爆音を耳にしながら朝ごはんをとっています。脳内はちょっと混乱していますが、目の前に広がる光景は、大きな木々と煉瓦(れんが)を組み立てていく現代的な工程とは程遠い建設途中の建物。飛び交う野鳥の声は美しくも、時折ドスの効いた低音とのハーモニーが何ともいえません。

 そう、私は今、日本ではない場所でこのコラムを書いています。旅行ではなく、長年の目標だったアフリカ大陸訪問です。国際NGO「難民を助ける会(AAR Japan)」の取材を昨年受けた際、「生きているうちにアフリカへ行きたい」というお話をしたのです。その縁で、ウガンダに来ることが叶(かな)いました。

 訪問前から母や仲間からは「危険な場所にわざわざ今行く必要があるの?」と何度も聞かれました。私にとっての「今」は、個々人で異なると思っています。特に、今まで支援のために訪れた国とは異なり、あらゆる部族がいるがゆえに紛争のイメージがこびりついています。サファリなどとても魅力的なアフリカ大陸ですが、そんな一面だけじゃないことを知ったのは映画「ホテル・ルワンダ」を見た時でした。ルワンダだけでなく、コンゴソマリアスーダンなど、長年続く紛争によって多くの血がこの大地に流れました。そのたびに再生しては、また破壊されていきました。

 ウガンダで訪れたのは、カンパラ市内のキセニスラムや市外の難民居住地。出会う人々の瞳は、うつろというより輝きでした。希望を見つめる子どもたちの存在は、大人にとっては生きる希望。だけど現実問題、生活環境はそう甘くないことを示していました。その希望はどうしたら濁らないのか?  私にできることは何なのか?  大量のゴミ、排出ガス、整備が行き届いてない道路。本来は学校に通っているはずの少年少女が、生活に必要な水をくみに何キロも歩く。自分の背丈よりも大きいボトルを運んでいる子もいました。昼寝をする男性たちとは裏腹に、女性たちはひたすら働いている印象がありました。農業が盛んなため、野菜を売り、ローカルフードを作る。女性がとても強く生きようとしているのが分かりました。アフリカの切り取られた写真と映像にはない現場の匂いを感じました。

 彼らが言う「私たちは世界から見放された」。・・・胸が詰まる言葉でした。独裁化したウガンダの現状に国民は立ちはだかる術はないのか? ここはSDGsとは程遠い、不平等な世界。本気で気候変動を考えるのなら、やるべきことはたくさんあります。本気で未来を考えるのなら、世界のトップは政府との会食ではなく、アフリカ大陸の現状、リアルな生活をその目で見て、国民の声に耳を傾けるべきです。

 忘れ去られた人々は、今もこの世界でわが子のために生きる選択をしています。アフリカの資源採取によって豊かになる私たち。アフリカの人々は貧しいのではなく、無意識に彼らの人権を守っていないのでしょう。知性を奪ったのも無関心な世界。人間は皆、生きています。人は誰一人、道具でも駒でもない。旅を通して改めて、肌の色でも宗教でもなく、尊厳を持って人と人が関わり合える世界を願わずにはいられませんでした。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.11からの転載】

サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。

アフリカの〝忘れ去られた人々〟 【サヘル・ローズ×リアルワールド】