リアルサウンドテックの新連載「ゲームクリエイターの創作ファイル」では、“ゲーム作り”にフォーカスしてクリエイターたちにインタビュー。その真髄に迫っていく。

参考:【写真】「ゲーム作りのおもしろさ」を語った吉田直樹氏のインタビューカット

 第1回はオンラインRPG『FINAL FANTASY XIV』(FF14)のプロデューサー兼ディレクター(P/D)として知られ、2023年に発売されたアクションRPG『FINAL FANTASY XVI』(FF16)ではプロデューサーを務めた吉田直樹氏に、多忙を極めた日々のエピソードや過去の思い出深い出来事、そしてゲーム作りのおもしろさについて聞いた。

■「プロデューサー」と「ディレクター」にもうひとつ「プロデューサー」が乗っかってきた

――『FF14』のP/Dを務めながら、昨年はプロデューサーを務める『FF16』の発売という大きなトピックもありました。オフラインのゲームでかつ、ストーリードリブンの超大作となった『FF16』での経験によって、ご自身に変化はありましたか?

吉田直樹(以下、吉田):これはよく聞かれる質問なのですが、正直あまり変化というものは感じていないのです……。僕がインタビュー等をお受けするようになったのは、『FF14』でお客様の信頼を取り戻すために、顔も名前もわからない人間のままではいけない、と思ったことがきっかけでした。だからどうしてもオンラインのイメージが強いとは思うのですが、キャリアの半分以上はオフラインのゲームを作ってきていますし、ゲームというエンターテインメントを作る、お客様に楽しんでもらうための基本はブレていないつもりです。

 どちらかと言うと、いわゆるトップエンド/ハイエンドのグラフィックスパイプラインや、ワークフローから見直したことは、すごく学びになりました。ハイエンドの新しいゲームを作るときには、必ず挑戦が伴います。『FF14』の新生のスタートである『新生エオルゼア』は、PlayStation 3でも動くようにと開発されています。そこから十数年経過し『FF16』を開発する際には、テクノロジー、パイプラインの飛躍、ワークフローを変えなければいけない、変えた方がいいところが明確にありました。当然、日々勉強もしていますし、トレンドも追っているつもりではありましたが、実際にやってみて学ぶことはすごく多かったです。

 いまは『FF14』で第1次グラフィックスアップデートと銘打って、運営中のMMORPGでグラフィックスのベースラインを1段階引き上げるということをやっています。画面上に300~500人が描画される『FF14』と、クライヴ・ロズフィールドに一点集中すればいい『FF16』とでは、描画のスタイルはもちろん違いますが、使えるパイプラインがどれで、 どうしたらどういう効果があるのか、費用対効果の面でプレイヤーのみなさんによく伝わるのかという経験は、アーティストやエンジニアと話していくなかで間違いなく役に立った部分でした。

――『FF16』の開発と『FF14』のグラフィックスアップデートも並行していたと思いますが、『FF14』にも経験を還元していくなかで、どのようなところが役立っていると感じましたか?

吉田:先ほどお答えした内容はあくまで僕個人の経験の話で、『FF14』と『FF16』ではチームが完全にセパレートしている以上――現在の『FF14』の描画のトップは『FF16』の開発からスライドしていますが――チームとしての経験が引き継がれていくのはこれからです。ただ、どちらも僕がトップにいるので、経験したことがチームに反映されやすいところはあります。

 ちょっとニュアンスが難しいのですが、役立っているのは取捨選択のところです。どこまでやるのか、どこまでリアルにするのか。『FF14』と『FF16』は、おなじファイナルファンタジーではありますが、お客様に届けるために目指すべきグラフィックスの方向性が違います。『FF14』ではフォトリアルを目指すのではなく、これまでプレイヤーのみなさんが『新生エオルゼア』から10年間、一緒に歩んできたキャラクターたちの印象が変わらないということを絶対的な前提にしながら、テクスチャ解像度を上げたり、マテリアルシェーダーを更新したり、全体的な雰囲気としてのグラフィックスアップデートによって「自分のキャラクターが総合的にパワーアップした!」という印象をいかにして持ってもらうか、が大切です。

