロミツドリのオス(左)とメス(右)
スグロミツドリのオス(左)とメス(右) / Credit:Wikipedia Commons_Green honeycreeper

オスは、エメラルドグリーンに近い「青色」の体と、黒色の頭部を持っています。

一方メスは、青リンゴや草のような、黄緑にも近い「緑色」の体と頭部を持っているのです。

しかし、ムリーロ氏が見せてくれた動画に映っていたのは、その両方の特徴を備えたスグロミツドリでした。

なんと、体の色がちょうど半分で分かれており、右側がオスの「青色」、左側がメスの「緑色」をしていたのです。

頭部も半分に分かれており、右側はオスの黒色、左側はメスの緑色になっています。

発見された雌雄モザイクのスグロミツドリ
発見された雌雄モザイクのスグロミツドリ / Credit:Hamish G. Spencer(University of Otago)_Extremely rare bird captured on film(2024)

このように、1つの個体の中に、オスの特徴を持つ部分とメスの特徴を持つ部分が、明確な境界を持って混在していることを「雌雄モザイク」と呼びます。

雌雄モザイクの鳥類が発見さるのは非常に稀であり、スペンサー氏が「多くの野鳥観察家は、生涯で一度も雌雄モザイクの鳥を観察することはない」と述べるほど。

そのためスペンサー氏自身も「とても印象的でした。見ることができて光栄です」と語っています。

そして、雌雄モザイクのスグロミツドリは、2021年10月~2023年6月にかけて、農場に置かれたエサ台にて、他の野鳥たちと同様に観察されました。

では、稀とはいえ、どうしてこのような「雌雄モザイク」の生物が存在しているのでしょうか。

雌雄モザイクの原因

雌雄モザイクは、主に節足動物(昆虫・甲殻類など)や鳥類で観察されています。

例えば2023年には、雌雄モザイクのロブスターが発見され、大きな話題を呼びました。

身体の左右で色と性別が異なる!?「ロブスター界のあしゅら男爵」が見つかる!

雌雄モザイクは、主に遺伝子の異常によって生じると考えられています。

例えば、昆虫や甲殻類では、受精卵の発生過程で性染色体に異常が起きることで、雌雄モザイクとなる可能性があります。

これらの生物では、受精卵が最初に分裂して2個の細胞になる時、そのうちの1つが右側、もう1つが左側となります。

この最初の細胞分裂の際、本来であれば2つのオス細胞になるところが、間違ってオス細胞1つとメス細胞1つに分かれてしまうことがあるようです。そしてその後は、間違ったままそれぞれコピーされていきます。

雌雄モザイクのタテハチョウ
雌雄モザイクのタテハチョウ / Credit:Wikipedia Commons_Gynandromorphism

つまり、受精卵の細胞分裂の最初のエラーが原因で、その個体は異なった半身を持つようになるのです。

雌雄モザイクのロブスターにも同じ現象が起こったと考えられています。

一方、今回発見された雌雄モザイクのスグロミツドリに関しては、調査・研究がなされていないため、正確には分かりません。

どちらの生殖器を持っているかも分かっていません。

それでも、科学者たちは「卵細胞の生成におけるエラー」だと推測しています。

鳥類では、W染色体とZ染色体をもつ融合卵子が、2つの異なる精子と受精することで、雌雄モザイクが生じると考えられている
鳥類では、W染色体とZ染色体をもつ融合卵子が、2つの異なる精子と受精することで、雌雄モザイクが生じると考えられている / Credit:Photo Anne R. Lindsay

鳥類では、このエラーによってW染色体とZ染色体をもつ卵子が融合することがあるのだとか。

そして融合した「異常な卵子」が2つの異なる精子と同時に受精することで、1つの受精卵に2つの異なる性を持つ細胞(ZZのオスとZWのメス)が生まれます。

それぞれの細胞分裂が進行することで、片方が右半身、もう片方が左半身となるのです。

またこのような鳥類の雌雄モザイクでは、左半身と右半身がそれぞれ異なる精子に由来するため、性別だけでなく遺伝子も別人(兄弟レベルの近さ)になるのだとか。

それでも鳥類における雌雄モザイクは、節足動物における事例に比べて稀であり、その発生機構は完全には理解されていません。

雌雄モザイクのスグロミツドリは「孤独な存在」だった

雌雄モザイクの他の鳥類と同じく、今回発見された雌雄モザイクのスグロミツドリの個体も非常に珍しい存在です。

そして、それゆえ孤独を味わっている様子も観察されたようです。

観察された雌雄モザイクのスグロミツドリは、孤独だった
観察された雌雄モザイクのスグロミツドリは、孤独だった / Credit:Hamish G. Spencer(University of Otago)_Extremely rare bird captured on film(2024)

コロンビアの農場の所有者は、毎日鳥たちのエサとして果物を置いていましたが、雌雄モザイクのスグロミツドリは、他の鳥たちと一緒に食べるのではなく、彼らがいなくなるまで待つことが多かったというのです。

また縄張り意識が強く、自分がエサを食べている時には、同種の他の個体を近づけないようにしていたそうです。

雌雄モザイクのスグロミツドリは、「エサ台ではいつも独りだった」のです。

彼もしくは彼女が、どのような経緯で孤独を選ぶようになったのかは分かりませんが、もしかしたら体の特徴が原因なのかもしれません。

ちなみに、あしゅら男爵はDr.ヘルの部下であり、彼に対して「命を惜しまないほどの強い忠誠心」を示していました。

そんなあしゅら男爵が死亡した際には、冷酷なDr.ヘルですら涙を流したという。

現実に存在する雌雄モザイクのスグロミツドリにも、そんな大切な仲間がいれば良いのですが。

全ての画像を見る

参考文献

Extremely rare bird captured on film
https://www.otago.ac.nz/news/news/extremely-rare-bird-captured-on-film

Half male, half female bird stuns ornithologists
https://www.zmescience.com/science/news-science/half-male-female-honeycreeper/

元論文

Report of bilateral gynandromorphy in a Green Honeycreeper (Chlorophanes spiza) from Colombia
https://doi.org/10.5751/JFO-00392-940412

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

「右半身がオスで左半身がメス」鳥界のあしゅら男爵が見つかる!