2024年3月18日から24日にかけて、VTuber・天開司が主催する『春のVTuber甲子園』が開催される。

 『VTuber甲子園』は、野球ゲーム『パワフルプロ野球』(今大会では『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』を使用)内のモード「栄冠ナイン」を使ってオリジナルチームを作り上げ、対戦する企画である。最後に開催されたのは2019年8月で、約5年ぶりの開催だ。

【画像】各高校のエースピッチャー&野手たち

 同企画は2019年の開催後、にじさんじ舞元啓介が主導する『にじさんじ甲子園』へと繋がったことで未開催の期間が続いていた。そこへ来て今回の開催アナウンスである。これは天開のファンのみならず、VTuberシーンをよく知る多くのファンを驚かせた。

 加えて驚かせたのは、本企画への出場メンバーである。主催である天開をはじめとし、『にじさんじ甲子園』の全大会に出場してきたにじさんじ椎名唯華ホロライブでも一、二を争う“配信モンスター”の博衣こより、そして天開と同じくシーンの初期から男性VTuberとして活動してきたNeo-Porte・渋谷ハルの3人、計4人の出場が発表された。

 VTuber~バーチャルタレントシーンを引っ張るホロライブにじさんじという二大事務所の博衣こより椎名唯華、男性VTuberとして長く活躍してきた天開司に伸び盛りのNeo-Porteを率いる渋谷ハルという豪華な4人による対戦企画は、非常に大きな反響を呼んだ。

 『VTuber甲子園』はゲーム内のモード「栄冠ナイン」を使った企画である。プレイヤーは高校野球部の監督として毎年入部してくる選手を育成し、目標である甲子園大会優勝へ導いていくという内容だ。

 このモードでは毎年夏の甲子園大会が終わるタイミングでオリジナルチームをセーブできるようになっており、スタートしてから3年目の夏大会終了時点での野球部をオリジナルチームとしてセーブし、そのチーム同士で対戦するというのが、本大会のフローである。

 入部してくる新入生のステータスは完全にランダムだが、スタート時に日本の47都道府県どこかにオリジナルの高校を構えることで、当地にゆかりのある実在のプロ野球選手やOB選手が「転生選手」として新入生として登場する場合がある。

 千葉県に高校を構えれば巨人OBの長嶋茂雄が、愛知県に構えればイチローが新入生として加わる可能性があるといえばわかりやすいだろう。2年目以降は都道府県関係なくプロ/OB選手が転生するようになるが、そもそも転生選手が登場する可能性は非常に低く設定されている。

 このため、じつは「どこに高校を構えるか?」は非常に重要で、実際のプロ選手やOB選手の新入生として転生することを狙って高校を構えるか、逆にOB選手やプロ選手の転生を狙わず、自チームが上位進出しやすいよう参加校があまり多くない都道府県を選んでプレイするか、方針を定める必要がある。ゲーム開始時点からすでに勝負が始まっているのだ。

 本稿では、4人が育成を終え、どのようなチームを作り上げたのか。ここで一度振り返ろうと思う。

■大会No.1ピッチャーとチャンスに強い打線を擁するホロライブ高校

 ホロライブ博衣こよりは、東北地方岩手県ホロライブ高校を構えることにした。同県を選ぶと、言わずと知れた大スター・大谷翔平をはじめとした強力選手が初年度から新入生として加わる可能性があり、大会参加校の数も他地域と比較して多くない。上位を目指しつつも転生選手が狙える、バランスの良い県であるのが主な理由であろう。

「大谷選手を引けるといいなぁ~!」

 博衣はリスナーに向けてルールを説明しながら、愛知県兵庫県も魅力的だったと話す。いわゆる“新入生ガチャ”といわれるこのターンで、彼女は福岡ソフトバンクホークスに所属する松本裕樹選手を転生選手として引きあてた。

 他の新入生をみつつ「転生が引けたしバランスもいい。松本選手がそもそも強い!」「このあと2回引き直せるけど、転生選手がいなくなる可能性が全然ある」と話し、ガチャ1発目でチーム育成をスタートした。

 新入生ガチャで転生選手を引き当てたことに加えてもうひとつ幸運だったのは、開始時点に所属している先輩メンバーのなかにも強い選手が数名いたことだ。3年生・2年生の数名に「天才肌」がおり、「内気」の性格を持つ選手が複数人いるというメンバーをみて、「今まで見たことがない」と口にするほど驚いていた。