 どのテクノロジーやグラフィックスパイプラインを使って、どれを使わないか。また、それを使うことによってどんな効果が出るのかというのを、『FF14』のアーティストも常に勉強していますから、腕まくりして『システム制限でできなかったことをやってやるぞ!』と意気込むわけですが(笑)ちょっと待ってと。当然、彼らは自分たちが作ってきた何万にものぼるアセットに手を入れなければならなくなる。そうしたことを考慮して、「これはやるけど、それはやらない」という取捨選択をしています。だからこそ、わざわざ“第1次”グラフィックスアップデートと称して、今後にも可能性を残したうえで、着地点をしっかり見出していこうと考えているんです。

 これは僕が『FF16』を担当した経験から、指揮系統にうまく反映できていると思います。第三開発事業本部としても『FF16』があったからこそ、『FF14』でキャラクターやバックグラウンドを担当しているスタッフが『FF16』チームと話をして、グラフィックスアップデートを行ううえで効果的なことや、逆にどれだけ効果的に見えても処理が重すぎてやらない方がいいことを共有できていますし、部門としての底上げがされたと感じています。

――『FF14』と『FF16』を並行して担当していたなかでは、いろいろなことがあったと思います。抽象的な質問にはなってしまいますが、印象的なエピソードなどはありますか?

吉田:『FF16』では、生まれて初めてプロデューサー“だけ”を担当しています。タイムラインとして作業が並行していたのは事実なのですが、あまり並行という感覚はなかったのです。『FF14』で10年以上も「プロデューサー」と「ディレクター」という本来まったく役割の違うものを兼任してきたので、そこにもうひとつの「プロデューサー」が乗っかってくるような感覚でした。

 それぞれの役割でまったく違うレイヤーのことを考えていて、種別の違う判断をしているので、ゲームデザインを丸々2本同時並行している、という並行とは違うのです。これで伝わるのでしょうか……(苦笑)。考えないといけないことが増えた一方で、1日24時間という制約が変わらない以上、それまで自分でジャッジしていた部分を『FF14』チームに一部渡したりもしていましたが、『FF14』の成長を止めるわけにもいかず、そのためには想定していなかったような仕事も発生したりして……。シンプルにカオスだったような気はします(笑)。

 その瞬間ごとに判断していたので、印象的なエピソードというのはないのですが、おもしろかった出来事はいくつかあります。プロジェクトマネージャーたちがプロデューサーである自分のスケジュールを奪い合っていて、それを僕本人が眺めているという謎の状態だったり(笑)。

 一例として、シナリオのチェックに8時間が必要なとき、「ここで8時間とか取れないから!」と僕以外の人たちで議論となり、それがいろいろなタスクに対して行われ、最終的に僕は2か月分くらいの自分のスケジュールを「これでどうですか?」とプロジェクトマネージャーたちに提示されるんです。調整しているうちに、みんなテトリスをやるような感覚で「トータルで8時間取れればいい」のようになるらしく、2時間チェックして4日後にまた2時間、みたいなことになっている。僕も人間なので、「スケジュールにも関連性がないと、機械じゃないのだから、ボタンひとつでスイッチを切り替える、みたいにはできないよ」と(苦笑)。会議が伸びる可能性なども考慮されていなかったので、「ベースはこれでいいけど、もうちょっと人間らしくならないかな……?」と話したのは、おもしろいお話として覚えています。ただ、これもみんなが優しいからこその出来事なんです。死ぬほど忙しいことはわかってくれていたから、ひとつでも確認を減らすために、スケジュールも工夫しようとしてくれている。物量が多いので、効率よくやろうとすると、時おり非人道的になってしまうというだけで(笑)。

