株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎勝教、以下「日本総研」)は、「健康・医療政策コンソーシアム」(以下「本コンソーシアム」/※1)の活動として、限られた財源の中で持続可能な医療提供体制を維持するための提言として策定した「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けて」(以下「本提言」)を発表します。  
 本提言は、「プライマリ・ケアチーム体制整備」「価値に基づく医療実装」「マクロでの給付と負担の均衡性確保」の三つの観点およびそれらを実現するための「政策実現に向けた地域行政改革」について、本コンソーシアムがさまざまな有識者やステークホルダーと意見交換を行いながら検討した内容を取りまとめたものです。
 本提言は、以下からご覧になれます。
 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けて(日本総研ホームページ/2024年3月13日
 https://www.jri.co.jp/column/opinion/detail/14858/

■背景および提言

 日本の医療需要は、超高齢社会と医療技術の進歩によって増大しており、これに伴い医療給付費も増え続けています。その中で、持続可能で質の高い医療提供体制を構築するためには、住民が自身や家族の健康相談を地域内で行い、価値の高い医療で住民の健康増進と医療の革新が進み、持続可能な財源が確保される必要があると本コンソーシアムでは考えています。

 そこで、本コンソーシアムは、持続的な医療提供体制を構築するために、かかりつけ医機能のさらなる強化、価値に基づく医療の実装とマクロでの給付と負担の均衡性確保について提言するとともに、これらの政策を実現するための地域行政改革についても提言します。

1. かかりつけ医機能のさらなる強化(プライマリ・ケアチーム体制整備)

 

提言1-1:災害時対応から示唆される「主となるかかりつけ医」を登録する

 日本には、住民とかかりつけ医との関係を明確にする制度が存在しません。そのため、新型コロナウイルスパンデミックの際、住民にとって医療についての適切な相談先が分かりにくいという問題が各地で発生しました。また、日本に多い地震などの大規模災害の際には、被災者それぞれのかかりつけ医を適切な第三者が即座に確認することができず、迅速な支援の妨げとなることが少なくないのが実態です。

 それらを解消するには、2016年から始まっている小児かかりつけ医を登録する制度を参考にし、住民が主となるかかりつけ医を登録できるようにすることが必要と考えられます。

提言1-2:医道審議会にて「総合診療の標榜」を再検討する

 日本では、2018年に総合診療が専門医制度に新設されました。ただ、医療機関が「総合診療科」を院外の看板で表示できないため、住民の認知度は高くなく、総合診療科医としての開業ビジョンも持ちにくいのが実態です。

 そこで、住民が総合診療にアクセスしやすく、総合診療医が将来の総合診療としての開業ビジョンを描けるように、厚生労働省の医道審議会で、「総合診療の標榜(看板表示)」を再検討することが必要です。

提言1-3:多職種による「実践的なプライマリ・ケアの学びの場」を地域につくる

 日本の医師教育は、特定分野を専門とする医師の教育が主流となっており、プライマリ・ケアを提供するための総合診療専門医は不足しています。また、地域の医療従事者が総合診療の知識と技術を十分に学び、活用するための機会が限定的です。

 地域においてプライマリ・ケアの実践的な教育を行うためには、総合診療科を持つ医療機関を中心とした、地域の学びの場への支援を基礎自治体が行うことが効果的と考えられます。この取り組みを通じて、地域の多職種の医療従事者が、総合診療を理解・実践することが期待されます。

2. 価値に基づく医療の実装

提言2:ムダ・ムリ・ムラ改善へ「診療科別地域課題」を住民と共有する

 過剰な病床・長期入院、頻繁な診察、重複する処方箋などのムダ・ムリ・ムラが、日本の医療制度の負担になっています。これらの改善には、改善余地を定量化し、24時間体制が必要となる産科や新生児科、麻酔科、小児外科の地域ごとの医療提供体制の将来像を示すことが重要です。

 例えば、地域のシンクタンクである千葉大学医学附属病院次世代医療構想センターは、診療科別の病床数や医療従事者数など需給の過不足を公開しています。こうした情報公開が進むことで、高度な手術を行う施設をどこに集約するのか、重複した診療行為をどこに集約するのかといった議論が各地域で進むことが期待できます。

3. マクロでの給付と負担の均衡性確保

提言3 :「公的保険除外対象と捻出財源用途」を中医協で示す

 持続可能で質の高い医療提供体制を構築するためには、公的保険が対象とする範囲を精査し、財源を薬・医療技術などのイノベーションへの投資に活用することが必要です。しかし、これまで中央社会保険医療協議会(中医協)が公的医療保険の対象から外した医療技術をみると、現在は実施されていないものや、代替処置があるものなども選定されていることが分かります

 今後は、学会のガイドラインでエビデンスレベルが低いとされる医療や、学会で推奨されていない医療などについて保険適用から除外する審議を行い、捻出された財源の金額を可視化し、出口策としてその財源を何に使うかを示す機能を中医協に設けることが必要です。

4. 政策実現に向けた地域行政改革

提言4-1:約200の医療福祉先進自治体で「プライマリ・ケア推進チーム」をつくる

 現在、各基礎自治体には、プライマリ・ケアを推進する担当部署が明確には存在しません。そのため、地域でプライマリ・ケアを推進したい医療機関などがあっても、行政側との連携が進みにくい状況が生じています。

 医療機関や企業が、国や自治体からの支援や協力を得ながら、地域のプライマリ・ケアの啓蒙やプライマリ・ケアチーム体制構築を行っていくために、既存政策である重層的支援体制整備事業を推進している医療福祉先進自治体には、プライマリ・ケアを推進する機能を置くことを提言します。

提言4-2:保険者等参画する地域医療構想推進の「広域諮問機関」を設ける

 いわゆる2025年問題が目前に迫る中、人口減少や高齢化に伴う医療ニーズの変化に対応するため、各都道府県では地域医療構想の取り組みが進められています。しかし、高齢化の進展や生産年齢人口の減少によって、都道府県ごとでは医療需要に十分には対応できないといった問題が生じる恐れがあります。そのため、都道府県を超えて広域単位で将来の医療需給分析を行い、保険者のデータも活用して医療機関に勧告する広域諮問機関が必要です。

 日本総研は、本コンソーシアムの活動を通じて、多様なステークホルダーによる一体的な議論を進め、医療の多面的な革新を推進していきます。

(※1)健康・医療政策コンソーシアム

 持続可能で質の高い医療提供体制を構築することなどを目的に、医薬・医療機器の業界団体や医療・IT関連企業、医師が所属する学会、医療や経済の専門家、そして患者団体などと共に設立した研究会。

 「健康・医療政策コンソーシアム」設立について(日本総研ニュースリリース/2022年7月12日

  https://www.jri.co.jp/company/release/2022/0712/

■本件に関するお問い合わせ先

【一般のお客様】 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム

         担当: 川崎 メール: 200010-JRI_Healthcare_consortium@ml.jri.co.jp

配信元企業:株式会社日本総合研究所

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