2019年以降の日本は、アイドルにとって冬の時代だと言っても過言ではないだろう。ただでさえアイドルブームが落ち着いてきているところに、いきなりほぼ全てのフェスやライブが中止となって活動すらままならなくなったばかりか、YouTuber、Vtuberら配信者の台頭や、エンタメの一極集中化など、相次ぐ逆風によって解散・活動休止に追い込まれたグループは数えきれない。

この状況下でしぶとく生き残り、着実にファンを増やし続けているアイドルグループをご存じだろうか。それが、「マジカルパンチライン(通称・マジパン)」だ。ガラガラのステージからスタートして、初代リーダー兼プロデューサーの卒業、レコード会社からの契約解除、主要メンバーの一斉卒業など、美談だけでは語れない道を歩むも2月24日にZepp shinjuku(東京)で開催した8周年ライブのチケットは完売御礼。世間的にはまだ”無名”かもしれないが、”実は売れている”グループなのだ。今宵はそんな彼女たちのたくましさと、ライブの舞台裏をお届けしたい。

◆事務所を退所したメンバー、活動休止中のメンバーも集まった特別な“同窓会

8周年のライブの目玉の一つが“卒業生”が全員集結すること。実はマジパンからは、’18年3月に創設者の佐藤麗奈’20年12月に浅野杏奈、小山璃奈(当時は小山リーナ名義)、清水ひまわり’21年9月に吉田優良里が卒業し、現メンバー5人の内、“初期メン”はリーダーの沖口優奈しか残っていないのだ。しかも卒業生5人中3人は表立った活動を発信しておらず、さらにその内2人は事務所も退所済。それが一同に会すということが異例であることは想像に難くないだろう。一人ずつ話を聞いていくと、二つ返事で出演をOKした者から悩んだ者まで三者三様だったようで……。

佐藤麗奈さとうれな・卒業生)「私はすぐにOKしました! 私が始めたグループが、私や初期メンバーがいなくなってもこうして続いてくれてることが嬉しいし、今日がマジパンのまた新しいスタートの日になればいいなって思ったので。10年、15年と続いて欲しい! 逆に私自身は、新しく自分のやりたいことを探していこうと思っています」

小山璃奈(こやまりな・卒業生)「私も迷わず出演を決めました。だってみんな集まるってなんか楽しそうじゃないです~! パフォーマンスへの不安? 全然ないです!『現役生には負けねえぞぉ~』って気持ちでステージに立ちます! なんですけど…さっき衣装を壊しちゃったんですよね(笑)。そういえば現役生だったときにもレッスンに靴を持っていくのを忘れて1人だけ靴下で踊ることになったこともあったなあ」

吉田優良里(よしだゆらり・卒業生)「私は悩みました。元々辞めたくて辞めたわけじゃなくて、体調不良で辞めることになってしまったので。当時も気持ち的には続けたかったから、こういう形で戻ってくることが少し複雑というか……。でも、『今の私は元気だぞ』ってところを皆さんに見せたくて! 根性だけが自分の強みだと思ってますし! それに実は今、頑張ってることがあるんですよフフフ。うまくいかなかったら恥ずかしいし、今もファンでいてくれてる皆さんを『え⁉ ゆらりすごいじゃん!』って驚かせたいので中身はまだ内緒なんですけどね(笑)。今日のステージはもちろん、私のXからは目を離さないでください!」

清水ひまわり(しみずひまわり・卒業生)「私は迷ったっていうか、最初は正直出演したくなかったんですよ…。“元マジパン”っていう肩書に助けられることは多くて感謝はしてたんですけど、沖口さんから連絡がきたのが、仕事も体調の管理もうまくいかなくてめちゃくちゃ弱ってて、いろんな人に心配かけちゃってるときだったし。でもそこで沖口さんにポロっと弱音を吐いちゃったことで逆に逃げられなくなって今ここにいるんですよー!! 迂闊に断れないくらい私のことを知られすぎてしまった……(笑)。結果、今はもう無理せずやれることをやればいいんだって達観した気持ちになってます」

浅野杏奈(あさのあんな・卒業生)「卒業については私を含め3人同時になったこともあって、ファンの方にご心配とご迷惑をおかけしてしまいました。えっ!? 私が卒業した本当の理由ですか……実は『20歳になったら一度立ち止まって将来を考えよう』って決めてたんです。自分には何ができるのか、本当にやりたいことは何なのか。大学の友人たちが就活を始める中、私自身も芸能のお仕事を辞めて就職するのか、女優という夢を追い続けるか、しっかりと考えて卒業を選択しました。なので今回声をかけてもらったときも、『自分のわがままを通して抜けた私がここに戻ってきていいのかな』っていう葛藤はありましたね。結局『呼んでもらったからにはやるしかない!』って思って参加させてもらいましたけど! そしたら現メンバーが、私が跡をにごしたことなんて払拭するくらいに頑張ってくれていて。特に(吉澤)悠華!! リハで『これから、私!』という曲の”イチから集めればいいじゃん“って歌詞を、卒業生の模倣じゃなく自分なりの歌い方で歌ってるのを見て、感動しちゃいました。あ、でも楽屋はキレイに使うように!(笑)」