 『FF16』プロデューサーとしては、予算も逐一確認するし、スケジュールも見るのですが、一度ゴーサインを出した後はディレクターに全面的に任せるという考えでやっていました。危なっかしい場面があったとしても、手を出すべきじゃないと。「本当に転んでしまう!」というシチュエーションになったら「大丈夫かい?」と声はかけますが、「この方がいいから、黙ってこうしてよ」というのは、絶対にやっちゃいけないと思っています。プロデューサーがそれをやり始めると、指揮系統は滅茶苦茶になり、統一感も失われます。そのさじ加減は本当に難しく、やっぱり自分はプロデューサーには向いていないな、と感じました。ただ、今回は開発期間中に新型コロナウイルスパンデミックがあって、働き方も変えないといけないタイミングにもなりました。作っているもののレベルが高かったこともあり、そのときだけは「ひとりのゲームデザイナーとして使ってくれ」と言って、作業をするシチュエーションもありましたね。

――ゲーム作りのさまざまな要素に能動的に関わりたいという姿勢は、『FF14』でプロデューサーとディレクターを長年、兼任してきたことに由来するのでしょうか。

吉田:いや、これはもともとですね……。自分たちが作っているものを誰よりも詳しく知っているのは自分たちで、良いところも悪いところも一番よく知っているという自負があるので、たとえばプロモーションでも、「こういうシーンを使ってもらいたい」「こうやったらきっと喜んでもらえるはず」と思うことは、昔から多かったのです。P/Dを長くやっていることは、あまり関係ないですね。いまはそれも宣伝チームが意図を汲んでくれるようになり、かつ、ゲームそのものを徹底的に知ろう、プレイしよう、お客様の立場に立って素材を考えよう、としてくれているので、僕が素材の選定からするような機会は『紅蓮のリベレーター』ころからほとんどなくなりました。

 ただ、ゲームを作るうえでの予算管理などの業務は死ぬほどやりたくないです(苦笑)。大変ありがたいことに、僕の論理を聞いてくれて、すごく高精度な数字を作ってくれるスタッフが『FF14』チームにはたくさんいるので、僕はなんとかやれています。たとえば先ほどお話しした宣伝チームも、長年同じメンバーでやっているので、根本のフィロソフィーはみんな共通で持ってくれています。施策について自分たちで考えて調査をして、案を出してくれますから。本当はプロデューサーがお題を出していくものかもしれないのですが、宣伝チームがものすごく高いレベルになっているので、プロデューサーとしてはたとえばどういったアプローチでファンフェスを展開し、情報を出していくのか、みたいなことを打ち出すくらいです。こう考えると、プロデューサー機能はかなり分解されていると言って良いと思います。

■いまも印象深い『新生』、そしてプレイヤーからの「ありがとう」の言葉

――『FF14』ではプロデューサー兼ディレクターを10年以上務めています。そのなかで最も印象深かった出来事を教えてください。

吉田:一番を聞かれてしまうと、やっぱり『新生エオルゼア』をリリースした瞬間ですね。一度は失敗したものを、同名タイトルとしてゼロから再開発して、ストーリー的に合流させて入れ替える……。そんなことを着地させることができて、ホッとしたところはありました。「あれ以上の経験があってたまるか」という思いもあります。常に前進するという気持ちではありますが、「普通、あれ以上のことはそうそう起きないでしょう」と。

 新生後、1回目のファンフェスを北米で開催したときに、本当にたくさんのプレイヤーのみなさんから「ありがとう」と言っていただいて、泣くほどうれしかったことも覚えています。「ありがとう」と言いたいのは僕たちでしたし、「ゲームを作っていて良かったな」と思いました。「このゲーム続けてよかった」「ここまでのゲームにしてくれてありがとう」と言われたときに、ゲームを仕事としている僕たちだけじゃなく、遊んでいる方にとっても『FF14』が日常であり人生になっているんだと。だからこそ「ありがとう」と言ってもらえるんだと感じましたし、生涯忘れられない思い出になりました。

