洋上で働くことが多い海上自衛官ですが、海の上はなにも船だけとは限りません。離島や、橋が架かっていないところも。そのような場所では風がちょっと強いだけで帰ってこれなくなるそうです。

風が強いと家族と離れ離れに

このところ暖かな日も増え、関東では2月15日に3年ぶりとなる春一番が吹きました。低気圧の影響で強風が吹きやすい春先、海上自衛隊ではたびたび「海の交通マヒ」に出くわします。

護衛艦などの大きな艦船であれば、台風クラスの強風が吹かない限り影響を受けることはありませんが、交通艇などの小さな船はちょっとした風でも出港を見合わせることになります。具体的には、風速10m以上になると小型船が欠航するので、強風の多い時期は関連部隊で働いている隊員にとっては予定変更ラッシュになることも。

たとえば、横須賀駅至近のヴェルニー公園などからも見える離れ小島「吾妻島」には海上自衛隊アメリカ軍の施設があります。この吾妻島は、横須賀湾と長浦湾を結ぶ新井掘割水路によって隔たれているため、小さな定期船に乗らないと行けないのですが、渡ったあとに風速が10mを超えてしまったら帰ってこられません。

仕事をしているだけなのに、強風が吹いただけで孤島に閉じ込められてしまい、場合によっては一夜を明かすなんて、突然のサスペンス展開に突入といえるでしょう。

とはいえ、あらかじめ天気予報で風速はチェックしてあるので、「そして誰もいなくなった」とはならないそう。しかし地元の人に聞いたら、出勤しても風が止むまで待機というのは、たびたびあるようです。

悲喜こもごもな強風の「きまぐれ」

ほかにも、沖に停泊している護衛艦から搭載艇などで上陸したい場合、ある程度の風速であれば出港するのですが、ここで怪我をするわけにもいかないので無理はしないようです。

なので、錨泊時に当直員以外の上陸や、はたまた連絡や会議に出席するなどの理由で上陸したくても、強風のため叶わなかった……なんてことも。目の前に陸地が見えているのになんとも切ない状況です。

海上自衛官である夫のやこさんは以前、横須賀教育隊で勤務していたことがあるのですが、教育で使われる短艇も強風が吹くと出すことができないそう。短艇が収納してある倉庫に掲げられた吹き流しが真横になると風速10mなのですが、学生にとっては地獄の実習である短艇も、この吹き流しが真横になるとちょっと嬉しいのだとか。

立場によって悲喜こもごも分かれる強風。本格的な春になるまではまだ油断できない模様です。

大時化のなか、荒れ狂う高波を打ち破って突き進む護衛艦「たかなみ」(画像:海上自衛隊護衛艦隊)。