◆「ロボットみたいと指摘されて…」コンプレックスを乗り越えて挑んだ8周年ライブ

この日のライブでは全20曲を披露。現役メンバーたちは本番に向けてこの1年間、特に直近の2ヶ月は定期公演も休止して毎日リハーサルとレッスンに励み、声の出し方から振り付けの細かい部分まで徹底的に磨き上げてきたという。

山本花奈(やまもとはな)「自分はメンバーの中でも特に”緊張しい”なのですが、Zeppが決まった1 年前からこの日 に向けてずっと準備をしてきて、さらに怒涛のリハーサル期間を乗り越えてきたので、今日は自分でも怖いくらい緊張せず、自信をもって本番に臨んで、ライブを楽しむことができました! 『ここでウインクしたい』とか『ここでメンバーと絡みたい』とか、やりたいことも全部できたし、ライブ中メンバーやファンの方の楽しそうな顔をよく見れて私も本当に幸せなライブでした!」

益田珠希(ますだたまき)「私は21年2月に加入したんですけど、とにかくずっと自分に自信が持てなくて。歌もうまくないし、表情も硬くて『ロボットみたい』って指摘もされるし、キャラが立ってるわけでもないし……。どうしたらいいかわからなくて、ライブやイベントが終わった後、家に帰ってからいつも悔しくて泣いてました。でも、たくさんのステージを経験するうちに徐々に自身が持てるようになってきて、最近はステージでも笑顔が増えたと思います! 今日は『会場に来てくださったお客さん全員と目を合わせたい!』っていう気持ちで本番に入って、全力で楽しむことができました! 自己採点は70点! 今できる最大限は頑張れたと思うけど、まだまだ自分を見つめ直して足りない部分を研究しないといけないと思ってます」

宇佐美空来(うさみそら)「Zeppでできるって決まった時は、『えっ⁉ Zeppってなんだっけ⁉』ってくらい気持ちの整理もつかず、ただただビックリしてました。自分のパフォーマンスのクオリティが思うようにいかなくて、悩んでた時期でもありましたし。そこから、1 年後にZepp のステージに立つ自分を想像したときに、『今のままじゃなく、少しでもステージ上で堂々とパフォーマンスが出来るようになりたい!』って思って、レッスンを頑張るのはもちろん、Zeppでライブされている他のアーティストさんの映像をひたすら見たり、ライブに足を運んで勉強したりしてきました。今日は、沢山のスタッフさんが準備してくださったライブのセットや演出、本番中に聞こえてくるメンバー声とか熱、そして何より会場を満員にしてくださったファンの皆さん、もう全てが最高でした!!」

◆苦労を分かち合った2人、最後は抱き合って自然と涙が……

卒業生の5人とも、’21年に加入した3人ともまた少し違う気持ちでライブを迎えたのが、’19年に加入した吉澤悠華と、今や唯一のオリジナルメンバーとなったリーダーの沖口優奈だ。集客が目標に届かないツラさやグループ崩壊の危機など、並々ならぬ苦労を経験してきた2人でもある。

吉澤悠華(よしざわはるか)「最初の1年間は本当にツラくて苦しかったです…。(卒業生の)先輩たちは全員“出来る”状態なので、そこに追いつくことと怒られないことに必死で、足を引っ張るのが怖くて、正直歌とダンスでは先輩に隠れて目立たないようにしてた頃もありました。それでも当時のマネージャーさんやスタッフさんからめちゃくちゃ叱られて毎日泣いてましたけど! 今は(スタッフさんが)みんな優しいから、あの怖い時代を知らない現メンバーがちょっと羨ましいです(笑)。それに、特典会でも自分の列はすぐに終わってしまうし、歌詞割もないしでたくさん悔しい思いもしました。それが今は、罰ゲームを頑張るそらちゃん(宇佐美空来)を、お母さんのような気持ちで見つめられるようになりましたし、今日のライブも1曲目の『ぱーりないと!!』で銀テープが飛び出す瞬間の一発勝負のパフォーマンスも無事に成功させることができました!!」

