にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史
『にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史』(みの/KADOKAWA

 iTunesSpotify等の音楽サブスクリプションや、TikTokをはじめとするSNSの普及により、昔と比べて音楽の入手方法や視聴方法が多様化した。そして、パソコンソフトで歌声を作成するボーカロイドの誕生であったり、親指1つで時代や世界を超えて曲が聞けたりと、時代の潮流に反映されながら、音楽の在り方が変遷し続けている現代。

「日本の音楽は一貫した歴史観がないため、うまく解説できない」 そう語るのは、チャンネル登録者数44万人を超えるYouTuber、「みのミュージック」のみの氏。古今東西の音楽について語り、解説し、評論をする動画が、多くの音楽ファンを魅了している。邦楽通説史がないということに、長年疑問を抱き、それを自らの手で解決しようとしたのが『にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史』(みの/KADOKAWA)である。本書は、縄文時代から平成時代までのありとあらゆる邦楽と政治、カネ、産業、紛争等の結びつきを紐解き、より音楽の素晴らしさを再認識できるような一冊である。

邦楽通説史が誕生したからこそわかる、「にほんのうた」の変遷が今、解き明かされる。

「にほんのうたは明治時代で大きく変化した」その理由とは

 邦楽のターニングポイントは明治時代。教育・生活・技術・軍事などが、新政府によって西洋式へ転換したとき、音楽も西洋化へ思いっきり舵をきった。しかも、これまで育んできた伝統的な日本の歌や芸能と決別することを目指し、西洋式の音楽教育を国民に刷り込ませたのであった。日本人の音感を唱歌教育を用いて西洋式に改造するという、国家レベルの大プロジェクトにより、日本の音楽は明治期にねじれが生まれてしまったのだと著者は語る。

 突然だが、楽譜を頭で思い描いてもらいたい。

多くの人は、5本1組の平行な直線を思い浮かべるだろう

 多くの人は、5本1組の平行な直線を思い浮かべるだろう。これは五線譜といい、日本の伝統音楽や民謡には使用されていた。しかし、三味線音楽や民謡の歌唱のように五線譜上の”オタマジャクシ”では、決して表現することができない音(ドと#ドの中間)が存在していた。邦楽ならではと言わんばかりの音は、明治初期の音楽教育を取り仕切る、文部官僚の伊澤修二が、「邦楽はすべて五線譜で説明が可能だ」と結論づけてしまったのであった。

 明治時代の1シーンを切り取っただけでも、邦楽と政治の強い結びつきを感じることができたであろう。私自身本書を読み、ここまで繋がりがあるとは知らなかった。以前まで、孤立していた点のように見えた邦楽が、ありとあらゆる事柄と結びつき、読み終わる頃には、まるで旋律を奏でるかのような線になる。この感動をぜひ味わってもらいたい。

 あなたも音楽の世界に飛び込み、邦楽を探る旅を始めようではないか。

文=茂木 有芽

いま、編集部注目の作家

「日本の音楽は一貫した歴史観がなく、うまく解説できない」縄文から平成までの、ありとあらゆる邦楽と政治・カネ・産業・紛争などとの関係性をひもとく1冊