動画クリエイターの雨穴(うけつ)がYouTubeに投稿した動画をきっかけに、書籍化、コミック化、朗読劇も上演された作品を間宮祥太朗佐藤二朗をW主演に迎え実写映画化した映画『変な家』(公開中)。監督は、「リーガル・ハイ」シリーズなど数々のドラマのチーフディレクターを務め、『ミックス。』(17)など映画作品も手掛けてきた石川淳一。脚本は丑尾健太郎が担当する。オカルト専門の動画クリエイターの雨宮(間宮)が、1枚の“変な家”の間取り図と出会ったことから次々と事件に巻き込まれていく様子を描く“ゾクッとミステリー”だ。

【写真を見る】都市ボーイズが、実際に映画で使われた間取り図で違和感を解説!

自身の動画の再生数に伸び悩んでいた雨宮は、マネージャー(DJ松永)から、購入予定の一軒家の間取りについて不可解な点があると相談される。そこで、自身のオカルトネタの提供者でミステリー愛好家の設計士・栗原(佐藤)に意見を聞いてみることに。すると栗原は、間取り図から次々と浮かび上がる奇妙な違和感に、ある恐ろしい仮説を導きだす。そんななか、その家のすぐ近くで死体遺棄事件が発生。事件と家との関連を疑う雨宮が一連の疑惑を動画にして投稿すると、その家に心当たりがあるという人物・宮江柚希(川栄李奈)から連絡が来る。

雨宮役を間宮が、栗原役には佐藤、そして物語の鍵を握るヒロインの柚希を川栄が演じ、Creepy NutsのDJ松永や石坂浩二斉藤由貴、髙嶋政伸、根岸季衣、瀧本美織、長田成哉らが怪しさ満点のキャラクターを演じている本作。謎が謎を呼び、その裏に隠された驚愕の真実に迫る、ゾクっとしながらも引き込まれる新感覚のミステリー作品を、都市伝説や怪談、オカルト話に精通する怪奇ユニット・都市ボーイズはどのように堪能したのか。岸本誠、はやせやすひろが実体験を交えて楽しんだ本作の見どころを語る!

※本記事は、一部ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■「自分に近しいこともあって、没入感はかなりあって楽しめました」(岸本)

――映画はいかがでしたか?

岸本誠(以下、岸本)「動画クリエイターという職業で、不可思議なものや謎を追うという主人公の雨宮がやっていることが、ほぼ自分と一緒だったので共感する部分がすごく多かったです。いままで観てきた映画よりもはるかに入りやすい。やっていることもそうですし、その時の気持ちとか。どういう気持ちでその謎に取り組んでいくのか、自分が体験していることが描かれていたので共感することばかり、非常にリアルな表現だと思いました。自分に近しいこともあって、没入感はかなりあって楽しめました。感情移入もしやすかったです」

はやせやすひろ(以下、はやせ)「僕は実家が建築関係ということもあり、間取りを見るのがそもそもすごく好き。建築系の学校も出ているので、入り口から楽しめました。1つの間取りを見て“ここが変”というところから始まり、設計士が出てきて順序立てて解説し、ひも解いていくみたいな流れを見て、いま、引越しを考えている人は、間取りを見るのが怖くなるんじゃないかって思いました。映画を観る前と観たあとでは、恐怖のポイントが1つ増えるので、怖がりからしたら最悪(笑)。なにより、起きている出来事が家の中というのが身近でめちゃくちゃ怖い。CGを使って怖い演出をするわけでもない、ただの間取りから始まるところが一番リアルで怖かったです」

――ご自身のお仕事や境遇に近しいというところで、共感しながら楽しめたと。

岸本「僕たちのようにYouTuberとしてとか、間取りや謎が好きみたいな共通点がなくても、いろいろな視点から描かれているので、様々なところに目が行く。おもしろい作り方だと思いました」

はやせ「まあ、でも、まず言いたいのは、雨宮くらい男前なら絶対顔出ししたほうがいいよね」

岸本「雨宮にはYouTuberとしてアドバイスしたいところはたくさんあったかな(笑)」

――YouTuberをやっているからわかること、リアルですね。

岸本「川栄さん演じる柚希のように、DMを送ってくる人は本当によくいます。めちゃくちゃ危険なので、雨宮みたいに、DMの相手をあんなに気軽に家に入れちゃダメ(笑)」

はやせ「僕のアドバイスはさっき言ったように、男前を活かしたほうがいいということ。顔出しして、こねくり回さないネタ、シンプルに大食いとか辛いものを食べる動画を流すだけで十分観てもらえます。でも、あんな男前なのに顔出ししないというのも実はリアル。本人ではなくネタを観てほしい人は、顔出ししないケースが多いです。漫画家さんとか声優さんで顔出ししないというのと共通するところかなと。僕があの顔だったらバンバン顔出ししますけれどね」

岸本「もったいないなとは思うよね」

はやせ「あと気になったのは、雨宮の家。なにもなさすぎでしょ(笑)」

岸本「撮影場所だからね」

はやせ「機材だけが置いてあって生活感がない」

岸本「撮影だけに懸けている、ほかには趣味がないという感じがして、リアルだなって思いました。あのタイプのYouTuberもたくさん知っているので」

はやせ「ちなみに、僕たちの撮影場所はごちゃごちゃしています(笑)」

■「間取りに詳しくなくても“これはおかしい”とわかる違和感」(はやせ)

――美術的なところでも着目する点があったということで、岸本さんがおっしゃっていた“没入感”の度合いが伝わってきます。ちなみにお2人が最初に違和感や“変だな”と感じたポイントは?