沖口優奈(おきぐちゆうな「初めてZeppでのライブを目標に掲げたのが5年前かな? 振り返ると、私たちは他のアイドルさん、アーティストさんたちと比べて、目標に届くのに時間がかかったグループだと思っています。だから、1年前の7周年ライブで”来年はZeppで開催”って発表されたときも、嬉しかったんですけど、『本当に席を埋められるんだろうか。空席だらけになってしまったらどうしよう』っていう不安も大きくて。でもやっと迎えた夢の舞台だし、ビラ配りをメンバーでさせてもらったり、手売りチケットを取り入れたり、1人でも多くの方にライブに来てもらいたいって思って、日々の活動に取り組んできました。そしたらチケットが完売して……“マジファン”の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです! MCでも話しましたけど、『アイドルをやっている最中に“夢がかなった”って感じられる瞬間』ってそこまで多くないと思うんですよ。今日は間違いなくそれを感じられた日です!そのおかげで、もっともっと大きい会場でもやってみたい、Zeppでツアーをして“全国で完売”を味わいたいetc…って次の野望への欲も出てきちゃいましたけどね(笑)」

一緒に頑張ってきた浅野杏奈、小山璃奈、清水ひまわり、そして吉田優良里らメンバーが卒業していく中、沖口と吉澤もやはり複雑な思いを抱いていたという。

吉澤「実は去年、私も卒業を考えたんです。大学との両立も大変だし、自分のやりたいことが何なのか分からなくなってきちゃって。スタッフさんにも言う覚悟を決めて、その日を予定帳に入れてました。でも直前に好きなアーティストさんのライブに行ってその方が頑張ってる姿を見たら、『やっぱり自分ももうちょっと頑張ろう』って気持ちが変わったんです。今回のZeppのライブ終わりに優奈ちゃんと泣きながらハグしたときに、『続ける道を選んでよかった』って心から思いました」

沖口「私も7周年を迎えた去年、ふと自分が何のためにアイドルをしてるのかが分からなくなってしまった時がありました。それまでは、麗奈(佐藤麗奈)や杏ちゃん(浅野杏奈)たちが卒業してしまったときも含めて、私がアイドルを辞めたいと思ったことは本当に1度も、1mmもなかったんです。他のメンバーの卒業はそれぞれがすごく悩んだうえで決めたことだし、自分の進む道を決めたってことでもあるから、『応援しよう』って気持ちしかなくて。それで、去年初めて自分自身に疑問が湧いちゃった時に、素直にスタッフさんに相談してみたんですよ。そしたら、『沖口の人生だから思うようにやればいいよ』って言ってもらえて。それで逆に『あれ、なんで悩んでたんだろう? 私はアイドルをまだやりたいんじゃん』って思えたんです。今日のライブで一つ夢が叶ったけど、まだまだ道半ばだし、もっと“マジファン”を増やしたい、顔を見たい、もっと大きなステージに立ちたい、47都道府県を制覇したい。夢を叶えるまで私はアイドルを続けます! マジパンを守り続けたいですね」

さまざまな立場と気持ちが交錯したマジカルパンチラインの8周年記念ライブは、傍から見ると間違いなく成功だった。しかし、リーダーの沖口は「今回のZeppライブは本当にありがたいことにチケット完売だったけども、これは椅子を入れる想定での満席。次は最初から全席スタンディングでの完売・満席を目指したい」と地に足の着いた現状分析と目標を語る。その前を向きつつも着実な足取りでこれからわれわれにどんな景色を見せてくれるのか、引き続き楽しみにしていきたい。

<取材・文/SPA!取材班、撮影/星 亘(本誌)>

セットリスト
M1 ぱーりないと︕︕
M2 Melty Kiss
M3 マジ☆マジ☆ランデブー
M4 マジカルジャーニー・ツアー0
M5 Spotlight
M6 名もなきヒーロー
M7 108煩悩BOMB
M8 Alright 03:32
M9 Shiny Shoes  ◂吉澤悠華推し曲
M10 マジカル・トキメキハイビーム(新曲) ◂宇佐美空来推し曲
M11 万理⼀空Rising Fire!
M12 私が私を燃やす理由
M13 ひとかけら
M14 もう⼀度 ◂沖口優奈推し曲
M15 ONE
M16 渚のサーフライダー ◂吉澤悠華推し曲
M17 あいわなびー
M18 これから、私︕ ◀山本花奈推し曲
ENCORE
M19 今⽇がまだ蒼くても ◂益田珠希推し曲
M20 マジカル・トキメキハイビーム(新曲・2回目) ◂宇佐美空来推し曲
M21 めろめろーりんぐ
M22 ぱーりないと︕︕(2回目)

マジカルパンチライン プロフィール】
’16年2月に佐藤麗奈、沖口優奈、浅野杏奈、小山璃奈、清水ひまわりの5人でデビュー。レコード会社移籍(ポニーキャニオン→ドリー・ミュージック)、沖口以外の4人および吉田優良里の卒業を経て現在は沖口優奈、吉澤悠華、益田珠希、山本花奈、宇佐美空来の5人組で活動中。国内最大級のアイドルフェスである東京アイドルフェスティバルの常連となっている他、2月24日には初のZeppワンマンライブのチケットをSOLD OUTし成功させた。3rdアルバム『MAGiCAL BOX』が6月19日に発売予定