年金機構から届くさまざまな通知。郵便物の数が多く、中身を確認することが面倒で放置してしまう人も。しかしなかには確認してしっかり対応しなければ大損したり、ショックを受けたりすることも……。本記事では、自営業のAさんの事例とともに、年金機構から届く見過ごせない通知について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

日本年金機構から届くさまざまな色の通知

日本年金機構から届く通知の中には、中身を確認すべき書類、提出が必要な書類など重要なものがありますので、目立つ色で送られてくる場合のものがあります。また、色によって意味もあるようで、どんな色でどんな内容の書類が送られてくるかを見てみましょう。

年金支給3ヵ月前に届く緑色の封筒

老齢年金が受給できる時期が近づくと(誕生日の3ヵ月前)、日本年金機構からA4サイズの緑色の封筒が届きます。この封筒の中身は、年金請求書をはじめとする年金を受給するための案内が入っています。

この封筒が送られてくる人は、老齢年金の受給資格期間を満たしていることが確認されている人です。万が一、封筒が送られてこない、といった場合は問い合わせてみましょう。

送られてきた書類には、年金の加入状況が記載されていますので、確認しないといけません。老齢年金には、老齢基礎年金や老齢厚生年金のほかのも、公務員共済年金や私学共済年金といったものもありますが、この加入記録によって年金額は算出されますから、必ず確認するようにしてください。加入記録に疑問があれば、問い合わせてみるようにしましょう。

なお、年金は、この封筒に入っている「年金請求書」を提出しなければ受け取ることができません。年金請求書を提出したあとは、年金請求書の内容が審査され、受付日から1ヵ月~2ヵ月程度で「年金証書・年金決定通知書」が届き、さらにここから1ヵ月~2ヵ月後に「年金振込通知書」が郵送されてきますので、これにより年金の受け取りがスタートすることになります。

なお、65歳になる数年前に緑色の封筒が送られてくる場合があります。年金は65歳以降に受け取ることになりましたが、経過措置として、

・男性は昭和36年4月1日以前に生まれた人

・女性は昭和41年4月1日以前に生まれた人

は、60代前半の生年月日によって決められた年齢から「特別支給の老齢年金」を受け取ることができるためです。この年金は、「繰上げ・繰下げ受給」はできませんので、必ず請求書を提出して受け取るようにしましょう。

放っておくと時効(5年)により、受け取ることができなくなります。

年金受給資格期間の短縮で送られてくる黄色の封筒

老齢厚生年金や老齢基礎年金を受けるために必要な資格期間(国民年金の保険料納付済期間など)については、平成29年8月1日以降、これまで「25年以上」から「10年以上」に改正されました。

なお、資格期間とは、

国民年金の保険料を納めた期間や、免除された期間

・会社員等の期間(船員保険を含む厚生年金保険や共済組合等の加入期間)

・年金制度に加入していなくても資格期間に加えることができる期間(「カラ期間」と呼ばれる合算対象期間)

などで、これらの期間を合計したものが資格期間となります。

この資格期間が10年以上あれば年金が受け取れるようになりましたが、年金の額は、納付した期間に応じて決まります。40年間保険料を納付された人は満額を受け取れますが、10年間だけの納付期間の人の年金額はおおむねその4分の1になります。

この改正により、平成29年7月31日において、すでに年金の受給年齢に到達していながら資格期間が足りずに年金を受けることができなかった人のうち、同年8月1日時点で資格期間が10年以上である人は、新たに年金を受給することができるようになっています。

この改正により年金を受け取れるようになった人(資格期間が10年以上25年未満)に対し、日本年金機構A4サイズの黄色の封筒で請求に必要な書類を送っています。

こちらも同封の「年金請求書」に記入して提出をしなければ、年金を受給することができないことになっています。親御さんなど、手続きを忘れているような人がいるかもしれませんので、確認してみましょう。

年金なんかいらない!と豪語していたが…

以前、筆者のところに相談にやってきたAさんは30代半ばの自営業(年収は約1,000万円)の男性です(実際の相談内容をアレンジして記載しています)。いろいろとお話を聞いたあとにAさんは次のようなことを言い出しました。

「iDeCoで老後資金作りもやってみたいと思ってるんですよ。自営業なので国民年金なんですが、本当に将来もらえるかどうかわからないでしょ。だから国民年金の保険料を払うのもやめちゃいました。iDeCoだけでも十分に老後資金作れますよね」

