最近、アメリカ海軍イージス駆逐艦の1隻に新たなアップデートが施されました。外見上では、艦橋の左右に巨大な張り出しが追加されたようですが、ここに搭載する電子戦システムがキモだとか。どんな性能向上が図られたのでしょうか。

艦橋左右に突き出た巨大な張り出し何のため?

アメリカ海軍の水上艦艇戦力において数的主力の座を占めているのが、現在70隻以上が運用されているアーレイバーク級駆逐艦です。イージス・システムを搭載し、高度な防空能力を持つアーレイバーク級は、まさにアメリカの海軍力を象徴する存在のひとつと言えるでしょう。

そのようなアーレイバーク級の1隻である「ピンクニー」に、最近大きな変化が見られました。同艦は、アメリカ西海岸の都市サンディエゴのドックで改修を受けた際、艦橋の左右に大きな張り出しが追加されたのです。正面から見ると『ダンボ』の耳が付いたような構造変化には、一体どのような意味があるのでしょうか。

この改修は、2024年現在アメリカ海軍が進めている「アーレイバーク級能力向上改修2.0(DDG-51 Mod 2.0)」という、同級を対象にしたアップデート計画によるものだそう。アーレイバーク級のうち比較的新しい「フライトIIA」と呼ばれる後期建造艦に対して、将来の戦闘環境にも対応できるよう能力を向上させようというものです。

具体的な改良点は次の4つとのこと。
1、新型の電子戦システム「AN/SLQ-32(V)7」の搭載
2、装備追加に伴う冷却システムの強化
3、新型レーダー「AN/SPY-6(V)4」の搭載
4、イージス・システムを「ベースライン10(BL10)」に更新

今回取り上げている「ピンクニー」の外観変化に関係しているのは、このうちの1つめ、「AN/SLQ-32(V)7の搭載」になります。これは、一体どのような装備なのでしょうか。

『ダンボ』の耳部分にどんな性能アップの秘訣が?

駆逐艦「ピンクニー」に増設されたAN/SLQ-32(V)7は「水上艦艇電子戦能力向上プログラム ブロックIII(SEWIP Block III)」の一環で開発された新型の電子戦システムで、これまでアメリカ海軍で運用されてきた同種の装備とはその性能が全く異なります。

そもそも、電子戦とは相手が使用するレーダーや通信システム、ミサイルのシーカーなどから発せられる電波を傍受し、それを解析して妨害電波を発信し、これを無力化するというものです。

SEWIP Block IIIでは、相手が発する電波の種類やその位置をこれまでよりも正確に分析することができます。妨害に関しても、電波の送受信部を「アクティブ電子走査アレイ(AESA)」アンテナとすることにより、細いビーム状の電波を形成してピンポイントかつ強力な電波妨害を全方位の目標に対して行うことができます。

また、SEWIP Block IIIはソフトウェアベースのシステムであるため、仮に新たな脅威が登場したとしても、それに対応する新たなソフトウェアを開発してインストールすることで、物理的な変更を一切加えることなくこれに対応できるようになります。

しかも、今後はSEWIP Block IIIを他の艦艇や航空機などと情報を共有するための通信システムとして、あるいは接近する敵を探知するためのレーダーとして、活用することも可能になるとか。

現在のところ、アメリカ海軍はこの能力向上改修を「ピンクニー」を含めた4隻のアーレイバーク級に対して実施する計画です。もしかすると、いずれ改修を受けた艦を日本でも見ることができるようになるかもしれません。

「アーレイバーク級能力向上改修2.0」を受け、艦橋脇に大きな張り出しが付いたアメリカ海軍の駆逐艦「ピンクニー」。赤線で囲った部分が新型の電子戦システムAN/SLQ-32(V)7(画像:アメリカ海軍)。