現代宇宙論最大の謎の1つに、「ハッブル定数の緊張」として知られるものがある。これは宇宙の膨張率を表す「ハッブル定数」が、観測方法によって食い違うという問題だ。
その原因として、1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡の観測が間違っている可能性が考えられた。
だが今回、2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ望遠鏡の観測によって、ハッブル望遠鏡が観測した宇宙の膨張スピードが正しかったことが確認された。
それは私たちの宇宙についての理解がどこか間違っている可能性を示唆しているという。
現代の宇宙論では、ビッグバンによって誕生して以来、宇宙は膨張を続けていると考えられている。
ならば宇宙はどのくらいのスピードで膨張しているのだろうか? それを考えるうえで重要となるのが「ハッブル定数」つまり宇宙の膨張率だ。
だがこれについて天文学者が頭を悩ませている問題がある。ハッブル定数の推定方法によって、結果がまちまちであるということだ。
ハッブル定数を求める方法の1つには、宇宙望遠鏡からの観察データをもとに、銀河が遠ざかる速さとその距離から求めるというものがある。
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もう1つは、ビッグバンの残光(宇宙マイクロ波背景放射)に基づくモデルから予測するというものだ。
そしてハッブル宇宙望遠鏡の観測データに基づき前者の方法で推定された宇宙の膨張スピードは、どうしたわけか後者から予測されるものよりも速いのだ。
この食い違いは「ハッブル定数の緊張(ハッブルテンション)」と知られ、現代宇宙論の最大の謎の1つだとされている。
一体なぜ、推定方法によって結果が違ってくるのか?
もしかしたらハッブル宇宙望遠鏡の観測が間違っているのではないか?とも考えられた。
ハッブル宇宙望遠鏡は1990年4月24日に打ち上げられた、地上約600km上空の軌道上を周回する宇宙望遠鏡で、宇宙の膨張を発見した天文学者エドウィン・ハッブルに因む。
当初の計画では15年の運用予定だったが、その成果の大きさから30年以上も運用が続けられている。
1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡 / image credit:NASA
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ハッブルの観測結果は間違っていなかった。JWSTが証明
だが今回のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測は、ハッブルの結果が間違っていないことを裏付けた。
「銀河が遠ざかる速さ」と「その距離」からハッブル定数を求めるには、「宇宙の距離はしご」というもので距離を計測する必要がある。
宇宙はあまりにも広大であるために、距離を直接計測することはできない。そこで地球からある天体までの距離を測定する。例えば近くの惑星や衛星ならレーザーで測定可能だ。
その結果をもとにもっと遠くにある天体の距離を測る、ということを繰り返し、遠く離れた銀河までの距離を推測していく。
この測定法は、まるではしごを一段ずつ昇るようなイメージであることから、「宇宙の距離はしご」と呼ばれている。
宇宙の距離はしご / image credit:public domain/wikimedia
だが距離が遠くなるほど、その測定は正確ではなくなるかもしれない。
たとえば、宇宙の距離はしごに使われる「ケフェイド変光星」の光は、遠くのものほど周囲にある星の光と混ざり合い、区別が難しくなる。ここに塵のようなものがあるなら、観測はさらに厄介だ。
だがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の強力な赤外線検出能力なら、ハッブル宇宙望遠鏡以上に正確にケフェイド変光星の光をとらえることができる。
ジョンズ・ホプキンス大学のアダム・リース氏らがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使って行った最新の観測は、地球から1億3000万光年離れたもっとも遠い銀河「NGC 54688」を含むもので、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した範囲すべてがカバーされている。
そして、この観測によって、ハッブル宇宙望遠鏡の測定が正確だったことが確認されたのだ。ハッブル定数の緊張が解消されることはなかった。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(左)とハッブル宇宙望遠鏡(右)による観測画像/ Image credit: NASA, ESA, CSA, STScI, A. Riess (JHU/STScI)
それはどのようなことを意味するのか?
リース氏は、「測定誤差の線がなくなった今、残された可能性は、私たちが宇宙を誤解しているという現実的で、ワクワクするようなものです」と述べている。
この研究は『The Astrophysical Journal Letters』(2024年2月6日付)に掲載された。
References:Webb and Hubble telescopes affirm Universe’s expansion rate, puzzle persists | ESA/Webb / Webb and Hubble telescopes affirm the Universe's expansion rate / written by hiroching / edited by / parumo
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