原子力空母ジェラルド・R・フォード級の「ジェラルド・R・フォード」は世界一高価で巨大な空母ですが、それより80年近く前、アメリカは似たような大型空母を作ろうとしたことがあります。

空軍に核戦力を独占させるのは断固阻止!

アメリカ海軍最新の原子力空母、ジェラルド・R・フォード級の「ジェラルド・R・フォード」。2022年10月4日に配備された同艦は、建造費が1兆9000億円近くかかっており、世界で一番高価かつ巨大な空母とされています。

しかし、それより80年近く前の1949年4月、ボイラーと蒸気タービンで動いていた時代の空母で、同じような超大型空母の建造が計画されたことがありました。空母「ユナイテッド・ステーツ」です。

同艦は全長331m、最大幅60.1m、満載排水量8万3350トンとなる予定だった空母で、この大きさを上回る通常動力の空母はなく、1961年原子力空母「エンタープライズ」が就役するまで、数値上は最大の空母でした。

当時はまだジェット戦闘機が出始めた頃で、ジェット機を運用するために空母が大型化していく以前に計画された同艦は、常識を覆すような大きさでした。第二次世界大戦中に建造され戦後もしばらく使われた量産型の空母エセックス級と比べると、倍以上の排水量がありました。

なぜ、これほどまで大きな空母が必要だったかというと、当時の核兵器戦略が関係しています。

当時はまだミサイルの技術が発展しておらず、核攻撃は戦略爆撃機が行うものとして考えられていました。そのため、1947年に陸軍から独立したばかりの空軍がその任務を担当することになります。

しかし、それでは面白くない海軍は、空母艦載機に同様の核攻撃能力を持たせることを要請します。その方法とは、核爆弾を搭載した戦略ジェット爆撃機を飛行甲板から発進させ、ソビエト連邦やその同盟国の軍事施設を核攻撃するというものでした。

空母からの発進であれば、地上の爆撃機よりも飛行ルートは察知されにくくはありますが、当時の核爆弾はまだ大型であり、かなり大きな飛行甲板が必要ということで、同艦の建造計画が立ち上がりました。

建造開始からわずか5日後に計画中止!

「ユナイテッド・ステーツ」は、甲板上に艦橋などの建造物を一切置かない「フラッシュデッキ」と呼ばれる飛行甲板を採用し、12~18機の大型爆撃機を発艦させる核爆撃機の母艦になるべく計画されました。当初はまだソ連が核実験を成功させる前でしたが、近い将来に成功させるだろうと予想されており、そうした核の脅威に対抗する必要があったのです。

発進には4つのカタパルトが使用され、ふたつは船首に、他の2つは甲板の外端に配置されました。当時、船体後部に斜めの飛行甲板を置き発艦・着艦を同時に行う「アングルド・デッキ」は誕生していません。そのかわりに「ユナイテッド・ステーツ」では、広めにとった後部飛行甲板に航空機を着陸させると同時に、カタパルトから航空機を発進できる設計が考えられていました。

同艦は1949年4月18日からバージニア州ニューポートニューズにあるニューポートニューズ造船所で建造が開始されます。建造費用は現在の貨幣価値で2700億円ほどと推測されています。通常動力の空母としてはかなりの価格です。

しかし、そのわずか5日後の4月23日に建造中止の命令が下ります。海軍に対し、陸軍および空軍からの強い反対があったからです。

この頃空軍では、新型の戦略爆撃機であるB-36の配備を進めていました。同機はB-29倍以上の爆弾を搭載でき、当時開発中だった水爆の搭載機としても有効と見られていた一方、「ユナイテッド・ステーツ」は予算の無駄と判断されたのです。こういった経緯もあり、同艦は「アメリカ空軍が撃沈した唯一の空母」とも言われています。

ただその後、空母の核搭載も実現します。核爆弾の小型化や艦載機の能力向上などもあり、1950年ミッドウェイ級航空母艦の2番艦である「フランクリン・D・ルーズベルト」に実装されました。また、大型空母というプランも1951年7月にフォレスタル級空母として復活し、その後、原子炉を動力化することで、「ユナイテッド・ステーツ」を超える大型空母建造の道も開けることとなりました。

アメリカ海軍の最新原子力空母である「ジェラルド・R・フォード」(画像:アメリカ海軍)。