ブレードランナー 2049』(17)ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作『デューン 砂の惑星PART2』(公開中)がいよいよスクリーンに登場した。砂漠に覆われた惑星デューンを舞台にした本作は、1965年にSF作家、フランク・ハーバートによって発表されたベストセラーの映画化。ヴィルヌーヴ以前にも多くの映画人が映画化を試み、なかには製作段階で立ち消えになった企画もあるなど、そのあまりにも壮大な世界観のために「映像化不可能」と言われてきた。原作ファンをも唸らせたヴィルヌーヴ版に至る映像化の歴史を振り返ってみたい。

【写真を見る】スティングがフェイド・ラウサを演じるデイヴィッド・リンチ版の『デューン/砂の惑星』

■戦士として覚醒したポールが宿敵との決戦に挑む!

砂漠に覆われたデューンこと惑星アラキス。皇帝と結託したハルコンネン家の攻撃から逃れ、砂漠の民フレメンと出会ったポール(ティモシー・シャラメ)は、スティルガー(ハビエル・バルデム)やチャニ(ゼンデイヤ)の協力で戦士の訓練を開始する。一方、母レディジェシカ(レベッカ・ファーガソン)はフレメンの教母として彼らに浸透していった。やがて“ムアディブ”と名乗り果敢にハルコンネンと戦うポールを見た人々は、彼を伝説の預言者だと確信していく。そんななか、残忍な戦士フェイド=ラウサ(オースティン・バトラー)がアラキスに着任。全宇宙を巻き込む、壮大な戦いが幕を開ける。

■ダン・オバノン、H.R.ギーガーらを見いだした“幻”のホドロフスキー版「デューン

原作はヒューゴー賞、ネビュラ賞をダブル受賞した「デューン砂の惑星」。前者はファンが、後者は作家などプロが選出する権威あるSF文学賞で、つまり誰もが認めた名作ということ。砂漠の星タトゥイーンで育った少年がフォースを身につけ覚醒する『スター・ウォーズ』(77)、巨大な蟲が生息する不毛の世界で予言の英雄が誕生する『風の谷のナウシカ』(84)ほか、多くの作品にその痕跡が見てとれる伝説的な作品だ。映画化もたびたび企画され、70年代にはB級映画の大御所ロジャー・コーマンや、「猿の惑星」シリーズを大ヒットさせたアーサー・P・ジェイコブスといったプロデューサーが権利を手にしたが映画化には至らなかった。

そんな“幻の企画”のなかで撮影まであと一歩に迫ったのが、アレハンドロ・ホドロフスキー監督だ。『エル・トポ』(70)や『ホーリー・マウンテン』(73)など異色作カルトな人気を誇っていたホドロフスキーは、知人が絶賛していた「デューン」の映画化に着手。無垢な少年が救世主に覚醒する物語は、独自の死生観や宗教観を持つ作品を手掛けてきたホドロフスキーと親和性が高い。アンダーグラウンド畑出のホドロフスキーは観た者の意識を変える映画を目指し、本人曰く「原作をレイプした」ように脚色。独自性の強い物語を生みだした。

一方、ビジュアル面では『2001年宇宙の旅』(68)レベルのクオリティを求め、ダン・オバノン(『スター・ウォーズ』のハイパードライブのVFXを担当)、H.R.ギーガー(『エイリアン』の異星生物デザイン)、ロン・コッブ(『スター・ウォーズ』、『エイリアン』の異星人、メカのデザイン)、漫画家のメビウス(『エイリアン』、『ブレードランナー』の衣装、小道具デザイン)など、その後ハリウッドの第一線で活躍する人材を自ら発掘していった。

キャストも豪華で、皇帝シャダム4世にサルバドール・ダリ、ハルコンネン男爵にオーソン・ウェルズ、フェイド=ラウサにミック・ジャガー、レト・アトレイデス公爵にデビッド・キャラダイン、パイターにウド・キアほか錚々たる顔ぶれを想定。レディジェシカ役に、ヴィルヌーヴ版で教母ガイウス・ヘレンを演じたシャーロットランプリングがオファーされ、原作の大ファンだった彼女は出演を楽しみにしていたとのちにインタビューで語った。

