航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が能登半島地震の被災地上空を飛ぶことが決まりました。これに対して、SNSなどでは「ほかにやることあるだろう」との声も。しかし、内情は違うようです。

なぜ地震の被災地で曲技飛行するの?

2024年2月27日、木原防衛大臣は国会において、能登半島地震の被災者を激励する目的で、被災地における航空自衛隊の曲技飛行隊「ブルーインパルス」の飛行展示を実施する方向で調整していることを発表しました。この飛行展示は、被災地の人々に対する心の支えとなることを目的とした行動と、防衛省航空自衛隊は位置づけている模様です。

この発表に対して、SNSなどではブルーインパルスの展示を歓迎する投稿が数多くあがった一方で、政府の決定に反発する声も相次ぎました。特にX(旧Twitter)では「ブルーインパルス」がトレンドワードになるなど、大きな話題となりました。

批判的な意見の多くは、「ブルーインパルスを飛ばすよりも先にすべきことがある」や、「限られた予算をブルーインパルスではなく被災地支援に使うべきでは」というものでした。しかし、これらの意見は誤解に基づいていると言えます。

ブルーインパルスの飛行展示そのものは災害支援活動に何ら有益でないという点は事実と言えますが、能登半島地震における自衛隊の活動は陸上自衛隊中部方面隊と、その指揮下にある第10師団が中心となって3月現在も継続して実施されています。逆にいうと、ブルーインパルスすなわち航空自衛隊第4航空団第11飛行隊は一切関与していません。

なお、ブルーインパルスの離着陸は大きな被害がなかった石川県小松基地で行われます。したがって、ブルーインパルスが飛行展示を行ったからといって、災害派遣に必要な物資を無駄に消費したり、活動に影響を与えたりすることはないと断言できます。

また、ブルーインパルスの活動予算についても誤解されていると言えるでしょう。

前年中に「ブルーインパルス」の北陸行き決まってた!?

そもそも、ブルーインパルスが飛行展示するのに、どれくらいの費用が必要なのでしょうか。それについては、航空機そのものの価格やパイロット、整備員の人件費など飛行の有無に関わらず発生する費用、燃料など飛行の都度必要になる消耗品の費用など、条件によって大きく変動するため一概には言えませんが、最低限必要である燃料の価格だけでも数百万円と推定されます。

このお金の出どころは「令和5年度(2023年度)一般会計予算」であり、2023年の3月に衆議院と参議院本会議で審議され成立した「防衛費」6兆7880億円の中から賄われています。

なお、地震発生前の2023年中に、「北陸新幹線石川県内全線開業イベントにおけるブルーインパルス展示飛行」として活動予定は組まれていました。

要は、このときすでに石川県の小松基地を拠点に北陸新幹線の沿線自治体の上空を飛ぶことが決まっていたと言えます。それを、震災が起きたことから、さらに追加でもう一回飛行ルートを調整して被災地上空も飛行するように改めたというものです。

そのため、被災地上空を飛行するといっても、当初の北陸新幹線延伸開業の祝賀飛行に、おそらくいくらかの(恐らく百万円程度)燃料費が加算される程度でしょう。いずれにせよ防衛予算の中のブルーインパルスのための歳出内で行われることです。

曲技飛行専門の部隊がない国も

一方、被災地における活動や復興に必要な予算は「令和5(2023)年度補正予算」や、これから国会で成立することになる来年度の「令和6(2024)年度一般会計予算」の歳出に含まれることになります。ですので、こちらもブルーインパルスが飛行したからといって、増やされたり減らされたり、ということは考えられません。

昨今はすっかり国民的人気を有すようになったブルーインパルスですが、陸海空自衛隊の「音楽隊」などと同様に、自衛隊と国民の接点となる広報活動やリクルート、式典を主任務とする航空部隊です。

そのため、災害派遣はもちろん防衛出動等においても直接的な活動を行う能力を有しません。よって自衛隊の任務において必須と言える存在ではなく、その存在意義については厳しい意見も尊重されるべきではあります。

極めて少数派ではありますがドイツ空軍のように曲技飛行隊を持たない国も存在します。しかしながら、それは能登半島地震とは一切関係のないこと。もしブルーインパルスが必要ないというのであれば、自衛隊の広報活動やリクルート活動などと合わせ、根本から問題提起し、見直す必要があると言えるでしょう。

航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」(画像:航空自衛隊)。