 その後、プレイヤーのみなさんに「ちょっとぬるいんじゃない、このゲーム?」「もうちょっと難しくていいんだよ」と言われて、『蒼天のイシュガルド』では「わかりました! 難易度ノーマルも作るので、ハードはめっちゃハードにしますね!」とニコニコしながらレイドコンテンツを作ったら、「難しすぎんだろ!」と怒られたのも良い経験でした……(※)。このときの経験は、僕のゲーム開発者としてのキャリアのなかでもすごく大きなものでした。プレイヤーのみなさんが求めるもの、その期待の先をお届けするのが僕らだと、そんな思いで(難しいものを)作ったら「あれ?」と。こういったシンプルな回答はゲームには存在せず、その意図や裏にある想い、体験も含めてゲームデザインしなければダメだな、と。あれ以降、開発チームによく言っていたのは「みなさまに『簡単だった』と言われるくらいがちょうどいい」と。本当にこのままのセリフでした。

※『蒼天のイシュガルド』の高難易度コンテンツ「機工城アレキサンダー零式:起動編」「律動編」の難易度が非常に高く、特に「起動編」ではクリア者がなかなか生まれない事態となった。

 でも、ゲームにおける難易度の問題は難しいのです。最近はよく極端な例として「スーパーマリオブラザーズ」を出すんです。穴に落ちてマリオがやられてしまうのは、ストレスですよね。スクロール先から明らかに奈落の底に落ちる穴が見えてくるから、ジャンプしなきゃいけない。でもジャンプの距離は決まっているから、どのくらいの位置で、どれぐらいのスピードでボタンを押して踏み切らなければいけないかを考えると、それだけで緊張が走る。これは言い換えればストレスに該当します。では、ストレスをなくそうとして、最初は穴のサイズを小さくする。それでも落ちてしまう人がいたら、もう穴なんてなくそうと。そうなると「これってなんだっけ?」「穴のないマリオはおもしろいの?」という話になりますよね。繰り返しますが極端な例です。

 チャレンジという名のストレスが、いろいろな見せ方でプレイヤーの目の前に次々と展開されていき、ストレスを克服するためのアプローチを、プレイヤーが指先だったり思考だったり経験だったりを組み合わせて突破する。そのときのカタルシスがゲームの持つおもしろさだと思っています。その強弱が重要で、なくせばいいものでもないし、増やしすぎるものでもないということです。

 ここまで説明を聞くと、「そんなの当たり前ですよね」「難易度の話ですよね」となるのですが、いまの世の中はSNSでみなさんが発信される一言一言がわれわれ開発にダイレクトに届きますし、そこから迷いが生じることもあります。できるだけみなさんに気持ちよくプレイしていただきたいのですが、気持ちよさとストレス=不快感の境目がめちゃくちゃ難しい。ここは『蒼天』レイドのときにすごく勉強になりました。いまもこれだけ大規模なゲームになって、お客様のそれぞれの価値によって遊ぶコンテンツが違うなかで、それぞれ別の“ストレスの境界線”を決めるところが、あらためて「ゲームっておもしろいな」と思って取り組んでいます。

――個人的には『紅蓮のリベレーター』での「次元の狭間オメガ零式:デルタ編」のバランスが絶妙に感じましたが、その感覚も人によって違うと思います。

吉田:実際は『漆黒のヴィランズ』のレイド「希望の園エデン」くらいの難易度が、ジョブの練度も含めて一番ちょうどよかったのかなとは思っています。でも、どんなときでもさまざまなフィードバックがありました。ターゲットサークルが小さくて近接DPSが攻撃できないとか、方向指定を取るのが難しいからなくしてほしいという声もありました。1%の範囲内で火力のバランスは収めていたとしても、「この層はこのジョブがいい」という差はどうしてもあります。そこでパーフェクトなバランスにしようとすると、全部同じようなギミックのボスになってしまう……。ストレスをなくすことと、ゲームが“ぬるく”なってしまうことは本当に紙一重です。いろいろ勉強させていただいたうえで、またチャレンジしようとは思っています。でも、「デルタ編」をお褒めいただきありがとうございます。デルタ編はたしかにおもしろかったですね。

