不確実性が高まるなか、未来予測に基づくビジネスがますます困難を極める現在。一方で、世界は地球温暖化や人口問題、エネルギー問題、国際秩序の変容といったさまざまな難題に直面しており、そこには間違いなく未来を拓く「商機」が潜んでいる。本連載では『グローバル メガトレンド10――社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(岸本義之著/BOW&PARTNERS発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。起業や新規事業の創出につながる洞察を得るべく、社会課題の現状を俯瞰・分析する。 

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 第5回目は、1980年代以降の「製品のグローバル化」から「経営のグローバル化」への流れが日本企業に与えた影響を考察する。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
■第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?(本稿)
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?


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経営のグローバル化が必要になった

■輸出だけではなく開発も生産も

 1980年代以降の貿易摩擦の結果、日本からの輸出によるグローバル化は限界となり、欧米での現地生産を行うことが必要になってきました。

 そのためには現地に生産部門や開発部門などを開設することになり、日本も、「製品のグローバル化」から「経営のグローバル化」に踏み出していったのです。さらには、新興国での生産による低コスト化も目指さないといけなくなり、部品などは新興国で作ることも必要になっていきました。

 そうなると、各国で現地社員による工場運営を行う必要がでてきました。工場の社員であれば、日本の工場に連れてきて短期間研修することで、日本流の生産管理手法を身につけることは可能なので、人材育成もある程度可能でした。

 一方で、開発や、販売や、調達などの仕事も、だんだんと現地社員で行うようになっていきました。これらの仕事は、日本の工場で体験させればいいというわけではありません。

 日本のメーカーの工場運営は世界的に見てもレベルが高いので、生産のプロとして中途採用された外国人社員の目から見ても、学ぶものが多いはずです。しかし、開発や、販売や、調達などの仕事に関しては、その道のプロとして中途採用された外国人社員は、自分のスキルの方に自信があるので、日本的なやり方を学ぶ必要性も感じません。

 さらにそうして中途採用された外国人社員は、待遇が悪いと感じればすぐに転職してしまいます。

 日本に進出して成功している外資系企業を見れば、本国の社員だけで全てを運営しているわけではなく、日本のことを理解している日本人社員が幹部として登用されています。

 同じように、海外の日本企業でも、日本人社員だけで現地子会社を運営できるわけはなく、現地の外国人社員を幹部として登用しないと、その国で成功することはできません。

■本社のグローバル化も必要

 日本企業でも、売上高や利益の過半を海外で稼ぐような企業が珍しくなくなってきました。その割に日本企業の本社は、あまりグローバル化しているようには見えません。ほとんどの社員が日本人で、日本語で仕事をしています。海外の子会社には現地の外国人幹部を登用していても、日本の本社にはあまり登用されていないのです。

 また、日本企業が海外企業を買収する事例も多くなってきています。日本たばこ産業による2006年のギャラハー(イギリス)買収、サントリーによる2014年のビーム(アメリカ)買収、武田薬品工業による2018年のシャイアー(アイルランド)買収、セブンアンドアイによる2020年のスピードウェイ(アメリカ)買収、などが近年の大型買収として知られています。

 こうした企業では、買収先の事業をきちんと経営できないと、全社の業績に大きな影響が出てしまいます。東芝による2005年のウェスチングハウスの原発事業(アメリカ)買収は、業績が悪化しただけではなく、不正会計も発覚して2016年に巨額の損失を東芝に与えてしまいました。

 こうなると日本人の社長で、グローバル企業は経営できるのかという疑問もわいてきます。実際、シャイアーなどの巨額買収を実行した武田薬品工業の社長は、2014年に就任したクリストフ・ウェバー氏です。

 日産のカルロス・ゴーン氏もグローバル企業を再建した立役者です。1999年に破綻寸前にまで業績が悪化していた日産を救済したのはフランスの自動車会社ルノーでした。ルノーは日産に出資し、経営者としてゴーン氏を派遣しました。ゴーン氏は日産の高コスト体質にメスを入れて、稼働率の低かった工場を閉鎖したり、ルノーとの間で部品を共同購買できるようにしたり、新車の開発体制を変更したり、数多くの改革を短期間で行って業績を立て直しました。この業績が認められてゴーン氏は日産の会長とルノーの会長の両方を兼務するまでになったのです。

 しかし、それ以降は公私混同が目立つようになったとして2018年に日産の会長を解任され、日本の法律に違反したとして逮捕され、さらに海外に逃亡してしまいました。若い人は、この頃の騒動だけを覚えているかもしれませんが、もともとはグローバル化に失敗して挫折していた日産の経営を立て直した手腕の持ち主だったのです。

 ゴーン氏の行った改革の一つは、若手・中堅の社員300人程度と自ら面接して、その中の優秀な人材を改革プロジェクトのリーダーに抜擢したことでした。10人以上いたプロジェクトリーダーは各プロジェクトのテーマに関してゴーン氏に直接、提言を行い、その提言の実行に際して解決すべき課題があれば、これもまた改革チームを組織して解決させました。

 再建当初はルノーから派遣された幹部が多くいたのですが、10年程度でその幹部はほとんどフランスに戻り、その後は中途採用された社員(外国人を含む)が要職に抜擢されるようになりました。こうした一連の改革手法は、欧米の企業ではよく見られるものでした。

■ビジネスのグローバル化はさらに進む

 本書ですでに何度も論じてきた通り、これからの世界経済では新興国の比重がより高まっていきます。先進国企業も新興国のビジネスを取り込もうと多大な努力をしていますし、新興国の企業もグローバル化を推し進めようとしています。

 日本企業にとってみても、海外の大手企業との直接の競争は避けられないことになってきていますし、グローバルに事業を展開しようとする企業は、今までのような日本的経営には安住できません。このため、日本企業でも経営のあり方をグローバル化する試みも出てきているのです。

 新興国の政府は、自国の経済発展を重視していますので、海外企業の進出を促す方針をとり続けると考えられます。経済発展が進んだ方が国民からの支持も得やすくなりますから、規制緩和などの改革をさらに進めることになるでしょう。

 中には国内の既得権益の企業(国営企業)などを守ろうとする国もあるはずですが、保護主義的な政策をとろうとする国には海外企業も進出せず、投資もしなくなるので、あまり経済発展が進まなくなるでしょう。新興国同士も競争の関係にあるのですから、より改革的な国の方に海外からの投資が集まることになります。

 新興国出身の企業がよりグローバル化するという流れも続くでしょう。日本からトヨタソニーが世界で活躍したように、韓国のサムスンヒュンダイ、台湾の鴻海やTSMCが世界で活躍しています。

 中国からはファーウェイが躍進しすぎて、アメリカが安全保障上の心配をするまでになりました。これからはアルセロール・ミタルのようなインド出身の企業が世界で活躍するようになるでしょう。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
■第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?(本稿)
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?


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写真提供:ロイター/共同通信イメージズ