ユニセフが支援するインクルーシブ学習センターを訪れるユニセフ・シリア事務所副代表の根本巳欧(シリア・アレッポ)(c) UNICEF Syria_2024

【2024年3月14日 東京発】

明日、シリア危機が勃発してから13年になります。長く続く紛争状態に加え、昨年トルコとの国境近くで発生した大地震や経済危機に見舞われ、困難な状況にいたシリアの子どもたちとその家族は、ますます脆弱な立場に追いやられています。

現地の様子と支援の成果、今後の課題とユニセフの取り組みについて、首都ダマスカスから、ユニセフ(国連児童基金)シリア事務所の根本巳欧副代表が報告しました(本配信は、トルコシリア地震から1年経つに際し2月2日に開催したオンライン記者ブリーフィングの内容をまとめたものです)。

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■ シリアの現在の状況について

シリアの子どもたちは、深刻化する経済危機、10年以上にわたる激しい紛争、大量の避難民、荒廃した公共インフラにより、世界で最も複雑な人道的状況に直面しています (C) UNICEF_UN0781628

震災発生から1年が経ったシリアの現状ですが、「紛争」「経済危機」「社会経済基盤の崩壊」「残る人道支援のニーズ」の4点からご紹介したいと思います。

まず一つ目、シリアにおける紛争は、この3月で13年目を迎えます。長期に及ぶ紛争のため、国内はさまざまな勢力によって分断されています。私が普段勤務する首都のダマスカスからはアクセスができない地域もあります。アクセスができない地域に関しては、隣国トルコのガジアンテップから越境支援を行っています。こうした国内のアクセスに関する課題は紛争下での震災支援を難しくしており、これは今後も続くと思われます。

そして二つ目は経済危機下にあることです。震災と紛争だけではなく、経済危機は脆弱な家庭に特に大きな影響を与えています。ウクライナを含めた世界各地での衝突による食料や燃料の価格上昇、世界的な物価高、制裁による外貨不足など、経済危機の要因は複合的です。現在90%以上の人々が、1日2.15米ドル未満で暮らす「貧困ライン」以下の生活を余儀なくされており、そうした人々をいかに支援するかという課題がまだ残っています。

三つ目には、社会経済基盤が崩壊している、ということです。シリアでは紛争のため、震災前よりさまざまな社会サービスが崩壊していました。今後は学校や病院などのインフラを立て直し、そこで働く人々の研修や能力開発を行う必要性があります。

最後に、震災から1年が過ぎた今でも、シリアで支援を必要とする人はまだ大勢いる、ということです。およそ2,100万人いるとされる人口のうち約4分の3が支援を必要としており、そのうち子どもは700万人もいます。学校に通えていない子どもは250万人以上います。加えてユニセフの推定によると、現在通学できていても、今後さらに約60万人の子どもが退学せざるを得ない可能性があるのです。

■ 残る課題について

課題はまだ山積しています。例えば国連安保理は昨年7月、トルコ側からシリアへの越境支援に関して、期間延長の合意ができませんでした。現場レベルで調整しつつ現在でも越境支援は続けられていますが、安保理の後ろ盾がない中で今後どのように続けるか、考えなければなりません。また国連の経済制裁下では、多くの制約があります。使途に制約のない、柔軟に活用できる活動資金の確保も、復興に重要となっています。

課題を一つひとつ解決しないことには、子どもたちが学校に通わずに働かざるを得なくなったり、結婚せざるを得なくなったり、と中長期的にさまざまな形で影響が出てきてしまいます。

■ 日本の皆さまへのメッセージ

(C) UNICEF Syria

これまでシリアで起きた震災に関することを中心にお話をさせていただきましたが、先日の能登半島地震でも、震災により多くの方が影響を受けていることと存じます。被災された方々に、心からお見舞い申し上げます。

ユニセフシリア事務所の代表、そして副代表の私、とトップ2が日本人です。そういった縁から、日本人を支援の“顔”として現地の方々は捉えているようで、日本からの支援に本当に感謝している、と現地の方からしばしば聞きます。特に、震災に何度も苦しんだ日本が持つ知見に対する期待、というのは感じており、今後それらを生かす方法も考えたいと思っています。また、能登半島の地震のニュースを目にした多くの方から、日本は大丈夫だったのか、何か支援することができないか、こちらから発信できることはないか、と聞かれ、心配されることもありました。一日も早い復興と復旧を願う気持ちは、シリアの人たちも一緒です。

シリアの人と話をすると、このように国際的な状況に関して大きな関心を持っていることを感じます。特に中東情勢には敏感になっており、各周辺国での不安定さが増すにつれ、シリアに対する世界の関心がどんどん薄れていくことを危惧する声も聞きました。私からは、シリアの子どもたちを忘れないで、と皆さまにメッセージを伝えたく思います。

現在ユニセフシリア事務所は、約600億円の資金を国際社会に要請しています。540万人の子どもを含む、850万人が支援を必要としていますが、現在8割近くの資金が不足しています。引き続き日本の皆さまからのあたたかなご支援をお願いできれば、幸いです。

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■ 記者ブリーフィングのまとめ全文はこちらをご覧ください。

https://www.unicef.or.jp/event/report/20240202/ 

シリアに関するこれまでのユニセフの発信については、こちらをご覧ください。

https://www.unicef.or.jp/children/children_now/select.html?tag=syria

■ 登壇者プロフィール

ユニセフシリア事務所副代表 根本巳欧(ねもと・みおう)

東京大学法学部卒業後、米国シラキュース大学大学院で公共行政管理学、国際関係論の両修士号取得。外資系コンサルティング会社、日本ユニセフ協会を経て、2004年4月にジュニアプロフェッショナル・オフィサー(JPO、子どもの保護担当)として、ユニセフシエラレオネ事務所に派遣。子どもの保護担当官としてモザンビーク事務所、パレスチナ・ガザ事務所で勤務後、東アジア太平洋地域事務所(地域緊急支援専門官)を経て、2016年10月からUNICEF東京事務所に勤務。2020年12月から2021年4月まで同事務所長代行、2021年3月から6月までソウル事務所長代行を務め、2022年5月から8月まで緊急支援調整官としてブルガリア事務所勤務。2023年2月からユニセフシリア事務所で副代表として勤務。

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■ ユニセフシリア緊急募金」 ご協力のお願い

シリアの最も支援を必要としている子どもたちとその家族に支援を届けるため、(公財)日本ユニセフ協会は、ユニセフシリア緊急募金」を受け付けています。詳しくはこちらをご覧ください。

https://www.unicef.or.jp/kinkyu/syria/ 

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ユニセフについて

ユニセフUNICEF国際連合児童基金)は、すべての子どもの権利と健やかな成長を促進するために活動する国連機関です。現在約190の国と地域※で、多くのパートナーと協力し、その理念をさまざまな形で具体的な行動に移しています。特に、最も困難な立場にある子どもたちへの支援に重点を置きながら、世界中のあらゆる場所で、すべての子どもたちのために活動しています。ユニセフの活動資金は、すべて個人や企業・団体からの募金や各国政府からの任意拠出金で支えられています。 https://www.unicef.org/

ユニセフ国内委員会(ユニセフ協会)が活動する33の国と地域を含みます

日本ユニセフ協会について

公益財団法人 日本ユニセフ協会は、33の先進国・地域にあるユニセフ国内委員会の一つで、日本国内において民間で唯一ユニセフを代表する組織として、ユニセフ活動の広報、募金活動、政策提言(アドボカシー)を担っています。 https://www.unicef.or.jp/

配信元企業:公益財団法人日本ユニセフ協会

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