――ここまで伺うと、やはり初期のころに印象的な出来事が多かったんですね。

吉田:本当は印象に残っていないものなんてないんです(笑)。必ず学びがあって、失敗も、うまくいったこともありました。全部覚えているし、 全部語れるんですが、全部語っていると時間がなくなってしまいます。また、この経験はゲーム開発者として僕個人が持っている財産でもあるので、あまり大っぴらに話してほかの人にヒントを与えたくないというのもあります(笑)。

■『暁月のフィナーレ』の大団円で伝えた「中途半端はやめよう」

――『FF14』は『暁月のフィナーレ』で大きなカタルシスとともにひとつの物語が終わりを迎えました。いまは「再びドミノを並べる時期」というお話もありましたが、次回の拡張パッケージ『黄金のレガシー』ではプレイヤーにどのような体験を届けたいと考えていますか?

吉田:もともと「このテーマをお客様に知ってほしい、味わってほしい」と偉そうに言えるようなものは決めていないのです。感じていただく内容は、プレイヤーのみなさん、それぞれ自由だと思っているからです。ただ、お客様に支えていただいたからこそ、これだけ長く続けられていて、すべての拡張で信じられないくらいずっと成長できているなかで、暁月まで続くストーリーを漫然と引き延ばすような形にはしたくなかったんです。

 僕は海外のドラマシリーズが昔から好きなのですが、引き延ばしに入ると感じてしまうところがあって……。「引き延ばしに入っちゃったなぁ……」みたいな、あのパターンに陥るのが本当に嫌だったんです。『旧FF14』から続く伏線の多いストーリーも、味を薄くして引き延ばせば、拡張パッケージ3本分くらいは引っ張れたとは思います。ただ『暁月のフィナーレ』のように、ジェットコースターで言えば凄まじい上昇から一気に加速とともに落下していって、回転して綺麗にプラットフォームに戻ってくるような経験は、一生涯かけたとしても何回もやれることではないと考えました。

 会社にも「リスクはありますが、ここまで来たからにはやらせてください」と確認しました。「それは確認になっていないだろ」と言われたら、たしかにそうなんですが(笑)。開発に対しても「大団円だからこそ大団円。思い切ってやる」「中途半端はやめよう」と伝えつつ、そのなかでも先につながるものはいくつか入れておきました。

 実際の『暁月』で『ハイデリンゾディアーク』というサーガを一旦完結させ、いまは文字通りドミノを並べ直している段階です。『新生』のときはドミノを並べる段階にはなくて、道なき道にレールを引き始めるような形でした。ですが、これまでに多くの経験をさせていただいてきたので、今回はドミノを並べ直すことができています。ただ、今回は平面に並べていくというよりも、初っ端から結構な“積み方”をしています。それでみなさんからの反応がいまいちだと感じた場合は、一度崩してまた積んでいけばいいとも思っているんです。思い切って、新しい種を植え、新しいチャレンジをして、またその先につながっていくような……。凄まじく組み上がった巨大なドミノの集合体をまた作りたいなと。

 ひとつずつ積み上げていかないとそこには到達できないですし、それでもなるべく地味にならないようにしたいですね。それは、これまでの拡張パッケージで必ずやってきたことでもあります。プレイヤーの方から見ると、「おいおい、マジかよ」と思うことが必ずあったと思うんです。『漆黒』で「第一世界に行くんだ!?」と驚いたり、『暁月』で「ついに月に行くんだ! 最終決戦は月か」と思っていたら、「(最終レベルは90なのに)レベル83で月に来たんだけど……」となったり。拡張単体としての驚きと、物語の完成度は『黄金のレガシー』でも変わっていないと思いますし、まずは1本のタイトルとして勝負したうえで、「この先、こっちに転がっていく可能性もあるな」というところまでお見せしたいと思っています。

