阿部サダヲ主演の金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(毎週金曜夜10:00-10:54、TBS系)が現在放送中。 “意識低い系タイムスリップコメディー”と銘打つ本作だが、主人公・市郎(阿部)に訪れる衝撃の未来が明るみになった第5話から、作品の印象がガラリ。笑って泣ける同ドラマは幅広い世代を魅了し、今後の展開にも注目が集まっている。このたび、WEBザテレビジョンでは磯山晶プロデューサーにインタビューを実施。ドラマの誕生秘話やアドリブかと錯覚するほどテンポのいい市郎のせりふに関する裏話、またミュージカルパートを入れることになった理由や、終盤戦に向けての見どころなどについて聞いた。(以下、ネタバレを含みます)

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■ 昭和の“ダメおやじ”が令和へタイムスリップ

同作は、昭和のおじさんがコンプラで縛られた令和の人々に考えるきっかけを与えていく意識低い系タイムスリップコメディー。脚本は宮藤官九郎が務め、プロデューサーは磯山が担当。阿部とは、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)、「木更津キャッツアイ」(2002年)、「タイガー&ドラゴン」(2005年、全てTBS系)でタッグを組んできた2人だ。

同ドラマには、突如1986年から2024年へタイムスリップし、令和では考えられない“不適切”な言動を繰り返す小川市郎役で阿部、バラエティー番組のアシスタントプロデューサーとして働くシングルマザー・犬島渚役で仲里依紗が出演。

また、とあるアイドルに心酔するあまり、その身なり言動すべてを完コピする男“ムッチ先輩”こと秋津睦実とゆとり世代の会社員・秋津真彦を磯村勇斗、市郎と逆で、2024年から1986年に息子と共にタイムスリップする社会学者の向坂サカエを吉田羊、そして、市郎の一人娘・小川純子を河合優実、サカエの息子・向坂キヨシを坂元愛登が演じる他、袴田吉彦、山本耕史古田新太ら個性豊かな面々がストーリーを盛り上げる。

■大量の感想が届き反響を実感「手ごたえを感じています」

――回を重ねるごとに大きな反響を呼んでいますが、磯山さんはどのように受け止めていますか。

オンエア直後からたくさんの感想をいただくので、皆さんに見ていただているんだなという手ごたえを感じていますし、宮藤さんも阿部さんもたくさん感想をもらうとおっしゃっていました。

それに、ゲスト出演された方も「今週仕事に行ったら全員にドラマの話をされた」と言っていたので、反響ってこうやって大きくなっていくんだなと感じています。

――本作はオリジナル作品ですが、どのような流れで誕生したのか、その経緯を教えてください。

1986年から2024年にタイムスリップをする中年のおじさんの物語にしよう」という話になったのですが、そもそも2024年にその人は生きているのかなという議論になって。話し合いの中で「娘と一緒に亡くなってしまっているという設定はどうだろうか」という案が出ました。

結局、タイムスリップする時点で過去から来た登場人物が、現代を生きる自分に会うかどうかは大きな問題なので、かなり早い段階から「2024年には生きていない人の話」ということは決めていました。

ですが、その事実を明かすことを第5話で描こうと決まったのは、第1話を書いている時期だったと思います。最終回で明かしてしまうと重くなってしまうので「早いうちにやっておきましょう」と宮藤さんから提案されました。

阿部サダヲ宮藤官九郎の間には「きっと暗黙の了解がある」

――阿部さんとのやり取りで印象に残っていることはありますか?

ドラマの主演が決定したことについて、事務所の方からご本人に伝わるまでこちらから特に連絡はしていなかったのですが、ある日阿部さんご本人から「お話聞きました、頑張ります」という内容の連絡が来たんです。

なので、「意識低い系のおじさんの役です」と返したところ、阿部さんからご自身が笑っているスタンプが送られてきたことが印象的です(笑)。すぐに“理解してくださったな”と感じました。

――放送スタート前に「阿部サダヲさんという役者を一番光らせるのは、宮藤官九郎脚本だと心から思う」とコメントされていましたが、これまでの撮影を振り返っていかがですか?

