最近はマッチングアプリの流行とともに、「パパ活」と呼ばれる援助交際をよく耳にするようになりました。

ただ、ほとんどの人にとってこれは非常に受け入れがたい関係でしょう。

では一体どういう人達が、この関係を受け入れやすいのでしょうか?

特に日本では援助交際が非常に若い世代から受け入れられ、流行しているように感じられますが、国や地域によってこの関係の成立のしやすさに違いはあるのでしょうか?

ハンガリー、ペーチ大学(University of Pécs)で進化心理学を研究するノルベルト・メシュコ(Norbert Meskó)氏を筆頭とした、国際研究チームはこの問題を明らかにするため、全世界規模の調査を実施しました。

この研究では、男性の方が女性より援助交際を受け入れやすなどのいくつかの傾向が示されましたが、その他に「地域の寄生虫感染などのリスクの高さ」が、援助交際の受け入れやすさに影響しているという変わった結果も明らかになったという。

研究の詳細は、2023年12月21日付の『Archives of Sexual Behavior』誌に掲載されています。

目次

  • 経済的に発展した国ほど「援助交際」を受け入れやすい
  • 感染症ストレスが高い」と受け入れやすくなる

経済的に発展した国ほど「援助交際」を受け入れやすい

性的な関係を資源と交換する行為は、何世紀にもわたって一般的でした。こうした「伝統的な」売買春は、純粋なビジネス取引と見なされてきましたが、現代的な関係はより複雑で、これらとは区別されています。

資源を持つ個人が相手に支援を与える点は共通しますが、現代の関係では「心のつながり」を求める当事者もいます。そして、与えるものは「サービス対価」ではなく「贈り物」と位置付けられることもあるのです。

特に年上の裕福な人と年下の人との間の疑似恋愛関係を、海外では「シュガーリレーションシップ(Sugar Relationships)」と呼び、「伝統的な」売買春とは区別されます。ここでは「心のつながり」を求める当事者もおり、与えるものは「サービス対価」ではなく「贈り物」と位置付けられることもあります。

この関係について、日本では「援助交際」または「パパ活」という呼び名が一般的でしょう。ただここでいう援助交際は、裕福なおじさんと若い女性だけでなく、裕福なおばさんと若い男性の関係も含みます。

今回の研究では、メシュコ氏を筆頭として約100名の研究者が集まり、「シュガーリレーションシップの心理的背景」を探るための大規模調査が実施されました。研究の目的は、個人の性質や社会的背景が、こうした関係の「受け入れやすさ」にどう影響するかを明らかにすることです。

調査対象は、世界176か国から集まった118,324人。そこから指示に正しく回答できなかった人などを除外して、最終的には87カ国69,924人(男性33.5%、女性65.1%、その他)のデータが収集されて統計的に分析されました。

各地域内での受容度の世代間差を示す。色が濃いほど、若い世代の方が年上世代よりも”甘い関係”を受け入れやすいことを示す。
各地域内での受容度の世代間差を示す。色が濃いほど、若い世代の方が年上世代よりも”甘い関係”を受け入れやすいことを示す。 / Credit: Meskó, N. et al(2023)

結果の概要を、順を追ってみていきましょう。

男性は女性より関係を受け入れやすい

年齢に関わらず、男性は女性よりシュガーリレーションシップを受け入れやすいことがわかりました。これは、伝統的な「男性が資源を提供し、女性がその資源の提供を基に男性を選ぶ」という力関係が、恋愛関係の好みにも影響する可能性を示しています。

性的な関係にオープンな人ほど受け入れやすい

いわゆるカジュアルセックス」に前向きな人は、この関係を受け入れる傾向が強いこともわかりました。こうした人は、シュガーリレーションシップがカジュアルセックスの一形態と見なし、すでに受け入れている性的関係の範疇に含めているようです。

ナルシストやサイコパスも受け入れに前向き

ナルシストやサイコパス、マキャベリスト(他人を利用することに長けている人)なども、こうした関係に前向きでした。

これら性格特性を持つ人々は、人間関係を「何かを得るためのもの」と捉える傾向があります。これは、シュガーリレーションシップという関係形態と合致すると考えられます。

社会的背景(文化、貧困)との関係

集団主義的な社会では、シュガーリレーションシップへの受け入れが低い傾向にあります。社会の調和を重視し、非伝統的な関係を好まない文化的価値観が影響するようです。

性別不平等が大きく、社会福祉レベルが低い地域では、シュガーリレーションシップへの受け入れが高いこともわかりました。経済的圧力やジェンダーの力関係が、人々を援助交際に向かわせている可能性がありそうです。