 だから、これまでとあまり変わらない、というのが正直なところです。でも、『暁月』のストーリーがあれだけきれいなアクロバットが決まって着地したからこそ、プレイヤーのみなさんが絶対に「この先どうすんの?」と感じられるのはその通りです。それは開発チームにも言っていました。それはそれでいいんです。この次、さらにアクロバティックな、クアドラアクセルくらいの着地をするために、引き続き物語を積み上げていくので、またお付き合いしていただければいいなと。1回休もうかなと思った場合は無理せず休んで、もう少し積み上がってきてから戻るとか、お子さんが生まれてプレイ期間が空いた人も、一段落してから戻ってきてもらえばうれしいです。プレイヤーのみなさんも、いつも通り気楽に楽しんでいただけると幸いです。

――ちょっと間を置いて戻ってきても復帰しやすいシステムになっていることもあり、マイペースにゲームと付き合うのがよい、というのはプレイヤーの間でも共通理解になっていると感じます。

吉田:ありがとうございます。どうしてもMMORPGは、ずっと遊んでなきゃいけない、と思われがちなゲームです。それも壊したかったところがあって……。ドイツのプレイヤーから「『FF14』が大好きなんだけど続けるのが苦しくて、ちょっと休止してるんだ。ごめんよ、吉P」と言われて、「いいんだよ別に。ほかのゲームを遊んでから、気が向いたら帰ってきて」と伝えたら、「そんなこと言うプロデューサー初めて会ったわ」と言われたこともありました(笑)。

 でも、自分もゲーマーですので、「どうしてもこのゲームを遊びたい!」という気持ちもわかるのです。でも、そこで固執してしまうと、どうしてもネガティブなストレスのかかり方をしてしまう。『FF14』は常に動いているものだからこそ、いつ遊んでもいいし、いつ休止してもいいし、いつ戻ってきてくれてもいい。それこそ、世界が常にちゃんとそこに存在し続けることの意味だと思います。

――休止しないとしても、『FF14』ではコンテンツを遊ぶわけでもなく、ログインするだけでも楽しいというプレイヤーも多いですよね。

吉田:ビジネス面でもゲーム面でも、それがMMORPGの理想形だとも思います。課金してくださって、ログインもしてくださって世界に滞在している、それ自体が日常になる。そうしたプレイヤーの方は、僕たちにとって理想的な一面もあるのですが、そこに甘えるのが一番ダメだと思っています。僕らは世界をより良くして、更新し続けないといけない。毎日ログインして、なにもしなくても「なんとなく楽しい」と思ってもらえる雰囲気というのは、世界に対してすごい勢いでアップデートをかけていないと発生しないと思っているんです。

 たとえばリムサ・ロミンサグリダニアウルダハのエーテライト付近でぼーっとしていると、自分はなにもしていなくても、実は目の前を通り過ぎている人たちに変化が出ている。見たことのない装備で走り回っていたり、演奏の中に聞いたことのない楽器の音色が入っていたり、若葉マークを付けた新人冒険者たちが遠足のように一列になって歩いていたり……。「お祭りやってるよ」というシャウト(※)が流れてきて、案内してくれる人に付いていったら、ハウジングのストリートを使って夏祭りをしている人たちがいた、ということもありますよね。こういう出来事に遭遇したプレイヤーの方々は「ログインしているだけで楽しい」とおっしゃってくださるんです。MMORPGの世界はほかの誰かがなにかをしていることによる相互作用で、楽しさや刺激を受けることになっていて、そこから「毎日ログインしているだけで楽しい」という状況が生まれている。だから、その言葉に甘えて安穏としていてはダメなんです。さらに変化を作り続けることによって、ログインしているだけで楽しい空気が醸成されるものと思っています。

※エリア内のキャラクター全員に聞こえるチャット形式。

 『FF14』にはたくさんのコンテンツがあって、最前線で戦闘コンテンツを楽しんでいる人たち、ミリ単位でオブジェクトずらして精巧なハウジングに心血を注いでいる人たち……。その“余波”で変化が生まれて、空気感につながっている。だからより住みやすく、それでいて刺激的な世界を作らないといけない。そして、その世界に月額課金していただければ、それが一番理想的な形です。