 博衣は以前にも「栄冠ナイン」を配信を通してプレイしており、各種ステータスやゲームの進め方だけでなく、「この能力値がどれほどレアなのか」といった重要ポイントまでキチンと理解しているレベルである。

 幸運でめぐりあえた先輩らとともに育成を進め、2年目の新入生ガチャでも強力な新入生を複数呼び込むことに成功し、そのまま2年目の夏の大会に起用。地方大会の準決勝で惜敗したものの、チーム全体を大きく成長させることができた。

 その後も順調に育成を進める博衣。ランダムで特殊能力をゲットできる「合宿」や「特訓」イベントもかなりの数を成功させ、そのまま臨んだ2年目秋大会から、ホロライブ高校は爆発。なんと2年秋大会・春の甲子園夏の甲子園大会まで負け知らずの不敗神話を築きあげ、秋・春・夏の3連覇という離れ業を達成してのけたのだ。

 初年度から幸運に恵まれた部分はありつつ、バランスを見ながらの選手育成、試合の局面で的確な指示をして勝利に導いた彼女のプレイスキルの高さがうかがい知れる。

 初年度から先発を務めてきた宝鐘マリンは試合を重ねるごとにステータスを順調伸ばし続け、「奪三振」「尻上がり」「リリース◯」などを含めた特殊能力7つを獲得。そこに加えて球速161キロのストレート、鋭く落ちる「SFFスプリットフィンガー・ファストボール)」、2種類のカーブ、ストレート系の第2球種という剛腕ピッチャーへと成長した。間違いなく今大会のナンバーワンピッチャーであろう。

 打線・野手で注目すべきは、なんといってもスタメン野手の多くが「チャンスB」以上の能力値を持っている点だ。

 『パワフルプロ野球』ではチャンスA~Bを持っていると、ランナーが2塁または3塁にいる際にミート力・パワーが強化されて打撃力があがるようになっており、ときのそら雪花ラミィラプラス・ダークネスにくわえて宝鐘マリンもこの能力を持っていることで、9人のスタメン中4人がチャンスに強いという打線である。

 だがときのそら雪花ラミィラプラス・ダークネスらは打順では4~6番を任されており、上位打線には彼女ら3人よりもステータスや特殊能力の点で優れている鷹嶺ルイ百鬼あやめさくらみこ白銀ノエルらが名を連ねている。

 上位打線で溜めたランナーをチャンスに強い3人がうまく返すように組まれた打線は、秋・春・夏の3連覇を達成した編成であり、かなりの得点力を見込める。

 実際に『VTuber甲子園』の本大会がスタートしてからどのようなスタメン・打線を組むかは監督・博衣こよりの判断に任されているが、「うまくいっているチームやスタメンを変える必要はない」という、スポーツ界でよく聞かれる金言をもとにすれば、おそらく現状の打線を維持する方向性で大会に臨む可能性が高そうだ。

 大会ナンバーワンピッチャー宝鐘マリンにくわえて、チャンスにめっぽう強い強力な打線は、大会を大いに盛り上げてくれそうだ。

■“豪運”と“大会経験”を活かして作り上げられたにじさんじ高校

 先にも述べたように、『VTuber甲子園』と『にじさんじ甲子園』は内容・形式がまるっきり同じである。こうした大会形式では「栄冠ナイン」モードの内容だけではなく、実際の試合のなかで強い特殊能力がどれなのか、またはどのステータスをあげればより影響が出やすいのかといった点も重要になってくる。経験者にしかわからないこまかな差異を知っていることは大きな武器となるはず。

 初回大会となった2019年8月に開催された『VTuber甲子園』に出場して以来、『にじさんじ甲子園』を通して毎年のように大会へ出場、「栄冠ナイン」を幾たびもプレイしている椎名唯華。彼女は間違いなく、今回の大会におけるノウハウを熟知しているひとりだろう。

 また椎名は昨年開催された『にじさんじ甲子園2023』で見事優勝を果たしている。その後の配信で「自分的は大・大・大満足で、燃え尽きた」「終わった後に舞元としゃべってて、殿堂入りかなっていうのはあるかなって」と発言しており、同企画に今後参加しない可能性があることも示唆していた。

