2009年に子役からキャリアをスタートさせ、2022年に映画『すずめの戸締まり』のヒロイン役に抜擢。昨年はNHK大河ドラマ『どうする家康』など大作への出演が相次ぎ、映画『ミステリと言う勿れ』では、第47回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また、テレビ朝日系ドラマ『泥濘の食卓』で見せたサイコパスな女子高生の演技が話題を呼ぶなど、確かな存在感を示している原菜乃華。

最新映画『恋わずらいのエリー』では、自身が目標のひとつに挙げていた恋愛映画のヒロインに初挑戦し、新たな魅力を見せている。今後、さらなる活躍が期待される彼女に『恋わずらいのエリー』についてと、話題作への出演が続く現在の状況について聞いた。

◆「家の鏡で変顔の練習をしました」

――3月15日公開の映画『恋わずらいのエリー』で、ヒロインの市村恵莉子(エリー)役を演じています。キラキラした少女漫画原作の映画に出演することは、目標のひとつだったそうですね。

もともとは恋愛映画でヒロインのライバル役をやるのが夢だったんです。その夢は『胸が鳴るのは君のせい』(2021)という作品で叶ったのですが、次はヒロインもできたらいいなと思っていたので、とても嬉しかったです。

――ドラマ『泥濘(ぬかるみ)の食卓』(テレビ朝日系)では、サイコパスな女子高生役を演じて話題になりましたが、本作はそれとかなりギャップのある役柄でした。

そうですね。やっていて、すごく楽しかったです。妄想シーンでは、変顔や言い回しのレパートリーを増やさなければいけなかったので、それが難しくもあり、楽しくもありで。

――変顔の練習もしましたか?

ものによっては鏡の前で練習しました(笑)。何回もやっているとやっぱり似たようなパターンになってしまって、「ちょっと飽きてきたな〜」って監督に言われるんですよ。そう言われると「おっ、次は何をやってやろうかな」って、毎日わくわくする挑戦状を叩きつけられているような感覚でしたね。

――演じたエリーは学校イチのさわやか王子への妄想をSNSに投稿している女子高生という役柄です。原さん自身も、妄想癖のようなものはありますか?

あると思います。意味のないようなことを考えて、ぼうっとしているうちに2時間経過みたいなことがよくあって。ただ、それはポジティブなものではないことも多くて、例えば「この作品うまくできなかったらどうしよう」みたいに、いま不安に思ってもどうしようもないような生産性のない妄想をしがちです。それよりも、絶対に早く寝た方がいいのはわかってるんですけど。

――撮影の前にそういうことを考えてしまうんですか。

はい。昔から、とにかく心配性なんです。

――あまりそう見えないというか。意外でした。

よく言われます(笑)。でも、これはこれでいいのかなと思っていて。不安に思うから、ちゃんと準備をしようと思えますし、そこは短所でもあり、長所でもあるのかなって。

――となると、準備はしっかりしていくタイプなんですね。

したいとは思ってます。でも、準備していけばしていくほど、空回りしちゃうこともあるので、ノリでいく大切さも絶対にあるなと思っていて。オーディションで、考えて、考えて、考えすぎた結果よくわからなくなっちゃうみたいなこともよくあるんですよ。だから、もっと力を抜いて、楽しみながらやれる術を見つけられたらいいなとは思ってるんですけど。

◆錆びた包丁を綺麗に研ぐ動画を見ている

――エリーはSNSを活用していますが、原さんも世代的にSNSはよく見ていますか?

あまり得意じゃないというか、疎いんですよね。一応、Z世代ってやつなんですけど、未だにフリック入力もできなくて(笑)。親しい友達のグループLINEも、ひとりで2個前の話題に返信したりしてます。練習すればできるようになるよって言われるけど、なんで、みんなそんな早く指が動くのか不思議です。

――YouTubeやTikTokの動画を観ることは?

時間があるときはちゃんとした映像作品を観たいんですけど、作品によっては気持ちが揺さぶられて落ち込んじゃうこともあるので、そういうときには手軽にネットの動画を観たりしますね。

――どういった動画を?

人がひたすら食べていたり、ただプレス機でモノが潰されるだけの動画とか、錆びた包丁を綺麗に研ぐ動画とかは、楽しくて延々と観ちゃいますね(笑)。

――逆に、映画やドラマをみるときはパワーが必要というか。

そうなんです。「ちゃんと見たい」って思っちゃうので、なかなか気軽な気持ちでは観れなくて。

――ちなみに、最近見たコンテンツで良かったものはありますか。

ドラマの『失恋ショコラティエ』を見返して、やっぱ好きだなって思いました。というか、毎年、バレンタインの時期になると、必ず見返してるんですよ。

――キュンキュンという点では『恋わずらいのエリー』にも通ずるところがあるかもしれないですね。今回の作品をどう楽しんでもらいたいですか?

とにかくオミくん(宮世琉弥が演じる近江章)にたくさんキュンキュンできて、エリーの妄想にニヤニヤ、クスクスできます。思っていることを素直に伝えることの尊さみたいなものを教えてもらった気がしますし、春休みや新生活に向けて前向きな気持ちになれる作品だと思うので、たくさんの方に見に来ていただきたいです。

――ちなみに、キュンキュンシーンの撮影で照れたりしませんでしたか?

