本記事は、東洋証券株式会社の中国株コラム『長城街日報~中国株の現場から~』より転載したものです。

「百聞は一見に如かず」日中関係に春はくるか

先日、上海において、欧米やアジアの機関投資家たちと交流する機会があった。彼らのほとんどが"コロナ後"で初の訪中。5年ぶりに中国にやって来たという欧州出身者は「街には見たことも聞いたこともないEV(電気自動車)が走っているね!」と驚いていた。

BYDNIOなどは世界でも知名度が高いが、その他にも数多くの中小ブランドが存在する。地方に行くと、確かに彼が言うように「見たことも聞いたこともないEV」が走っている。

一方、タイ人投資家は「2017年や18年には毎日のように新しいモノやサービスが出ていた。ただ、最近はその勢いが失われているのでは」と語る。彼は17年頃に中国に短期留学しており、その時と比べると......ということらしい。

当時はキャッシュレスや配車アプリ、シェアサイクルフードデリバリーなどさまざまな新しいサービスが登場し、市民生活を活性化させていた。それらは今や、すでに生活の一部になっており、社会全体では落ち着いている感はある。ロボット配送やライブコマースなどの次世代サービスも高揚感にはやや欠ける。

中国の国家移民管理局によると、23年の外国人の中国出入境数は3,548万人だった。前年の約8倍規模だが、19年(9,768万人)と比べるとわずか4割以下。

このテコ入れの意味もあるのだろうか、中国政府は短期滞在のビザ(査証)免除措置の対象国を、東南アジアシンガポールやタイ、マレーシアなど)や欧州(フランスドイツイタリアスペインなど)を中心に広げている。国家主席が掲げる「高水準の対外開放」に基づくものだろう。ただ、日本はまだ含まれていない

ビザ取得が免除されれば訪中者が増える、とは限らないものの、ビジネスや旅行で自由に日中間を行き来したい日本人は少なくない。私の周りでも、短期滞在のビザ免除復活を望む“訪中予備軍”がいる。“コロナ前”は1泊2日の中国弾丸出張すらあったほどだ。まださまざまな制約はあるが、ビザ免除となれば一定のニーズは戻ってくると思われる。

中国が日本のビザ免除を“頑なに”拒むワケ

ビザ発給面で中国の日本に対する姿勢が厳しい背景には、福島第一原発ALPS処理水放出に断固反対という政府方針が影響しているとの見方もある。

両国でなんらかの妥協点を見出す日がいずれ来ると信じているが、それが明日なのか、数ヵ月後なのか、来年以降なのかはまったく読めない。水問題の“水入り”を待つしかない。

「中国における外国人」という観点では、李強首相が2月23日に主宰した国務院常務会議の内容も興味深い。同会議では、外国からの訪問者が中国国内で代金決済を行う際に不便を感じる問題が取り上げられ、当局は決済手段としてモバイル、カード、現金の併用を促進する策を講じるよう求めた。

なにも国の会議で取り上げなくても……と思ってしまうが、独自に進化しすぎた中国のキャッシュレス社会で外国人が苦労するケースは確かに多い。日常生活で現金を使うケースも極端に減った。コンビニのレジで現金を出すと、怪訝な顔をした店員がお釣りを用意するために事務スペースに戻ってしまう光景も目にするほどだ。

また、観光地や博物館の入場や公的機関の入館予約などの際に、中国人が持つ身分証明証の提示・記録が求められ、パスポートしか持たない外国人が呆然とするケースもよくある。私もスマホアプリ上のチケット購入で何度もつまずいた。

外国人宿泊NGというホテルも数多くある。公安の管理面で仕方ないことだろうが、出張や旅行の際に外国人はなにかと制限があるのも事実だ。

とは言うものの、これらが面倒くさいから、はたまた怖いから中国に行きたくないと思うのも極端すぎるだろう。

2月23日に上海市で開かれた天皇誕生日レセプション。在上海日本国総領事・大使の赤松秀一氏は冒頭の挨拶で「百聞は一見に如かず」と強調し、日中間の交流や人の往来の重要性を指摘した。国際交流では、自ら赴いて見聞を広めることも重要だ。

春の到来とともに、ビザや水問題の解決も含め、日中関係になんらかの進展があるだろうか。期待を持って見守りたい。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)