「椎名の『栄冠ナイン』配信が見られなくなってしまうかもしれない」

 そんなことを思ったファンは大勢いただろう。こうした経緯もあって、彼女のプレイはひときわ注目を集めた。

 まずは初年度、毎年豪運を見せつけることの多い椎名の“新入生ガチャ”を見ようと多くの視聴者が集まった。

 そんななかでゲームをスタートさせると、転生選手や天才肌はいなかったものの、特殊能力「威圧感」を持ったピッチャーなど、優秀な選手が揃った新入生らを引き当てた。この時点でも悪くはなさそうで、「平均が高いな」と悩む姿を見せた椎名。最終的には「正直、これよりも弱い新入生でも強くなったチームがある」と、自身の経験と予測を信じ、2度目のガチャを試したのだ。

 すると、宮崎県を育成の所在地として選んだこともあり、広島東洋カープに所属している投手・ケムナ誠選手を転生選手として引き当て、他の選手も軒並み平均以上の能力を持った選手で揃えることに成功し、そのままチーム育成へと進んでいった。

 初年度の新入生には自身の同期である元ゲーマーズの名前をつけ、夏大会は2年連続で準決勝に進出するなど結果を残していく。だが、初年度の選手がスタメンとなる2年目の秋大会では思うように勝ち進むことができず、椎名の中に大きな焦りが生まれつつあった。

 そんな状況を救ったのが野球部の先輩メンバーだった。

 椎名はもともと過去大会での育成配信で、先輩メンバーの名前や容姿などを変えて、リスナーと共に楽しむというプレイをしていたことがあった。今回、彼女は同じにじさんじの同僚にちなんで野球部の先輩らを「舞本」「甲斐田」へと変え、ゲーム中になにかあれば「かいだぁー!!」「まいもとぉーー!!」と叫んで笑いを取る、といったことをしていた。

 そしてこの「舞本」が卒業後、特殊能力を付与するアイテムを届けてくれる「本屋」に就職したことで、状況が一気に好転していくことになった。

 「本屋」を始めとしたOBイベントがどのような頻度で発生するかは、プレイヤー側からは一切手出しできないランダム要素なのだが、本屋となったOB「舞本」は3年目の4月から最後の夏大会が始まる7月まで何度と無く登場し、多くの特殊能力をチームに与えることになった。

 さらに3年目の新入生には、懸案だった捕手を埋める選手だけではなく、ソフトバンクホークスに所属する風間球打の転生選手や、レアステータスである「天才肌」の選手までも引き当てるという、文字通りの“豪運プレイ”でチームを強化。これにはリスナーからも驚きのコメントが次々と書き込まれたのだった。

 肝心要である3年生の夏大会1回戦。打線がうまく噛み合わないにじさんじ高校は得点を取ることができず、8回裏2アウトまで相手校にリードされる厳しい展開となってしまった。

 敗北ムードがただようなか、8回裏・2アウトのランナー1塁というタイミングで、2番バッターの叶が能力のひとつである「地方大会の魔物」(※)を使えるとみると、ランナーに出ていた月ノ美兎をムリヤリ走らせてアウトにし、9回の攻撃に叶をトップバッターに仕向けるようにプレイした。

(※地方大会の魔物:「栄冠ナイン」内で全選手が試合中に発動できる固有能力のうちのひとつ。ピッチャーが暴投しやすい、野手がエラーしやすいなどミスを多く発生させることができる、かなり凶悪な能力である)

 結果、9回裏にトップバッターとなった叶の「地方大会の魔物」を発動させ、バントを絡めてエラーを誘発させ、見事サヨナラ勝ちを収めてみせた。思わぬ落とし穴にハマりそうになったところを、実際の野球ではありえないような作戦を実行、まさに機転を効かせて勝利したのだ。これぞ『栄冠ナイン』流の勝ち方といえようものだった。

 毎年育成で豪運を発揮するというのが椎名の育成配信のイメージであるが、「特殊能力をどの選手に振り分けるか?」「ピンチをどのように防いで逆転までもっていくか?」など、この育成配信を通して、豪運でたぐり寄せたチャンスをこれまでの経験でうまく活かしていくプレイングが随所に現れていた。