一方で、貧困や経済的に遅れのあることが、直接的に援助交際に向かわせるわけでもなさそうです。研究では、「人間開発指数(国民ひとりあたりの所得や教育、平均寿命をもとに算出したその国の暮らしの豊かさ)」が高い国ほど、この関係性にオープンであることがわかりました。

つまり豊かな国ほど援助交際が社会の中で成立しやすくなると言えるのです。

この結果について研究者らは、「経済的必要性ではなく、より良い生活を求める欲求が、こうした関係の選択に関与している可能性がある」と分析しています。

なお、日本の人間開発指数(HDI: Human Development Index)は2021年の国連開発計画報告書によると世界(191か国)で19位でした。

「感染症ストレスが高い」と受け入れやすくなる

今回の研究報告では、援助交際の受け入れやすさについて性格特性や経済状況とは別に、まったく関連性を感じない変わった条件があることも明らかになりました。

それが「寄生虫や病原体のストレスレベルが高いほど、シュガーリレーションシップを受け入れやすくなる」という結果です。

これは、寄生虫や病原体の蔓延する国や地域では、人々がお金や支援を得るための交際への抵抗が低くなることを示すものです。

個人レベルでも、「頻繁に感染する人」ほど、シュガーリレーションシップに対してより開放的である傾向がみられました。

不安が援助交際という搾取的関係に向かわせるのかもしれない。
不安が援助交際という搾取的関係に向かわせるのかもしれない。 / Credit: Canva

この結果だけをみると、「寄生虫に感染すると、性的にオープンになっちゃうの?」と頭にハテナが浮かんでしまうかもしれませんね。

実際、「米国版2ちゃんねる」とも呼ばれるRedditには、「飼い猫にトキソプラズマ症を移された人たちが、金持ちのおっさんを探し回る姿を想像してしまう…」「寄生虫だらけの国の人々は、病気にかかるリスクを複数のパートナーに分散させているんだ」など、誤解コメントが並んでいます。

しかし、寄生虫が人を操るわけでも、人がリスク分散に走るわけでもなく、「感染症への不安が態度形成に影響し、結果として援助の関係にオープンになるということのようです。

これは、最近登場した「パラサイトストレス理論(Parasite-Stress Theory)」とも一致します。

パラサイトストレス理論とは、「寄生虫や病原体の脅威の高さが、その地域の文化や社会形成に影響する」という考え方です。

この考え方に従うと、寄生虫などへの感染リスクが高い地域では、人々は伝染の悪影響からお互いを守るために集団主義傾向が強くなります。これにより伝統的な性別役割を重視する傾向も強まります。

本研究の文脈では、「人々が健康への不安を軽減し、生存に必要な資源を確保するための戦略としてシュガーリレーションシップを受け入れやすくなる」と解釈できるというわけです。

日本も集団主義的な傾向が強く、また援助交際が幅広く社会で受け入れられている印象があります。

なぜ日本で援助交際が流行るのかという疑問について、今回の研究は一つの可能性を示しているかもしれません。

シュガーリレーションシップが一見魅力的に見える背後には、根深い不安が存在する可能性もあります。このような関係への態度は、個人の性格だけでなく、その人が置かれている状況から生じる心理状態によっても影響される点は、理解しておきたいところです。

研究者らは、とくに若者に対して、シュガーリレーションシップによって搾取的な関係に巻き込まれるリスクがあると警鐘を鳴らしています。

こうした交際は、若者が経済的に自立する手段ではなく、被害者になるリスクが高いものだ」と強調しています。

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参考文献

Psychological predictors of openness to sugar dating: Massive global study reveals key insights
https://www.psypost.org/psychological-predictors-of-openness-to-sugar-dating-massive-global-study-reveals-key-insights/

元論文

Exploring Attitudes Toward “Sugar Relationships” Across 87 Countries: A Global Perspective on Exchanges of Resources for Sex and Companionship | Archives of Sexual Behavior
https://link.springer.com/article/10.1007/s10508-023-02724-1

ライター

鶴屋蛙芽: (つるやかめ)大学院では組織行動論を専攻しました。心理学、動物、脳科学、そして生活に関することを科学的に解き明かしていく学問に、広く興味を持っています。情報を楽しく、わかりやすく、正確に伝えます。趣味は外国語学習、編み物、ヨガ、お散歩。犬が好き。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

寄生虫などの感染リスクが高い地域は援助交際を受け入れやすくなる?