宮藤さんは、阿部さんが劇中に登場する乱暴な言葉をどういう風に言うか想像した上で(台本を)書いているのだろうなと思います。台本には「ブス」とか「メスゴリラ」といったワードがあるのですが、こういった言葉を発する時のさじ加減が私よりも二人の方が分かり合っているなと感じています。

正直、第1話には文字面だけ見ると「これ面白くなるかな、こんなひどいこと言って」と思う部分があったのですが、二人のあうんの呼吸で魅力的に仕上がりました。大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年、NHK総合ほか)で阿部さんが演じた“まーちゃん”こと田畑政治がベースになっていると思うのですが、今作はそれを進化させた感じなのかなと。きっと二人の中に暗黙の了解があるんだろうなと思って、ずっと見ています。

細かい部分にはなるのですが、阿部さんは語尾を含めかぎかっこの中をほぼ変えていないので、シナリオ本が出たらぜひそこを確認してほしいなと思います(笑)。

――磯山さんが「さすがにこれは不適切じゃないか?」と思ったワードがあれば教えてください。

このドラマにはさまざまな固有名詞が出てきます。もちろん宮藤さんも気をつけながら書いてくださってはいるのですが、マイナスなイメージを生むようなイジりはやめようという話はしています。

強いて挙げるとすれば、第1話で市郎がノックをしながら「男のくせに女の腐ったような!もやし野郎め!」と叫ぶシーンがあるのですが、台本上では市郎のせりふの間に“カキーン”って書いてあって。

きっとボールがバットに当たる音であまり聞こえないことを想定していたと思うのですが…そんなにうまい具合にノックはできないので、最初から丸聞こえで(笑)。

でも、校長室のシーンでサカエが全て否定してくれるので「まあいいのかな」と思ったんです。そういった発言をしっかり否定してくれる人物は必要だなとは感じました。

■物語は終盤戦へ、第8話は「市郎さんの今後の生き方が見えてくる」

――ミュージカルパートには衝撃を受けた視聴者も多かったと思いますが、なぜドラマにミュージカルを取り入れることになったのでしょうか?

また「いだてん〜東京オリムピック噺〜」の話になってしまうのですが、ロサンゼルスオリンピックで選手村に行く回で、阿部さんを含む選手団が躍るシーンがあって。宮藤さんに「私も『いだてん』のようなシーンをやりたい!」と相談したのと、映画「RRR アールアールアール」(2022年)を見まして、「劇中で歌って踊るシーンがあるのもいいよね」という話をしていたんです。

阿部さんは大河では踊ってはいるのですが、歌っていなくて…でもバンドや舞台などで歌っている姿もとてもすてきなので、そういうシーンがあった方が阿部さんの魅力がより伝わるのではないかと考えていたら、吉田さんもソロリサイタルで歌を披露されていて。

実はみんな歌がうまいんだなと思い、ミュージカルシーンを入れることになったのですが、そこで宮藤さんが「いっそのことテーマを歌うのはどうですか?」と提案してくださり、結果大事なことは歌で伝えることになりました。

――第6話で初歌唱した河合さんの美声も話題になりました。

実は、ドラマスタート前に「バナナサンド」(TBS系)内の企画「ハモリ我慢ゲーム」に出演いただく予定だったのですが、その際に「歌は得意です」とおしゃっていたんです。結局、番組には諸事情で出演できなかったので、私たちは河合さんの歌声を聞かないままクランクインをしました。

そんな中、第6話で満を持して歌っていただくことになりまして。事前に歌を録音するのですが作曲家の先生も「デビューすればいいのに」とおっしゃるほど上手で…ダンスもうまいですし、多才ですよね。

――最後に第8話の見どころと、読者へのメッセージをお願いします。

第8話は「1回しくじったらダメですか?」がテーマなのですが、一度不倫をしてしまったら許されないのかを描きます。不倫だけじゃないとは思うのですが、世間が受け入れる謝罪や復帰のタイミングって得体が知れないから…。

よく宮藤さんと「あの人は許されて、この人が許されないのは何でだろう」という話をよくしているので、そういうことをドラマでやってみたら面白いかなと思い、選んだ題材です。

そして、市郎としてはそろそろ昭和へ帰らないといけないというタイムリミットが迫る中で、自分がここにいる意味を模索しながら、令和の人に世話を焼いちゃう回。世の中の“許す、許さないの境界線”、そして市郎さんの今後の生き方が見えてくる回です。とにかく楽しんで見ていただけたらと思います!

「不適切にもほどがある!」磯山晶プロデューサーにインタビュー!/ (C)TBS