 その後は準決勝まで進んだが、現在大リーグドジャースに在籍する日本人最強ピッチャーとも名高い山本由伸の転生選手が登場。先発・笹木が最少失点で攻撃を抑えるが、山本から得点を奪うことができず、1-0で敗北。3年夏の大会は地方大会の準決勝進出までという結果で育成終了となってしまった。

 じつはこの強豪校とは春の段階で練習試合で対戦しており、この時はまだ山本は先発していなかったこともあり勝利を収めていた。“ほぼ現役の山本由伸”といっても過言ではない超強力なステータスを持つピッチャーを前にして打ち崩すことができず、椎名も悔しさを滲ませていた。

 夏・春通じて甲子園へ出場することができなかったが、それでも特殊能力に関してはホロライブ高校のメンバーにも負けず劣らず揃えることに成功したにじさんじ高校。

 自身の盟友・笹木咲はエースピッチャーとして十二分のステータスを誇り、「逃げ球」「緩急◯」「球持ち◯」「勝ち運」などの特殊能力を持っている。変化量は小さめながらも5種類の変化球を投げ分け、ゴロアウトを量産していくのが得意なピッチャーといえよう。

 野手陣も粒ぞろいだ。盗塁が成功しやすくなる盗塁B以上かつ走力B以上を備えた野手が2人おり、「アベレージヒッター」や「パワーヒッター」といった打撃能力を大いに高めてくれる特殊能力持ちも複数人おり、彼らがズラっと並んだ打線はステータス以上に強力だといえよう。

 博衣こよりが率いるホロライブ高校を打倒する可能性も十分に有り得そうだが、重要なのは本企画における対戦は「CPU対戦」であるということ。椎名の豪運が自身の手を離れた対戦で発揮されるのか、そういった点でも、にじさんじ高校には注目したいところだ。

■特訓成功&練習試合の連発で脅威の仕上がり ネオポルテ高校

 ホロライブ博衣こよりにじさんじ椎名唯華、強力なメンバーを育て上げた二人に対して、Neo-Porte所属のVTuber、渋谷ハルはどのような育成を見せたのだろうか。

 渋谷ハルは毎年開催されてきた『にじさんじ甲子園』企画を視聴しており、昨年には「やりたくなった!」と『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』を購入し、実際に同じようなルール・形式でプレイしたことがあった。企画への出場が発表されたあとにも、練習として3年縛りルールをプレイして大会に臨んでいる。

 渋谷ハルが選んだ都道府県宮崎県。1回目のガチャでオリックス・バファローズ所属・横山楓の転生選手を引き当て、「ここから引き直すのは分の悪い賭け」と話しつつ、10分以上に渡ってリスナーとともに熟考。結果、1回目の新入生のままでいくと腹を決めたのだった。

 余談だが、Neo-Porteは現在総勢19人の事務所で、渋谷本人を抜けば18人ほど。3年間で集まってくる新入生も同じくらいの人数が集まるため、現在事務所に所属している全員をひとチームにまるっと登録・出場させられる。これはネオポルテ高校ならではの魅力であろう。

 渋谷は緋月ゆい、水無瀬・絲依といらを中心としてチーム構築につとめていく。2年目夏大会には2回戦を突破するも、次戦にチーム評価Aの相手とぶつかってしまい敗戦、「甲子園出場」を狙ってたところでの躓きに、「チームをもっと成長させて秋の大会に臨みたかった。(展開として)一番キツい」と本音を吐露した。

 その後も地道に大会・練習を進めるが、守備をある程度捨てて打撃・走力を伸ばす方向性で育成を進めていたこともあり、エラー絡みの失点で2年目秋大会も早期に敗退してしまった。

 とはいえ、この時点で特殊能力「広角打法」を持った野手が3人おり、2年目冬に訪れた合宿・特訓練習のターンで特殊能力を次々とゲットし、一気にチーム補強することに成功した。「これが春先とかについてれば夏の大会も秋の大会も楽できたのに~」と、若干の悔しさをにじませつつも喜ぶ姿を見せた。

 さらに年が変わると練習試合のコマンド・お誘いイベントが連発し、3試合もの練習試合をこなしたことで大幅に経験値・信頼度を稼ぐことができ、不安だったステータスの低さを埋めることに成功した。新入生が加わったチームは大会直前の練習試合でも打ち合いを制し、3年目・夏大会を迎えることとなる。

