大谷(左)はなぜ大衆に愛され、社会現象となるのか。そのワケをイチロー(右)の言葉から探った。(C)Getty Images

 いまや大谷翔平ドジャース)の名を聞かない日はなくなった。そう言っても過言ではないだろう。

 ひとたびネットやSNSに目を通せば、彼のありとあらゆる話題がトレンドになっている。先月29日に結婚を発表した“愛妻”田中真美子さんとのロマンスはニュースにならない日はない。テレビにいたってはスポーツを専門としないワイドショーや報道番組が「速報」と銘打ち、ふたりの一挙手一投足を大々的に伝えるほどだ。

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 これは皮肉などではなく、この社会的なムーブメントを巻き起こしている現状はいささか異様にも映る。ただ、それだけ大衆の関心が大谷に向いており、誰もが異次元の野球人を「見たい」と思っている証左とも言える。

 そして、ふと思う。なぜ社会に影響を及ぼすほど人々の関心は大谷に向くのか。パッと想像するだけでも、理由は数多に存在する。現球界で唯一無二と言われる二刀流を「最高峰」と言われるメジャーリーグで続け、「投打W規定到達」や「日本人史上初のメジャー本塁打王」といった数々の金字塔を打ち立ててきた確固たる実績、そして強者揃いのメジャーリーガーたちを唸らせるほどの飽くなき向上心と野球に対する真摯に向き合う姿勢などが「答え」なのかもしれない。

 しかし、野球に限らず、世界の大舞台で活躍を続けてきた日本人アスリートはこれまでも多くいた。さらに真摯にスポーツに向き合うひたむきな選手もごまんといる。決して大谷に限った話ではないのではないか。

 ではなぜ、“大谷だけ”がやることなすこと全てに熱視線が注がれるのか。この疑問を紐解くヒントになり得る言葉を、球界のレジェンドが残していた。日米通算4367安打を放った天才ヒットメーカー、イチローである。

 今から5年前の3月、イチローが現役引退をした日のことだった。当時の大谷は18年9月に受けたトミー・ジョン手術からのリハビリを余儀なくされ、二刀流継続への懐疑論も根強く残っていた。まさか数年後に世界的な時代の寵児になるとは誰もが想像していなかった。

「これは化け物ですよね。でもそれは想像できなくないです」

 ただ、イチローだけは違った。天才は特大のポテンシャルを秘めた24歳を信じ、そして時代を変えると期待していた。引退会見の場で「大谷が今後どんな選手になるか」と問われた去り行くレジェンドは、「あのサイズであの機敏な動きができるというのはいないですからね。それだけで。世界一の選手にならなきゃいけないですよ」と断言。そして、こうも論じた。

「ワンシーズンはピッチャー、次のシーズンは打者として。それでサイ・ヤング賞ホームラン王を取ったら……。そんなこと考えることすらできないですよ。でも、翔平はその想像させるじゃないですか、人に。この時点で明らかに人とは違う、違う選手であると思うんですけれど。

 その二刀流は面白いと思うんですよね。ピッチャーとして20勝するシーズンがあって、その翌年には50本打ってMVP取ったら、これは化け物ですよね。でもそれは想像できなくないですからね。そんな風に思っています」

 日本人はどこか欧米人に対して憧れや劣等感を抱きがちだ。そうしたなかで、世界を相手に果敢に挑み続けてきた大谷は、観る者に「こうなるんじゃないか」と想像をさせ、それをあっさりと超えてしまう(もちろん本人の努力の賜物である)。そして、人々に次なる想像をさせる。

 イチローの言葉の真意は定かではない。だが、彼が「人とは違う」と言ったように大谷は一世一代の傑物だ。想像を連鎖させていくアスリートなどそうそういない。そこに他と選手たちの“違い”が生じているのかもしれない。だからこそ、大衆は「この男は何かが違う」と興味を抱き、社会現象にまで発展するのだろう。

 周知の通り、大谷は昨年12月にドジャースと10年総額7億ドル(約1015億円)というプロスポーツ史上最高額の契約を締結し、またひとつ人々の想像を超えた。そんな始まったばかりの10年間で「日本の至宝」とされる男は、どれだけのドラマを生み出すのか。列島を揺るがせる偉才への興味は尽きそうにない。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

大谷翔平はなぜ“社会現象”となるのか? ふと蘇ったイチローの言葉「翔平は想像させるじゃないですか、人に」