日本中が沸いた、『ゴジラ-1.0』(公開中)の第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞。授賞式では、山崎貴監督のほか、VFXディレクターの渋谷紀世子、CGディレクターの高橋正紀、コンポジターの野島達司が登壇。山崎監督が英語でスピーチを行った。

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その前日、ロサンゼルスにある日本総領事公邸では、日本作品の関係者を招待したノミニーレセプションが行われていた。3月8日の第47回日本アカデミー賞で、『ゴジラ-1.0』は、最優秀作品賞、最優秀助演女優賞、最優秀脚本賞を含む最多8冠に輝いた。だが、最優秀男優賞は『PERFECT DAYS』(公開中)の役所広司に、最優秀監督賞は同じくヴィム・ヴェンダース監督にわたっていた。

そのことを踏まえ山崎監督は、「(日本アカデミー賞授賞式の際)役所さんが、『これでちょっとゴジラの牙を抜いた感じがします』とおっしゃって、そのあと『ゴジラ-1.0』にも出ている安藤サクラさんが一緒になって『牙を抜いた!』と喜んでいて、監督賞はヴィム・ヴェンダース監督に持っていかれてしまいました(笑)。このまま牙を抜かれたままだと困ったなと思ったんですが、今回のゴジラは非常に再生能力が高いんです。最後にはまた牙が生えてきます!」と、訪米する直前に行われた日本アカデミー賞での一幕を引用し、笑いと希望に満ちたスピーチをおこなった。

一方、国際長編映画賞にノミネートされていた『PERFECT DAYS』のヴィム・ヴェンダース監督も、「私たちの映画がノミネートされている部門にはゴジラのような強力なモンスターはいませんが、私たちには最終兵器があります。世界の“演技モンスター”と言える俳優の、役所広司です」と、互いの作品を讃え、笑いをとっていた。

1月に発表されたノミネーションの段階から、『ゴジラ-1.0』の日本映画初の視覚効果賞候補入りに日本中、そしてハリウッドが沸いていた。映画のキャンペーンで行われた上映会での質疑応答や講演会では、35人のVFXアーティストで作品を作り上げたことに同業者たちは感嘆の声をあげていた。そこで話されていたのは製作費の多寡ではなく、監督、脚本、VFXスーパーバイザーを兼任した山崎監督が思い描く完成形に、いかに効率的に近づけるかという創意工夫と、若い才能を伸ばす白組(『ゴジラ-1.0』のVFXを担当)の人材登用の話だった。折しも、2023年のハリウッドは63年ぶりにWGA(全米脚本家協会)とSAG-AFTRA(全米映画俳優組合)の契約更改をめぐるWストライキが行われた年。さらに、生成AI技術は日進月歩で開発が進み、VFX制作をめぐる働き方という面でも、『ゴジラ-1.0』と白組、そして山崎監督がハリウッドに伝えたメッセージが響いたのではないだろうか。

山崎貴監督 第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞スピーチ全文

山崎貴「40年以上前、『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』を観たショックからキャリアをスタートさせた私にとって、この場所は望むことすら想像しなかった場所でした。ノミネートの瞬間、私たちはまさにロッキーバルボアでした。強大なライバルたちの前でリングに立たせてもらえたことはすでに奇跡でした。しかし、私たちはいまここにいます! この場所から遠く離れた所でVFXを志している皆さん!ハリウッドが、君たちにも挑戦権があることを証明してくれました!最後に、『ゴジラ-1.0』のスタッフとキャストを代表して、去年亡くなった我々のプロデューサー、阿部秀司さんにお伝えしたいです。僕らはやりました!ありがとう!」

渋谷紀世子「会場のみんな、東京のみんな、ありがとう!」

■受賞後会見スピーチ全文

――ほかの候補作品と比べると、特に予算の面で、歴史的な受賞と言えます。限られた予算ですばらしい仕事をしてくれると証明したので、たくさんの依頼が来るのではないでしょうか?こんな作品に関わってみたいというものはありますか?

山崎「ゴジラがすごくたくさんの扉を開いてくれているので、これから新しい冒険が始まるんじゃないかなと思います。どっちに向いていくのかわかりませんが、いままでとは違う可能性がものすごくたくさん出てきたんじゃないかな」

――日本映画として初めての視覚効果賞受賞ですが、この受賞の意味と、今後日本映画界にどんな影響があると思いますか?

山崎「まだそこまで実感がわかないんですが、一つは、日本の映画が海外でもある程度興行していければ、日本の映画の環境が変わっていくと思いますし、僕らで変えていかなきゃいけないんじゃないかなって思っています。そのためにも、これからの行動がすごく重要になってくるんじゃないでしょうか」

――記憶が正しければ、まだ(北米での)ホームエンタテインメントのリリース情報がありません。(ゴジラには)ワーナー・ブラザースとレジェンダリーとの契約があるとは思いますが。

山崎「日本ではホームバージョンの発売が発表になっています。おそらく東宝とレジェンダリーの契約はあると思うんですけど、かなり譲歩してくれました。非常に感謝しています。本来よりはすごく寛容な対応をしてくれたと聞いています。非常にありがたかったなと思います。でも…アメリカでまだ公開が続いたら、ものすごく助かったなとも思うんですけれど(笑)。まあそれはちょっと、そこまで望んではいけないよなと思いながら、なんとか自分を鎮めてまして(笑)」

――『ゴジラ-1.0』は、『オッペンハイマー』と対になる作品のように感じました。

山崎「そうですね。おそらく、作っている時はまったくそういうことは意図されてなかったと思いますが、出来上った時に世の中が非常に緊張状態になっていたことに、すごく運命的なものを感じます。『ゴジラ』というのは戦争の象徴であったり、核兵器の象徴であるゴジラをなんとか“鎮める”という話だと思うのですが、“鎮める”という感覚を世界が欲してるんではないかな。それがゴジラに一部つながってるんじゃないかなと思います。まあ、それとは別に、『オッペンハイマー』に対するアンサー映画は、僕の個人的な思いとしては、いつか本当にアンサー映画を日本人として作らなきゃいけないんじゃないかって感じています」

――このゴジラのデザインはどんなものから影響を受けていますか?

「非常に様々なゴジラのデザインを見て、もう“これこそゴジラだ”っていう形を実際にゴジラを造形するスタッフと共に模索しました。やっぱり、今回は核兵器と戦争の象徴であるっていうことを非常に強く打ちだしたかったんで、見るだけで恐怖が迫ってくるとお客さんの潜在意識に訴えかけるような、そんなデザインにしたつもりです」

文/平井伊都子

日本映画初の視覚効果賞を受賞/Michael Baker / [c]A.M.P.A.S.