●静岡・浜名湖の鰻店は、関東風、関西風の店が混在。西と東の味がせめぎ合う天下分け目のエリアで、二つの味を同時に食べられるお店に行ってきた

 静岡県浜名湖といえば名物は鰻。周辺には20軒以上の鰻の店があり、名産品として高い人気があります。浜名湖の鰻は、浜名湖天竜川などで採れたシラスウナギという稚魚を使用し、湖畔で伝統的な養殖方法を用いて育てられたもの。特徴は、ふっくらと身が大きく脂がのっていて、旨みがぎゅっと詰まっていること。生産量、消費量ともに全国でトップクラスです。

 浜松は鰻の調理方法が2通り楽しめる、全国でも珍しい地域です。背開きで蒸してから焼く関東風、腹開きで蒸さずに焼く関西風がありますが、だいたい浜松を境にして分かれるため、このエリアでは両方の調理方法のお店が混在。同じ浜名湖産の鰻でも、関東風、関西風の焼き方が楽しめるんです。

 その中でも特に気になるお店があります。それは、グルメドラマ「孤独のグルメ」にも登場したお店です。蒲焼きと白焼きの2つが楽しめる「二色まぶし」が人気で、しかもこの「二色まぶし」は、いろんな食べ方が楽しめるといいます。それはどんな料理なのかを探るべく、早速浜名湖かんざんじ温泉に出かけました!

『うなぎ和食処 松の家』で、浜名湖産の鰻を食す!

和風の落ち着いた店内
和風の落ち着いた店内

 浜名湖の観光スポット、かんざんじ温泉周辺には10店舗の鰻店が軒を連ね、多くの観光客で賑わっています。中でも昼時には行列もできる人気店が、『うなぎ和食処 松の家』です。1960(昭和35)年に創業し、人気ドラマの「孤独のグルメ」でも紹介された老舗の名店です。

一度に3度、いや6度美味しい「二色まぶし」

ふたつの味が楽しめる「二食まぶし定食」3500円
ふたつの味が楽しめる「二色まぶし定食」3500円

 お目当ては、孤独のグルメの五郎さんも唸った「二色まぶし定食」です。創業当初から継ぎ足しの秘伝のタレで焼く蒲焼きと、白焼きの二つの丼の定食です。ちなみに『うなぎ和食処 松の家』は、関西風でかつ背開きで、蒸さずに焼くタイプです。

厚みのある浜名湖産の鰻
厚みのある浜名湖産の鰻

 鰻のサイズの規格を示す「P」という単位ですが、これは「ピース」の略で「1kgあたりの鰻の匹数」を表したもの。『うなぎ和食処 松の家』は、4pから3pの鰻を使用、身は大きくしっかりとしています。まれに品質、大きさを保つため鹿児島産の鰻を使うこともありますが、ほぼ100%浜名湖産を使用しているとのこと。肉厚でふっくらとした鰻が味わえます。

さっぱりとポン酢でいただく白焼き
さっぱりとポン酢でいただく白焼き

 さあ、やってきました「二色まぶし定食」。二つの丼には大きな半身の鰻がドーンと乗り、ボリュームもたっぷりです。東京の鰻店では白焼きの単品はありますが丼となると珍しく、筆者も初めていただく料理です。しかし浜松、浜名湖エリアではポピュラーなものだそうで、白焼きの専門店もあるんですよ。

食べやすいように刻まれた鰻
食べやすいように刻まれた鰻

 丼の鰻はどちらも細かく刻まれていて、まずはそのままいただきます。蒸さずに焼き上げた鰻はやわらかでありながら、しっかりと身は締まり脂も乗ってとっても美味しい。次に白焼きは、ポン酢でいただきます。あっさりとしていていながらも旨みが凝縮、同じ鰻なのにこんなに違うものかと驚きです。

最後はだしをかけてお茶漬けに
最後はだしをかけてお茶漬け

 次にネギ、山椒、ワサビなど薬味を入れて食べてみます。意外と鰻にネギやワサビを入れて食べたことはなかったけれど、これはとっても合います。さらに半分位食べたら、だしを入れてお茶漬け風に。あられワサビ、鰹だしが効いて旨さ倍増! まずはそのまま、それから薬味を入れて、さらにお茶漬けと3度美味しい×2つの鰻で、6度味変できるというとっても楽しい鰻丼でした。

一度は絶対食べるべきメニュー! 冬季の人気No.1の「牡蠣カバ丼」

一度は食べてほしい「元祖牡蠣カバ丼」1800円
一度は食べてほしい「元祖牡蠣カバ丼」1800円

 次に紹介したいのは、「牡蠣カバ丼」です。浜名湖の名物はもちろん鰻ですが、温暖な気候や汽水である浜名湖は、他にも牡蠣やしじみなど美味しい特産物がたくさんあります。身が大きく火を通しても縮まない浜名湖の牡蠣。この美味しさをもっと知ってほしいと、開発されたのが「牡蠣カバ丼」です。

 商工会や浜名湖丼研究会、飲食店などが参加し商品開発を開始。試行錯誤を経てできたのが鰻のタレを牡蠣に絡めて炒める「牡蠣カバ丼」です。当時、舘山寺調理師会の会長を務めていた『うなぎ和食処 松の家』の店主がお店で出したのが始まりで、今では浜名湖周辺の12店舗で味わえる、新たな名物の丼です。

ゆずのすりおろしがかかり、あっさりといただける
ゆずのすりおろしがかかり、あっさりといただける

「元祖牡蠣カバ丼」は浜名湖産牡蠣に、自家製うなぎのタレに絡めて炒める丼。付け合わせは、甘みのある遠州浜松の野菜を使用。「鮮度が命」と地元のスーパーですら見かけない浜名湖産の牡蠣は、水産業や牡蠣業者から直接飲食店へ卸すのが通例で、現地の飲食店でしか味わえないもの。特徴は、身の大きさで、火を入れても全く縮まず、ダシなどを含んでさらにブリンと大きくなって、食べ応え十分です。冬季限定の商品ですが、ミネラル豊富に育った大きな浜名湖産牡蠣は本当に美味しいので、ぜひ味わってみてください。

まとめ

うなぎ和食処 松の家』では、和食処と謳うだけあって、他にも遠州灘の天然とらふぐや鱧などのコース料理や、浜名湖すっぽんのコースなど、多彩なメニューを揃えます。浜名湖産の美味しい鰻が2つの味で味わえる「二食まぶし」は、何度も味変ができて楽しい料理です。また、新名物の「元祖牡蠣カバ丼」の美味しさにも驚きます。これはどちらを食べるか相当迷うのですが、鰻と牡蠣を両方楽しめる「牡蠣カバうな丼」もあるから大丈夫。夏には鱧のカバ丼も登場してこちらも人気。近くに行ったら必ず寄りたい老舗の名店です。

●SHOP INFO

店名:うなぎ和食処 松の家

住:静岡県浜松市中央区舘山寺町2306-4
TEL:050-5890-2446
営:10:30~14:30、17:00~20:00
休:火曜

●著者プロフィール

矢巻美穂(やまき・みほ)
国内外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマンで、撮影から執筆・編集作業まで行う。単著としてネパール、台湾、ウズベキスタン、韓国、ウラジオストクなどのフォトガイドブックを執筆。近著は『東京で台湾さんぽ』(イカロス出版)。また、YouTubeで「旅ちゃんねる MinMin Tour」をオープン。これまで取材に行って、本当に美味しかった店や行ってよかった人気スポットを紹介。

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