 この大会でも早々に評価Aランクの高校と当たってしまうネオポルテ高校だったが、ここまで何度となくAランク・名門評価の高校と試合をしつづけてきたことが影響してか、接戦を制して勝利をもぎ取ったのだ。これには渋谷だけでなくリスナーも歓喜に湧いた。

 次戦となった準々決勝。対戦校がほぼ同評価レベルのCレベルとと知ると、「なにいってるんですか、うちはAランク倒してるんですよ?」と余裕を見せた渋谷。だが、ここまで当たりの良かった打線が7安打ながらもチャンスの場面で不発に終わってしまい、なんと敗北を喫してしまった。

「うーわマジかぁ……」「悔しい……」

 Aランク評価の高校に勝利して意気揚々、もしかすれば決勝を突破して甲子園出場まで見えていたなかで、足元を突然掬われたようなムード。あまりの幕切れに呆然としていたところから、徐々に悔しさが滲んでくる……そんな心境と移ろいが配信を通じてダイレクトに伝わってきた。

 配信を通じて「甲子園に出場してステータスをより伸ばしたい」と何度も口にしていた渋谷だったが、結果的には甲子園出場は果たせず、彼が想像していたステータスからすれば見劣りしてしまうところだろう。

 とはいえ渋谷が不安視していた守備力は、何戦にも渡って練習試合をこなした結果かエラーが目に見えて減少するなど、一気にまとまりをみせ、椎名率いるにじさんじ高校や頭一つ抜けたホロライブ高校とも対抗しうる実力を備えることに成功した。

 3年生~2年生組に特殊能力が揃っているため、打線の噛み合いから大量得点を狙いつつ、エースピッチャーの緋月が踏ん張りつづけるという作戦になるだろうか。大会に向けて渋谷ハルがどのような打線を組み上げていくのかが注目ポイントになるだろう。

■不遇・停滞・鬱憤 すべてを跳ねのけて生まれたVTuber高校

 ここまでで振り返った三人が文字通り三者三様のプレイを見せてくれるなか、主催・天開司はどのようなチームを構築したのだろうか。

 まずリスナーに注目されたのが、「天開はだれをメンバーに呼び入れるか?」という点だ。にじさんじホロライブNeo-Porteといった事務所所属の出場者たちと異なり、VTuber高校は「3校以外の事務所に所属している」「個人で活動している」VTuberから選ぶのが方針となっており、その人選は天開次第だ。

 おおまかなラインとしては5年前の大会と同様に「自分の知り合いなどに声をかけ、オッケーをもらったひとから選んでいる」とのことで、誰が登場するかという話題に注目が集まった。

 天開が1年目に選んだのは、ガッチマンVしぐれうい歌衣メイカぽんぽこ、兎鞠まり、赤見かるびの6人だ。

 『FallGuys』でのコラボをキッカケにしてユニット「ALLguys」として活動を共にする兎鞠まり、歌衣メイカガッチマンVの3人はファンにとっても予想通りだったはず。しかし、これまで配信上でほとんど絡みをみせたことがない赤見かるびが選ばれたのには、コメント欄も驚きの声で溢れていた。

 そんなチームをエースとして支えることになったのが、イラストレーターとしても活躍するVTuber・しぐれういだ。「アンダースロー投法」「低め◯」「ノビA」という新入生ピッチャーが入学してきており、選手アナウンスも「ロリッチ」という呼び方(※)があることも発見しており、「これはもうこうする他ないでしょ」と問答無用でしぐれういは誕生したのだった。

(※編注:『パワプロ』の選手アナウンスは、それまでに同作に収録された実際の野球選手もしくは『パワプロオリジナルキャラが中心となっている。かつて南海ホークス近鉄バファローズに在籍したロン・ロリッチという選手はいるものの、同作に収録されたことはなく、なぜアナウンスが収録されているかは謎である)

 しぐれういの楽曲で、昨年大きなバズを記録したキッカケにもなった“ロリ神”として選手名登録、3年間活躍することとなった。

 意気揚々と育成を開始する天開であったが、その道程は楽なものではなかった。

 育成終了した現段階から振り返ってみると、じつはホロライブ高校以外の3チームは甲子園に出場できておらず、3校は横並びであるとみることもできよう。

 だがVTuber高校に関しては、にじさんじ高校・Neo-Porte高校と違って「大会準々決勝以上に進出できない」状態がつづき、選手育成という点でひときわ厳しい結果が続いた。

