1年間の総再生数が最も多かった番組や、TVerの発展に寄与した番組を表彰する「TVerアワード2023」が発表された。それを記念し、TVerにて無料配信が始まった受賞ドラマ3作「あなたがしてくれなくても」(大賞/フジテレビ系)、「VIVANT」(特別賞/TBS系)、「夫婦が壊れるとき」(特別賞/日本テレビ系)の見どころを改めて紹介する。

【写真】奈緒が見せる、多くの女性を共感させた“説得力ある”演技<あなたがしてくれなくても>

■丁寧な心理描写が受賞につながった?「あなたがしてくれなくても」

「あなたがしてくれなくても」は、ハルノ晴による大ヒットコミックを原作としたドラマ。多くの夫婦が抱える、けれど他人にはなかなか打ち明けられない“セックスレス”の問題に切り込んだ衝撃作として話題となった。

主人公の吉野みち(奈緒)と夫の陽一(永山瑛太)は結婚5年目の30代夫婦。セックスレスと聞いたら愛が冷めきった夫婦像を思い浮かべるかもしれないが、2人の場合は仲が良く、はたからは何の問題もないように見える。だが、みちは陽一がセックスに応じてくれないことに人知れず悩みを抱えていた。

そんなみちの心にスッと入り込んできたのが、上司である新名誠(岩田剛典)の存在だ。イケメンで仕事もでき、かつ奥様思いと評判の彼もまた妻・楓(田中みな実)とのセックスレスに悩んでいた。みちと誠は同じ苦しみを共有することで打ち解け、いつしか恋仲に。

いわば不倫であり、普通ならば世間から叩かれる対象となるが、放送当時SNSでは2人を応援する声が多かった。一方で、陽一と楓に同情、あるいは擁護する声も。それだけ意見が割れたのは、丁寧な心理描写によるものだろう。

セックスレスと不倫というセンセーショナルなテーマを扱いながら、過激さを売りにすることなく、キャラクターひとり一人の心情を掬い上げた。また、それを見事に体現した役者勢の功績も大きい。それぞれの抱える痛みに、誰もが無関係ではいられなくなる。それが今回の受賞に繋がったのではないだろうか。

■「VIVANT」はストーリーもキャラクターもどこかアニメっぽい

昨年7月期にTBSの日曜劇場枠で放送され、社会現象とも言える反響を呼んだ「VIVANT」。注目されたのは、テレビドラマの常識を覆すスケールの壮大さだ。巨額な制作費を投じ、モンゴルで2ヶ月半にも及ぶ大規模なロケを敢行。テロリストによる爆破、銃撃ありのカーチェイスに、広大な砂漠での遊牧など、毎話派手なシーンの数々や、主演の堺雅人をはじめ、阿部寛二階堂ふみ役所広司二宮和也松坂桃李といった豪華俳優陣の名演に多くの視聴者が夢中になった。

物語は、商社マンの乃木憂助(堺)が会社で発生した誤送金事件の損失130億円を回収するため、中央アジアのバルカ共和国へ渡るところから展開されていく。だが、なぜか爆破事件の容疑者となり、現地の警察に追われる羽目に。“しがないサラリーマン”が大きな陰謀に巻き込まれていく話かと思いきや、どんどん予想だにしない事実が明らかとなり、最後まで飽きない作りになっていた。

老若男女問わず、幅広い年齢層の人々にウケたのは、ストーリーはもちろんキャラクターにどことなくアニメっぽさがあったからではないか。公安警察・野崎(阿部)の仲間であるドラム(富栄ドラム/声:林原めぐみ)、バルカ警察のチンギス(バルサラハガバ・バタボルド)、警視庁サイバー犯罪対策課の東条(濱田岳)など、それぞれのキャラが立っていて、若者を中心とした推し文化との相性が良かったと見られる。伏線が張り巡らされた複雑な内容で目が肥えた視聴者も楽しめる一方、そうしたエンターテインメント性の高さで視聴者層を拡大することに成功した。

■展開がスピーディーでサバサバしたヒロインにも好感が持てる「夫婦が壊れるとき」

原作は、イギリスBBCにて2015年と2017年に放送され、各賞を総なめした「女医フォスター 夫の情事、私の決断」。韓国では、2020年に「夫婦の世界」としてリメイクされ、韓国ケーブルドラマ史上最高となる視聴率28.4%を記録した。

その日本版となる本作で主演を務めたのは、稲森いずみ。「ロングバケーション」「ハッピーマニア」(ともにフジテレビ系)など、90年代のドラマで大活躍し、現在もバイプレーヤーとして多くの作品を支える彼女が、不倫夫に復讐するヒロイン役で新たな境地を開いた。

不倫ものや復讐系のドラマは基本的にドロドロしており、正直見ていて気持ちの良いものではないが、胸のすくラストが必ず待ち受けているので一定数の視聴率が取れる。一方で、主人公があまりにウジウジしていると、もどかしくてイラっとしてしまうことも。その点、本作の主人公である陽子(稲森)はかなり筋が通っている。

陽子はまさに才色兼備で、美人な上に医師としての評判も高い。夫の昂太(吉沢悠)は売れない映画監督で、資金面では陽子に頼りっきりだ。それなのに若い女性と不倫し、陽子の友人たちも分かった上で昂太に協力していたことが発覚する。裏切りに次ぐ裏切りで傷つきながらも己を立て直し、冷静かつ計画的に復讐を企てていく陽子。途中、気持ちが揺らぐことがあっても、すぐに切り替えてくれるのでそのサッパリとした性格に好感を持てる。

2話で早々に夫の不倫相手と対峙するなど、展開もスピーディー。1話あたり30分と全13話をあっという間に完走できるのもいい。「あなたがしてくれなくても」と「VIVANT」とともに本作もTVerで無料配信中なので、見逃していた人はこれを機にチェックしてみては。

■文・苫とり子

3月1日にTVerアワード2023が発表された/(C)TVer