はやせ「普通に建築をやっていたら、あの間取りが出てきた瞬間に違和感には気づきます」

岸本「そうだね」

はやせ「この間取り図を見た時に思ったのは、建築関係の仕事をしていなくても、間取りに詳しくなくても“これはおかしい”とわかる違和感があること」

岸本「僕でも気づいたからね」

はやせ「“なにこれ?”ってなりますよね。それこそ都市伝説では、壁の中に死体が埋められているみたいな話はよくあって。壁をコンコンコンとノックしていったら、ここだけ音が違う、なんか空間があるという発見は“あるある”です。だけどこの作品は壁の中になにかがあるという発想ではないところがおもしろいなと思いました」

岸本「僕らの業界での間取り系で怖い話となると、基本的には事故物件に行き着きます。間取りも見ますが、注視するのは間取りと場所に対しての値段の違和感。間取り自体がちょっと変だと“変”で終わってしまうことがほとんどで、掘り下げることもありません。いままで『変だな』と思った間取りをもっと深掘りしておけば、新たな発見があったのではないかと映画を観たあとに思ったりもしました」

はやせ「僕は結構間取りを見るタイプ。以前も京都で気になる間取りの物件を見つけたことがあって。物件概要の一番下に『借りた方だけにお伝えしなければいけない告知義務があります』という一文があったんです。借りたいと思って問い合わせたら、買う予定の人もいると聞き、“借りる”では勝ち目がないと諦めた物件ですが、実際に買った人に告知義務の内容を聞きに行きました」

――はやせさんが住みたいと思ったのは、その借りた人にしか教えない一文を知りたかったから?

はやせ「いや、住んでなにが起きるのかを純粋に体験したかっただけです。結局、そこには遺体が埋められていた井戸があったという話でした。井戸ごと潰してカフェになり、いまは人気店になっています。事故物件としてテレビでも紹介された有名な物件でした」

――人気店になっているとのこと、ホッとしました。岸本さんにも物件絡みの怖い体験談はありますか?

岸本「歌舞伎町のバー店主に『変なのがでるからちょっと見に来て!』と頼まれたことがあって。お店の一角、誰が座っても体調や気分が悪くなるソファー席があるのですが、そこは以前、自殺があった場所だったそうで。その一角だけ空気が違うという感じ。リニューアルしてもその一角だけは変なことが起きていたそうです。加えて、そのバー自体にも変なことが起きていて。居抜きの賃貸でいろいろな店が入れ替わり入るのですが、毎回オーナー行方不明になっているんです。実際、僕に依頼してきたオーナーとも、いまは連絡が取れなくなっていて。オーナーが変わってもその建物での変な出来事も一緒に引き継がれているという謎は、結局解明できていないまま。でも、オーナー行方不明は実際になにがあったのか確かめていないので、オカルト的な話ではない可能性も大いにあります」

はやせ「少し前に“山”の形をしている建物の話、したよね?」

岸本「あったね」

はやせ「漢字の“山”みたいな形をしている建物があって。山の一画目の部分の1階が蔵で、2階が子ども部屋になっているその家では、おじいちゃんから『蔵には絶対入ってはいけない』と言われていたらしく、南京錠でしっかり施錠されていました。でも、入ってはいけないと言われても子どもなら気になるじゃないですか。南京錠といっても古い鍵なので、ちょっと動かしたら開いたらしくて。中を覗いたけれど真っ暗でなにもなくてがっかり。でも、その夜から枕元になにかを訴えたそうな口から血を流す女性が立つようになったということなんです。おじいちゃんからは蔵でなにがあったのか、どうして蔵を開けてはいけないのかは教えてもらえないまま。その家は取り潰されて駐車場になったらしいです。閉鎖的な地域で、家系図的なところも絡んだややこしい話だったようですが、真相はわからないままです」

岸本「家族に秘密がありそうな感じはするよね」

はやせ「僕と一緒だな。実家に帰れないから」

岸本「お家騒動ね」

はやせ「お家騒動というか、家のことを悪く言いすぎて、家に帰ってくるなと言われて(笑)。地元に帰ったら近くのホテルに泊まります。映画を観て“帰る家があっていいな”って思いました。うらやましかったです」

■「危険かもと思っても知りたいという変な欲のほうが勝ってしまう」(岸本)

――映画に登場する、物語のカギとなる“本家”が実家でも、帰りたいと思えますか?

岸本「あの家の醸しだす雰囲気は、はやせの実家に行った時に感じたものと近しい気が…」

はやせ「あそこまで怪しくない(笑)。でも僕の地元は神様を喜ばせるためにやるお祭りとか、変なものはまだまだ残っているようなところです」

――映画ではなかなか奇妙ですし、ゾクっとする面々が本家で待ち構えていましたが…。

はやせ「怖いというより取材したいって思いました」

――取材したいと思えたポイントはどこでしょうか?