製作費の目処がつかず準備段階で頓挫したその顛末は、ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』(13)で詳しく紹介されている。ホドロフスキーはじめ関係者のインタビューや絵コンテなどの資料で構成され、のちの作品に与えた影響にも言及した力作だ。なお絵コンテを手掛けたメビウスは、1981年にホドロフスキー原作によるコミックス「L'INCAL アンカル」を発表した。未来を舞台に強大な政府と反政府組織の争いや救世主の誕生が盛り込まれており、彼らが果たせなかった『DUNE』にも通じている。また本書はメビウスに心酔する大友克洋の「AKIRA」への影響も指摘されており、つまり「デューン」のDNAはそれこそ無限に広がっている。

■高い評価は得られなかったものの、カルト作として観る価値ありの『デューン 砂の惑星

ホドロフスキーに続いて『道』(54)、『天地創造』(66)といった数々の名作、超大作、話題作をプロデュースしたディノ・デ・ラウレンティスと、その娘ラファエラが権利を取得。約10年がかりでデイヴィッドリンチ監督による『デューン 砂の惑星』(84)を完成させた。もともとリドリー・スコットが監督で起用され、原作者ハーバートも脚本に参加したが作業は難航。そこでラファエラたちは、『エレファントマン』(80)を大ヒットさせた俊英リンチ白羽の矢を立てたのだ。

リンチは自ら脚本を執筆し、長大な原作を2時間17分の映画にまとめた。ナレーションやポールのモノローグでサクサク進めるスタイルはダイジェスト感が否めないが、冒頭に皇帝と宇宙輸送を仕切る航宙ギルドの会談を入れたり、勢力図を挿入するなど独自の工夫が見てとれる。本来リンチは3時間の作品を想定していただけに、ディレクターズカットが観たかった。なおテレビでの放映用に、カットシーンを追加した3時間9分の「TV放映長尺版」も存在するが、リンチはいっさい関わっていない。

本作は高い評価を得られなかったが、ハルコンネンやギルドの奇っ怪なキャラクター造形、歪なセットや造形物のデザインなどリンチらしいビジュアルが満載。モノトーンを基調にした色使いもおもしろい。なお、これがリンチ初のカラー長編映画である。視覚効果も『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(83)の翌年公開作とは思えないローテクぶりだが、リンチ作品の常連サウンドデザイナー、アラン・R・スプレットの不気味な効果音と相まって不思議な味わいを醸している。クセモノ好きの映画ファンなら、一見の価値あるカルト作なのだ。

■堅実な作りが評価され、続編も制作されたテレビドラマ版「デューン

衛星、ケーブルテレビの時代に入ると、SF専門の放送局Sci-Fiチャンネル(Syfy)が、ミニシリーズ「デューン 砂の惑星」を2000年に放送。スケールはともかく、原作の主要エピソードを押さえた堅実な作りで評価され、続編「デューン 砂の惑星 II」(2003年放送)もリリースされた。ドラマ版をプロデュースしたリチャード・P・ルービンスタインは、その後映画化を模索。長年にわたって準備をした彼から権利を受け継いだのが、『パシフィック・リム(13)や『GODZILLA ゴジラ』(14)以降のモンスター・ヴァースなどレジェンダリー・ピクチャーズで数々の超大作を手掛けてきたメアリー・ペアレントだった。「デューン」の映画化が夢だと公言していたヴィルヌーヴを監督に迎え、『DUNE/デューン 砂の惑星』(20)を製作。そして、いよいよ続編『デューン 砂の惑星PART2』も公開となった。

■“砂の惑星”を映像化することにこだわったヴィルヌーヴ版「デューン

これまでのリンチ版、ドラマ版に対し、初めて成功の烙印を押されたヴィルヌーヴ版。両者の一番の違いはデューンことアラキスの描写にある。原作は環境と人間の関わり、エコロジーを大きなテーマに掲げているが、リンチ版は自然より人工的で埋め尽くされたハルコンネンの惑星ジェディ・プライムにこだわった作り。ドラマ版は多彩な登場人物が織りなす群像劇に力点を置いていた。

その点、ヴィルヌーヴは前作で自然の過酷さ、雄大さ、美しさをこれでもかと描写。それを踏まえて『PART2』では、砂虫=サンドワームのスペクタクルなどスケール感ある見せ場を次から次に展開する。視覚効果もミニチュアを多用するなど、デジタルに頼りすぎないオーガニックなテイストで統一された。砂の惑星を体感させる、理想的な形で映像化された本作の壮大な世界をスクリーンで味わってほしい。

文/神武団四郎

ベストセラーSF小説「デューン砂の惑星」の映像化に挑んだ映画人たちの軌跡に迫る(『デューン/砂の惑星』)/[c] 1984 DINO DE LAURENTIIS COMMUNICATIONS. ALL RIGHTS RESERVED.