群れで社会生活を行っているサルもまた、人間と同様に仲間からの”同調圧力"を感じているようだ。
新たな研究では、古巣を抜けて別の群れに移住したサルが、それまでとは違う慣習に合わせて行動するようになることが観察されている。
このような社会的適合が実験以外の状況で観察されたのは初めてだそうで、サル社会でも、「郷に入れば郷に従う」行動を長きにわたって受け継がれている可能性があるという。
人間以外の動物たちも「慣習」(たとえば、道具の使用など)を育むことがある。
だが、これまでの研究は、ある動物に慣習があるかどうかばかりに注目し、その機微を読み取ろうとすることが少なかった。
そこで、スイス、ローザンヌ大学(をはじめとする研究チームは、9年にわたってベルベットモンキー250匹を観察し、そんな彼らの社会的な機微に触れている。
ベルベットモンキーは、アフリカに生息するオナガザル科の旧世界ザルで、10匹から50匹の群れを形成し、高度な社会生活を営んでいる。メスは生涯同じ群れで過ごすが、オスは成長すると別の群れに移っていく。
『iScience』(2024年1月19日付)に掲載された研究で分析されたのは、ベルベットモンキーの3つの群れで観察された8万4000回以上の社会的なやり取りだ。
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群れによって慣習が違うサル社会
この分析では、そのうちの1つの群れには、仲間同士がお互いに毛繕いし合うというユニークな慣習があることが明らかになっている。この群れをここでは「群れA」としておこう。
群れAの一員たちは、ほかの2つの群れに比べ、よくお互いに毛繕いをし合っている。仲間から毛繕いしてもらったサルは、そのお返しに相手にも毛繕いをする。
だから毛繕いという点において、群れAはほかの群れよりもずっと公平だ。
これについてローザンヌ大学のエレナ・ケルジャン氏はこう話す。
もし私があなたに年100回マッサージをしたのに、あなたは2回しかしてくれなかったとしたら、私は不公平に思うかもしれません。私たちがサルの群れで観察したのは、そんな感じの違いです
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群れを移動したサルは空気を読んで行動するようになる
もう1つ面白い発見は、群れを抜けて別の群れに移ったサルが、引越し先のそれまでとは違う空気を読んで、きちんと行動を合わせるようになることだ。
それはどちらの方向にも起きる。例えば、群れAを抜けて別の群れに入ったオスは、それまでと違って社交的でなくなり、毛繕いしてもらった後でお返しをすることが少なくなった。
反対に別の群れから群れAに入ったオスは、きちんとお返しの毛繕いをするようになった。
「オスは自らの社会性を移住先の群れに合わせました。これは社会的適合の好例でしょう」(ケルジャン氏)
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サルも同調圧力を感じ、郷に入れば郷に従う
こうした”郷に入れば郷にしたがえ”的なやり方は、おそらく新しい群れに溶け込むための処世術だと考えられる。
こうしたサルの適合は、エサを使用した実験では観察されていたが、社会的な行動として観察されたのは、初めてのことであるそうだ。
また今回観察されたことは、サルの群れにはそれぞれで異なる社会的慣習があるだけでなく、それが社会的に受け継がれることで、長きにわたり安定して存在するだろうことをも示している。
ただし今の時点でこれは最終的な結論ではない。可能性としては、そうした群れの慣習の違いが、環境のような別の要因によって左右されているとも考えられるからだ。
研究チームは引き続き、サルの社会的な慣習がどのように始まり、受け継がれているのか知りたいと考えている。
とりわけ、ルールに従うよう新入りにプレッシャーをかけるサルの役割に興味があるとのことだ。
References:Scientists Have Discovered That These Monkeys Follow Different Social “Norms” and Respond to “Peer Pressure” / Social dynamics of vervet monkeys are dependent upon group identity: iScience / written by hiroching / edited by / parumo
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