まるでマーベルコミックのスーパーヒーローのような特殊能力を持つ生物は実在する。手足や尻尾を切っても再生するイモリやサンショウオなどだ。
今回、遺伝子操作で後ろ足を形成不全にさせたイモリの片足を切り落としたところ、きわめて正常な足が再生することが判明したそうだ。
人間にとっては切断された足が再生するだけでも羨ましい限りだが、不完全だったはずの足が普通の足に戻ってしまうのだからこれはもう超再生能力である。
この再生能力の謎が解明できれは、いずれ再生能力を持たない我々も人工的に完璧に機能する器官を作り出すことができるかもしれない。
基礎生物学研究所の鈴木健一特任准教授らによるこの研究は、イモリの再生能力と手足の発生・発達プロセスについて調べたものだ。
共同研究者であるカリフォルニア工科大学の生物学者マリアンヌ・ブロナー教授はこう話す。
ゼブラフィッシュやサンショウウオといった、体の一部を再生できる生き物もいます。ですが、生命の進化の樹の高いところに位置する生物に、そうした力はあまり見られません。
人間の赤ちゃんでも指先が再生した例はありますが、大人になれば消えてしまいます。だから再生の根底にある分子プロセスを解明したいのです
そして今回の研究で特に探られたのは、生き物の手足を作る発生メカニズムと再生能力との関係だ。
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生物の手足がぐんぐんと成長するのは、胚のときだけだ。はたして、このとき働いている化学物質は、手足の再生能力にどう関与しているのだろうか?
自然界には、再生能力を持つ生物(例えばウミグモは生殖器や肛門を再生する)がいるが、その秘密を解明すれば、いつか私たち人間にそのスーパーパワーを移植することができるかもしれない。
イモリの遺伝子を操作して再生メカニズムを調査
このちょっとしんどそうな実験に協力してもらったのは、スペイン南部やポルトガル南部ならびにモロッコ北西部に生息する体長20cm前後の「イベリアトゲイモリ」だ。このイモリは非常に再生能力に優れており、手足、尻尾のみならず、心臓や脳が損傷しても回復するほどだ。
イベリアトゲイモリ photo by iStock
このイモリがまだ胚のとき、「繊維芽細胞増殖因子10(FGF10)」なるタンパク質が働くことで、手足が発生・発達する。これは人間にも言えることだ。
そこで、FGF10がイモリの再生能力にどのような影響を与えているのか知るため、まず遺伝子を操作してFGF10が機能しないイモリが作られた。
すると、このイモリは、後足の指が欠けているなど形成不全が見られるようになった。
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だが驚くのはここからだ。この不完全な足を切断したところ、なんと正常な足が生えてきたのだ。
再生過程にあるイモリの後ろ足 / image credit:M. Suzuki
切断した方の足からは正常な足が生えたものの、切断しなかった方の足は元の不完全な状態のままだった。
image credit:M. Suzuki
手足の「発生」と「再生」のメカニズムに違い
このことは、手足の「発生」と「再生」プロセスが、別のメカニズムによって機能している可能性を示しているという。
例えば、再生を支えるメカニズムの候補として挙げられているのが、「FGF8」という成長因子だ。FGF8もまた胚の発生に関わっているが、その役割は神経細胞の発生におけるシグナル伝達という専門的なものだ。
そして研究チームによれば、発生と再生の重要な違いの1つに、神経が存在があるのだという。
『PNAS』(2024年3月5日付)に掲載された研究では、これについて「FGF10ではなく、神経由来因子を含む再生の合図によるFGF8の直接誘導が、有尾類(尾を持つ両生類)の四肢再生のカギを握っている可能性が浮かび上がる」と説明している。
References:Mutant Newts Can Regenerate Previously Defective Limbs - www.caltech.edu / Mutant newts regrow normal limbs in place of defective ones / written by hiroching / edited by / parumo
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