はやせ「攻め方がすごくよくて。間取りに感じた違和感から始まって、設計士さんが出てきて“もしかしたらこの家はある目的のために作られた?”というところで、鍵を握る女性が登場。気づけば怪しい因習の残る田舎まで出てきて。取材として最高の流れですよね。見ていてうらやましかったです、雨宮が」

岸本「確かに。取材している流れで行き詰まったら、新たなヒントが出てきてそれに乗っかって、また次に…。ある種都合よすぎという感じはするのですが、実際に意外とそういうものだから、そこもリアルだなって」

はやせ「そうそう!」

岸本「点と点が全然関係ないところで繋がって進むって、現実の取材にも結構あること。その瞬間にアドレナリンのようなものが出て、気持ちいいと感じる。偶然的なものがどんどん重なって思いもよらぬところに行く。東京で始めたのに気づいたら田舎で取材していて。あの流れはすごく気持ちいいだろうなって思いました。危険っぽい匂いがして誰かに止められたり、自分でも“これ以上進んで大丈夫かな”と考えるタイミングって映画にもあったけれど、あれは止まらないんです。これ以上踏み込んだら危険かもと思っても知りたいという変な欲のほうが勝ってしまう。三大欲求より強いぐらいのなにかがある気がします。これを逃したら答えに辿り着けないとか、感覚的にわかるから踏み込んでしまいます。止めればいいのに、バカじゃない?って思ったりもするんですけれどね(笑)」

はやせ「僕の場合は、“知りたい”の先に“共有したい”というのがあって。だからYouTubeをやっている気がしています」

岸本「僕は“共有したい”よりも“知りたい”のほうが大きくて。実際に、知ったうえで共有できないことも多いので、多分、アドレナリンというか脳汁が出る瞬間の中毒なんだと思います(笑)」

■「登場から最後までの言動の変化。めちゃくちゃリアル」(はやせ)

――お2人とも雨宮への興味がとても強いようですが、ほかに気になったキャラクターは?

はやせ「川栄さんが演じていた柚希。言いたいことがあるけれど言えない、『よかったら取材してくれませんか?私は話せないですけど』みたいな依頼をしてくる人は本当に多くて。化粧が薄くて、声が小さくて、距離感がバグっているタイプ。実際にそういうネタを持った人を取材してからの役作りかと思うくらい、リアルでした」

岸本「既視感あったね」

はやせ「登場から最後までの言動の変化。めちゃくちゃリアルだと思いながら観てほしいです」

岸本「僕が好きなのは斉藤由貴さん演じる母親の家でのシーン。秘密を隠しているのはもうわかっているんだけど、それを頑なに言わない感じ。引っかかる言動やヒントを出してくるけれど、うやむやにするところ。あの雰囲気は何度も体験したことがあります。あの探り合い、好きです」

――物件にまつわる様々なお話に詳しいお2人には、家や間取りにこだわりはありますか?

岸本「三角形の形の家は昔からよくないって言うけれど、一回借りたことがあって。ちょうどポルターガイスト現象の案件を取材しているタイミングだったのですが、そのビルでも同じようなことが起きて、リンクしてるのかな、やばいなと感じて半年くらいで退去しました。三角形の建物はダメとか昔から言われていたこと。興味本位でわざわざ入るもんじゃないと経験から学びました(笑)」

はやせ「昔住んだ安いアパートは、建物自体はそれなりに新しかったのですが、古い家のような雰囲気があって。そのアパートの角部屋に住む人はおかしな目に遭うという話を聞いたんです。子どもの声が聞こえたり、壁が殴られたりするらしいのですが、その音がどうやら腰より下の低いところから聞こえてくると。つまり子どもの仕業だって。でも、子どもは住んでいないアパートなんですよね。怖くなって2か月くらい住んで引っ越しました。当時は事故物件という言葉もなくて、いわくつきとか訳ありと言っていた気がします。まあ、知っていて借りたので自業自得なんですけれど」

――お2人ならではのリアルなお話、ありがとうございます。では最後に、映画のおすすめポイントをお願いします!

はやせ「一緒に観た奥さんが、映画を観てから間取りを気にするようになって。自分の家だけでなく、人の家を見て『この間取り、ダメなんじゃない?』とか言うようになりました(笑)。過去や未来ではなく、“いま”が怖くなる映画だと思いました。誰にでも起こりうるような怖さがある気がします。家が気になるようになってしまう映画です」

岸本「違和感から始まる恐怖みたいなところがおもしろいポイントだと思います。普通にしていたら見逃してしまうものって、実は世の中にはめっちゃあると思っていて。映画を観て、日常的にある違和感についてみんなが考えるようになったら、埋もれているなにかおもしろいネタが出てくるのでは?という気持ちが湧きました。違和感が楽しめるおもしろい映画です」

取材・文/タナカシノブ

映画『変な家』の楽しみ方を怪奇ユニット・都市ボーイズが解説!/撮影/興梠真帆