学校の補習授業の時間、教室には女子生徒と教師二人きりだった。一見すると先生と教え子以外の何ものでもないお互いの関係だが、実は教師にとってその生徒はかけがえない「先生」その人で――。

【漫画】「先生×先生」を読む

矢尾いっちょ(@1203Yao)さんの創作漫画「先生×先生」は、「学校の先生」と「マンガの先生」、異なる“先生”同士の駆け引きが笑える短編作品。教師は教え子が推しの同人作家だと知っていて、なんとか補習を切り上げて創作の時間を確保させたがるが、女子生徒には補習を引き延ばす理由があり……というストーリーで、X上では2.9万件を超えるいいねが寄せられた。そんな同作の舞台裏を作者の矢尾いっちょさんに取材した。

■「“先生”という言葉の意味を考えるきっかけに」コメディだけじゃない思い

矢尾いっちょさんは、同作は学校をテーマにした作品のネタ作りの中で浮かんだアイデアがもとになっていると話す。「教師が生徒に羨望の眼差しを向けるようなことがあったらどういうものなんだろう?と考えたことがきっかけです。そこから、互いに違う立場でリスペクトしあえる関係の表現として“先生”という言葉を使った本作に仕上がりました」

登場人物の芦谷さんと深町先生は「どちらも表はクールを取り繕い、その裏で大きな情熱を抱えている」という共通点があると話す矢尾さん。それゆえにキャラクターの差別化には少々苦労したそうで、その切り口として「大人と子どもの目線の違い」を見出し、大人の教師と子どもの生徒、それぞれの立場からのギャップにフォーカスしていったという。

作品制作の意識では、「とにかく読者に飽きられないようにすることを心がけています」と話す矢尾さん。「そのためにもキャラクターの表情や行動、展開を魅力のあるものにするため努力しているつもりです」と、短編で読者の心を掴む狙いを明かす。

一方で、先生という題材を描くうえで「ただのコメディではなく、少しだけ“先生”という言葉の意味を考えるきっかけになれば」と、シリアスなシーンも挿入されている。「“先生”とは尊敬や救いを求めて相手に使うことが多い言葉であり、一方で言われたほうにはいくらかプレッシャーのかかる言葉だと考えています」と、笑いだけではない視座も含めて本作を描いたことを語る。

矢尾さんは読切の作品のほか、SNS上で「できない弟子とやらない師匠」と「痩せれませんよ?もちやさん」の二作品を連載するほか、電子書籍で「どっちかわからないクラスメイト」シリーズも公開している。

こうした連続したストーリー作品と短編の違いについて訊くと、「続きものの作品では『長期的な話の中で変わっていくキャラクターの変化や成長』、読み切りでは『後先を気にしなくてよい瞬間的で突飛なおもしろさ』など、それぞれ読者に楽しんでもらうために、使える演出が大きく異なると思っています。今後もそれらをなるべく意識して描きわけ、よりたくさんの人に作品を読んでいただきたいです」と話してくれた。

取材協力:矢尾いっちょ(@1203Yao)

学校の教師が「先生」と慕ってやまないのは、自らの教え子だった!お互いに先生同士な生徒と教師のシチューエション短編「先生×先生」/作:矢尾いっちょ(@1203Yao)