反響の大きかった2023年の記事からジャンル別にトップ10を発表してきた。今回は集計の締切後に、実は大反響だった記事に注目。年間ランキングで忘れられがちな11月12月に公開した社会経済ニュース記事から選ばれた、第1位はこちら!(集計期間は2023年11月~2024年1月。初公開2023年12月14日 記事は取材時の状況。ご注意ください)
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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 クリスマスシーズンは色めき立つジュエリー業界。男性からのプレゼントの鉄板ブランドの一つが4℃。毎年、クリスマスにSNSを賑わすことで知られています。

 ジュエリー業界の勢力図は大きく塗り替わろうとしています。ヨンドシー、ダイヤモンドシライシ、アイプリモの業績からその片鱗が見えてきます。

◆選択と集中でファッションジュエリーをリブランド

 ヨンドシーホールディングスは、2018年2月期から5期連続の減収減益に見舞われていました。ジュエリーの主力販売チャネルの一つだった百貨店の集客力が落ちていたところに、新型コロナウイルス感染拡大で直営店も大打撃を受けたのです。2021年2月期は売上高に当たる営業収益が前期比12.3%も減少します。

 ヨンドシーは当初、ファッションジュエリーの商品力強化やブライダル専門店の集客力向上など、全方位的な取り組みを行っていました。しかし、2023年2月期に大胆な収益改善策を打ち出します。それがブライダル店舗の選択と集中でした。

 2023年2月期の1年間でブライダル専門店を18店舗退店し、24店舗まで縮小します。2023年8月末までで更に20店舗まで絞り込みました。つまり、およそ1年半で店舗数は半減したのです。

◆かつては女性から敬遠されがちだったが…

 選択と集中を行った効果は目覚ましく、2023年3-8月のジュエリー事業の営業利益率は6.8%。前年の4.5%から2.3ポイントも上昇しました。

 ヨンドシーのファッションジュエリーの弱点は、男性客がメインだったこと。男性目線と女性目線がかみ合わないことが、SNSで論争を巻き起こす要因の一つになっています。

 しかし、ファッションジュエリーに経営資源を集中し、ブランドの再構築を行った結果、女性客の売上高は2023年2月期に37億円となり、前期比3割増となりました。女性から敬遠されるイメージは、過去のものとなりつつあります。

◆“恋愛映画の巨匠”を起用したプロモーションが好評

 ヨンドシーがブライダル専門店を縮小する一方、大躍進を遂げているのが「銀座ダイヤモンドシライシ」や「エクセルダイヤモンド」を運営するNEW ART HOLDINGSこの2つのブランドは婚礼客をメインターゲットとしています。

 2023年3月期のジュエリー事業の売上高は、前期比17.8%増の188億8000万円でした。2023年4-9月の売上高も、同0.9%増の90億3000万円と堅調。反動減に見舞われている様子はありません。ヨンドシーがブライダル専門店を整理した結果、婚礼客の受け皿となった可能性は十分に考えられます。

 NEW ART HOLDINGSのジュエリー事業は、2019年3月期の売上高が前期比28.2%増の125億3800万円と急増しました。躍進するきっかけとなったのが大々的なプロモーション。2018年5月、銀座ダイヤモンドシライシは恋愛映画の名手として知られる行定勲監督を迎え、メッセージ性の強いテレビCMを放映しました。

 プロモーションの強化と販売員のスキル向上がかみ合い、大幅な増収へとつなげます。

 行定勲監督のテレビCMは好評でシリーズ化しており、2023年4月からは俳優の若葉竜也さんと木竜麻生さんをキャストに迎えた、新しいCMを放送しています。巧なプロモーション戦略で、NEW ART HOLDINGSは新たな成長ステージに入りました。

◆国内有数の投資ファンドに買収されたアイプリモ

ブライダルリング専門店「アイプリモ」を運営するプリモ・ジャパンも業績が回復してきました。2022年8月期の売上高は、前期の1.5倍となる122億9700万円でした。ただし、この会社はコロナ禍を迎える前の売上高が、140億円を超えていました。元の水準には戻り切っていません。

 プリモ・ジャパンは2015年に香港系の投資ファンド・ロングリーチに買収されましたが、2021年に転売されています。受け皿となったのが、インテグラル。今年9月にグロース市場に新規上場した国内の独立系投資ファンドです。プリモ・ジャパンはコロナ禍以降、営業赤字が続いています。

 店舗数はインテグラルの傘下に入った後も大きく変化していません。企業価値向上を図るために拡大路線を選ぶのか、縮小で筋肉質な組織づくりを行うのかによって、ジュエリー業界の勢力図は再び変化することになるでしょう。

◆アパレル事業に助けられたヨンドシー

 ヨンドシーが、ブライダル専門店を次々と退店できたのにはわけがあります。アパレル事業が好調なのです。2023年2月期のジュエリー事業の売上高は横ばいでしたが、会社全体では3.6%の増収でした。6期連続の減収から一転して増収へと向かった要因が、アパレル事業でした。

 ヨンドシーの2023年3-8月の売上高は前年同期間比3.2%増の191億1000万円。アパレル事業の売上高は、10.1%も増加して112億3700万円。ジュエリー事業は5.2%減の78億7300万円でした。今や、ヨンドシーはアパレル事業の売上高がジュエリー事業を上回っており、会社全体の業績をけん引しているのです。

 継続的に出店しているのが「パレット」。デイリーファッションと銘打ち、リーズナブルな洋服や肌着、靴下などを販売しています。スーパーマーケットなどと併設していることが多く、ターゲットしまむらと重なります。

 一見すると、若者向けのジュエリーを展開している会社のブランドとは思えません。しかし、ターゲットの違いがリスク分散となり、結果として経営基盤の安定に寄与しました。アパレル事業で増収を成し遂げ、その裏でジュエリー事業の改革を行って利益率を高めようとしています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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