 「栄冠ナイン」では大会で1勝するごとにおおよそステータス1つ分がアップするようになっており、それ以外の経験値・絆などの数値も上昇するので、地方大会といえども1勝できたかどうかで大きな差が生まれてしまうのだ。

 そんな状況にあって、彼は『パワプロ』の経験値・知識で差を埋めようと試みる。他3人の出場者とは違って彼には企画を立てた5年前、いや、それ以前から同作品シリーズをプレイしてきた圧倒的な経験値がある。くわえて、彼は今作の攻略本をしっかりと仕入れてきたようで、時にはコメントすらも返り討ちにしながらガシガシと育成していった。

 しぐれういを育成する際には「球速とカーブの兼ね合いがあるから150キロ以上はあげたくない。そういったデータがある」とリスナーを諭すなど、積み重ねてきたナレッジをフルに活かした配信をみせてくれた。

「勝つだけ! 勝てば伸びるんだから、 このゲームは!」

 そう気合を入れて進んだ3年夏の大会。まるでベンチから大きな声掛けするかのような口調、しかも時折相手校を「なんなんだよこの野手はよぉ!」「いまゴミ箱叩いてるでしょ? 相手」などと野次りつつプレイしていく天開。その姿は、ホロライブにじさんじNeo-Porteの3校とは一線を画す“野球ファン"感あふれる姿だった。

「いままでの試合運を払拭するような“何か”が起きてるな」

 最後の大会を駆け抜けるあいだ天開がこう話すように、対戦チームにはエラーが多発し、そのミスに乗じてVTuber高校は得点を掴んでいった。チーム育成をスタートしてから2年、その間の停滞・鬱憤を晴らすように打ちまくり、抑えていったのだ。

 ハイライトシーンは2回戦、6回表のシーンだ。1-3とリードされた場面で、赤見かるびが2点タイムリーを放って同点とし、順がすこし進んだ1アウト・ランナー2塁3塁の場面。ここでフォアボールとなったボールをキャッチャーが後逸した。

 すると、そのエラーを見逃さずにホームを狙って激走したのが、3塁走者の赤見かるびだ。ルール上は走ってもいいのだが、当然ながらアウトになりえそうな場面に、CPUがホーム突入の判断をしたのだ。

 これが間一髪でセーフの判定となり、たった1人で3点を稼ぎ出した赤見かるびの大活躍でチームは逆転。そのまま勢いに乗って勝利をもぎ取ったのだ。

 赤見かるびといえば、普段の配信でも常に前のめりなプレイをみせてくれることで多くのファンから愛されているが、まるで本人の魂が乗りうつったかのような千載一遇のファインプレーにより、過去大会で突破することができなかった2回戦の壁を乗り越えたのだった。

 その後は対戦校を次々と破って決勝戦まで進出を果たすVTuber高校。決勝の相手はA評価の強豪校だ。結果からいえば、勝利寸前まで攻め立てるも一歩届かず、地方大会決勝で破れてしまった。だがこれまで2年間に渡る不遇・不運をはねのけ、粘り強いチームへと成長をみせたVTuber高校には、筆者も非常に胸を躍らせて楽しませてもらった。

 大黒柱はもちろん、エースへと成長したしぐれういだ。ジャイロボール・ノビAの補正がかかった球速150キロのストレートを、アンダースローからズバズバと投げ込んでいく。実際のプロ野球シーンにこんな選手がいたならば、きっとその出で立ちだけで画になるようなピッチャーだ。

 こうして、様々なドラマや変遷を経て4校全てが出揃った。4チームを比べると、やはり秋春夏と大会優勝したホロライブ高校のチーム完成度が全体的に高く、「打倒・ホロライブ高校」をかかげて残り3校がしのぎを削る状況にある。

 今大会の方式ではリーグ戦とトーナメント戦をどちらもこなすため、仮にリーグ戦ではうまくいかずとも、トーナメント戦でチャンスさえ掴めれば上位を打倒することも夢ではないはず。18日からスタートする本戦のなかで、どのような試合が展開されるか。今から楽しみにしておこう。

(文=草野虹)

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