これには筆者も驚いて、「え? 国民年金の保険料を納めていないと、iDeCoには加入できませんよ」と、伝えたところ、Aさんもビックリ! ショックを受けた様子でした。

「なにか年金機構から通知などは届いていませんか?」筆者が尋ねると、「そういえば赤い封筒が届いていたような……。ねんきん定期便みたいな、毎年届く定期的なお知らせのような感じかと思って放っておいていました」

赤い封筒の意味を伝えると、「えっ、このままじゃ『差し押さえ』ということですか! そ、そんな……」Aさんは震えてしまいました。

国民年金の保険料を納めないと、iDeCoや国民年金基金などに加入できないとともに、未納が続くと、「障害年金」「遺族年金」といった万が一のときの年金がもらえなくなる危険性があります。老後の生活のためだけにあるものではありませんので、いざというときに「もらえない」という状況を避けるために、未納がないよう、速やかに支払いを済ませることが重要です。

iDeCoはAさんのような自営業者の場合、月に6万8,000円(年間81万6,000円)まで積み立てることができます。もし、年3%で25年間運用し続けられたとすると、運用益だけで約1,000万円近くになりますし、年5%だと2,000万円を超える運用益が得られることになります。他にも所得税や住民税などの節税効果があります。

いまのままではiDeCoに加入できないというショックと、シミュレーションした運用益の大きさに、Aさんは「保険料、ちゃんと払わないと」と考えを改めたようです。

国民年金未納で送られてくる「赤い封筒」

Aさんは考えを改めたようですが、もし、年金保険料を納め続けないとどうなるのでしょうか? Aさんが放置していた赤い封筒が大きく関係しています。

国民年金は日本に住む20歳以上の国民すべてが加入する年金で、国民年金保険料の支払いは国民の義務とされています。自営業者や学生の方、無職の方なども対象で、収入が無くても納付の義務があります。

ちなみに、専業主婦(第3号被保険者)の方は、厚生年金加入者全体で保険料を負担する仕組みになっているので、保険料を支払う必要はありません。

国民年金保険料は月1万6,980円で、60歳までの40年間支払うことで、月額6万8,000円の年金を受け取ることができます。

1.国民年金未納保険料納付勧奨通知書《催告状》(紫色の印字のハガキ

国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)」は、国民年金保険料の未払いがあると届く通知書で、3つ折りの紫色で印字されたハガキです。未納期間や未納金額が記載されており、近くの金融機関やコンビニエンスストアで納めるよう告げられています。

この時点では、納付督励(ちゃんと払ってくださいね)という段階にあります。場合によってはハガキだけでなく、電話をかけてきたり、自宅訪問にやってきたりなどの方法で保険料納付の案内がされます。

ですが、学生さんのように収入がなかったり、家計が苦しかったりといった事情がある方は、納付もなかなかできない場合もあります。そんな場合は、「猶予」や「免除」の手続きをしましょう。市区町村役場の国民年金担当相談窓口に相談することで、年金保険料の猶予や免除が認められることがあります。

2.特別催告状(封書)

国民年金保険料の未払い期間が半年を超えると、特別催告状が届くようになります。これも納付督励の段階ですが、封筒で送られてくるようになります。無視を続けると、封筒の色も、青色→黄色→赤(濃いピンク)色と、変わってきます。

特に、赤い封筒の段階になると、差し押さえの準備に入る説明が記載されるようになります。

3.最終催告状

最終催告の段階となる「最終催告状」は、指定期限までに支払わないと財産の差し押さえが行われると警告するものです。

4.督促状

それでも未納が続くと督促の段階に進み、「督促状」が送られてきます。督促状で指定した期限までに国民年金保険料の未納分が納付されないと延滞金がかかることや財産の差し押さえについて書かれています。

5.差し押え予告書からの差し押さえへ

督促状で指定した期限までに未納の国民年金保険料が納付されない場合、最終段階となる「差し押さえ予告書」が届き、財産の差し押えが行われます。被保険者に連帯納付義務者(世帯主および配偶者)がいる場合は、連帯納付義務者に対しても財産の差し押えが行われます。

国民年金保険料の支払いは国民の義務であり、避けつづけられるものではありません。未納のまま通知を無視しつづけると、このように大変な目にあってしまいます。将来や家族のためにも早めに対応する必要があります。

川淵ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)