キュンキュンシーンって、本当にキュンキュンしてる暇がないくらい大変なんですよ。例えば、体の角度はこう、手の位置はここ、ここのスピード感が大事で、ここの距離感はこことか、その距離だと実は相手と目があっていなかったりとか、そういったキュンキュンさせるための技法みたいなのが詰め込まれていて、それを一連の流れでササっとやらなければいけなかったりするので、そんなこと考えていられないというか(笑)。とにかく観ている方が一番キュンキュンしていただけるように、とことん形にこだわっていて。

――職人の仕事ですね。

そうなんですよ。監督やスタッフさんにいろんな技法やキュンキュンの知見をたくさん教えてもらえて、すごく楽しかったです。

◆高校を卒業してから「より貪欲になった」

――原さんは子役として芸能活動をスタートしていますが、もともと芸能界に憧れたきっかけはあったんですか?

ベビーカーに乗っていた頃にスカウトされて、それからオーディションとかに行くようになったので、はじめの頃はあまり記憶がないんですよね。

――もう、自分の意思じゃなく始めて。

半分、自分の意思ではなかったとは思うんですけど、でも、私は『きらりんレボリューション』というアニメが大好きで、主人公の月島きらりちゃんに憧れて芸能界に入ってきました。

――そこから、演技を仕事にしていこうと決めたターニングポイントのようなものはありましたか?

いくつかあったんですけど、小学校1年生のときに短編映画の主演をすることになり、初めてセリフをたくさんいただいて「あ、楽しい」と思ったことが、お芝居をやりたいと思った最初のきっかけです。
あとは、やっぱり高校や大学に進学するタイミングで、普通の学校に進むか、退路断って頑張るか悩んでみたり、節目節目でターミングポイントはあったんですけど、やっぱり最終的には自分にとってお芝居はなくてはならないものだなと思いました。

――確かに、ここ数年で多くの話題作に出演されています。やっぱり、高校を卒業してから仕事への意識が変わったのでしょうか。

そうですね。“これで、ご飯を食べていく!”と、より貪欲になったような気がします。この先どうなるかはわからないので、いまあるお仕事ひとつひとつが次に繋がるように頑張りたいという意識は、より強くなったなと。

――20歳を迎えた昨年は、原さんにとってどんな1年になりましたか?

年末になると、あちらこちらで「1年あっという間」って言葉が聞こえてくるじゃないですか。初めてその感覚が「わかる!」って思いました。
カレンダーアプリでスケジュールを管理していて、お仕事の日を赤色にしてるんですけど、過去イチ真っ赤になったのが嬉しかったです。高校生のときは、芸能科に通ったのにレッスンにしか行っていない日々があって、悩んだりもしたので、本当にありがたくて。夢にまで見た生活を送れていて、本当に幸せです。

――心配症なだけに、その喜びはなおさら大きいのかもしれないですね。

目の前のことにいっぱいいっぱいで、普段はあまり立ち返る時間がないんですけど、街中で自分の映ったポスターがあったりすると、「え!?」と思ったりします(笑)。「冷静に考えて、すごくないか?」みたいな。ついこの前まで、そんなこと夢にも思わなかったので。

――お仕事的にもかなり充実しているんじゃないですか。

やりたいと思っていた目標がたくさん叶いました。小さい頃にこういうお仕事をしてみたいってノートに書き出したんですけど、時代劇は『どうする家康』、恋愛映画のヒロインは『恋わずらいのエリー』でと、やりたかったことが次々にできていることにびっくりしています。『大丈夫だよ』とあの頃の自分の背中をさすってあげたい気持ちですね(笑)。

――ちなみに、いま叶えたいと思っている夢はありますか?

今は「こういうお仕事したい」みたいなのはあまりなくて、ずっと続けていけたらいいなと思っています。
一昨年の『すずめの戸締まり』で声のお仕事をさせていただいて、最近もナレーションのお仕事をやらせていただいんですが、毎回「絶対できない!」と思うんですよ。でも、任せたいと言ってくださる方がいる以上は、精一杯頑張りたくて。それが、のちに自分の好きなことや、仕事の幅を広げることにつながっていくかもと思ったら、何事も「無理」と言わずに挑戦していきたいと思えるようになりました。

――いままで以上に反響をもらうことも多くなっているんじゃないですか。

私はもともと友達がそこまで多くないので、声をかけてくれる子が増えたとかはないんですけど、友達が「原菜乃華好き」って言ってるよ、みたいな報告をチラチラ聞くようになって(笑)。「嘘だ!」と思ってますけど、そう言ってくれるのはすごく嬉しいし、夢みたいで信じられないです。

あとは去年の写真集のイベントで、応援してくださる方と直接お話する機会があったんですが、「〇〇から好きになりました」とか「〇〇見ました、よかったです」って言ってもらえたりすると「あの作品で知ってくださった方が意外と多いんだ」って知ることができたのも楽しかったです。みなさんすごく優しくて、たくさん褒めてくれて、好きって言ってくれて、本当にありがたいなと思いました。だからこそ、もっともっと成長できるように頑張っていかないといけないなって、切実に思いましたね。

【原 菜乃華】
2003年、東京都生まれ。2009年より芸能活動を開始。2022年に映画『すずめの戸締まり』でヒロインに抜擢され注目を集める。以降、映画『ミステリと言う勿れ』、大河ドラマ『どうする家康』、『泥濘の食卓』での演技も話題に。「第47回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞。3月15日公開の映画『恋わずらいのエリー』では、念願の少女漫画ヒロインに挑戦。学園のさわやか王子の妄想をSNSに綴っていた女子高生に起きた衝撃の展開とは……。

撮影/唐木貴央 取材・文/森野広明 ヘアメイク/馬場麻子 スタイリング/山田安莉沙