――プレイヤー目線では、無意識のうちにそうした努力の成果を享受してきたなと感じます。

吉田:もちろん、尋ねられなければ、自分から言うことはでもありませんし、お客様が認識する必要はないと思うのです。それが僕たちの仕事です。『FF14』プレイヤーの方々はそうしたこともよく考えてくださって、それ自体は非常にうれしいのですが、こちらから強要することでもありません。「そんなことまで知らないと遊べないの?」と思われるのは、本意ではなく、とにかく楽しんでくださるのが一番うれしいです。

■制約を踏まえてのブレイクスルーこそが、ゲーム作りのおもしろさ

――MMORPGの理想形について語っていただきましたが、ゲーム作りという枠での理想、究極系のようなものはありますか?

吉田:これが……ないんです。究極的な“これ”というものが、本当にないのです。だから「どうしても作りたいものはなんですか」と聞かれると、一番困ってしまう。もちろん『FF14』の向かう先は考えていますが、『FF14』の良いところはゴールがないところだと思っています。次に目指すべき“山の頂”は決めていますし、イメージもあります。ただ、それはあくまで『FF14』を作るうえでのものであり、個人としての究極目標とかではないのです。

 たとえば、もし「シューティングゲームというジャンルで世界と勝負するぞ」となったら、シューティングを研究して「これだ」というものに挑戦しますし、「バトルロイヤルでなにか作れ」と言われたら、バトロワで「これだ」というものを考える……という感じです。『FF14』じゃないMMORPGをゼロから作っていい、5年運営して収益が上がらなくてもいい、と言われるのなら「これを作ろう」というものもあります。どれもおもしろそうだから、決まっていないんです。

 よく「まっさらの状態からなにかを考えていいと言われたら」と聞かれることもあるのですが、僕はスクウェア・エニックス所属の時点でまっさらではありません。スクウェア・エニックスを応援してくださっているファンのみなさんにとって、僕は『FF14』『FF16』はもちろん、『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族』『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』を作ってきた開発者で、「きっとこういうものを作るんだろうな」というイメージができていると思います。そのなかで、もし「スクエニ、ストーリーなしで第2次世界大戦舞台のガチFPS作ります!」と言われたら「やめとけ! 絶対失敗するぞ!」ってなると思うのです(苦笑)。「お前たちがそこをやらなくていい」となりますよね。

 僕たちは、そうした看板を背負わせてもらっています。看板を背負ってゲームを作っているからこそ、お金もIPも使わせてもらうことができて、こうやってインタビューを受けさせていただくこともあります。この看板を降ろすとなったら、そこに自由はあるのか。そのための資金はどこから出てくるのか、ということですね。仮に独立して会社を作るとしても、まずは食っていかないといけないから、できるだけ短い開発期間、少ない人数でヒットさせて稼いで、そこから好きなものを作ろうとなるんです。その時点で、すでに制約がありますよね。その場合には、金銭的にも現実的にも作るのが難しいジャンルのものがあります。絶対に外せない条件を組み合わせて制約を明確にして、「この状況ならこうする」と考えていくタイプなので、「これが究極です」というものがないんです。逆に言うと、常にその状況での究極を目指してゲームを作っていると言えるのかもしれません。

――その時々の制約や状況から逆算して、ゲームの全体像を作り上げていくという感覚でしょうか?

吉田:逆算というのも、ニュアンスが微妙に違いそうです……。ハードウェアの制約、開発資金の制約、納期の制約、人的リソースの制約、技術レベルの制約と、どんなときでも制約は絶対にあるものです。でも、制約の範囲内で無難なものを作っても絶対につまらないので、そういう作り方ではないのです。引き算ではなく、制約をどうブレイクスルーして作っていくかが、ゲーム作りのおもしろいところだと思っています。予算の壁を破るために決済者に直談判してお金を引き出すというのも、ブレイクスルーのひとつです。ものを作るための努力に、おもしろさがあると思っています。制約の範囲内でやろうということじゃなくて、制約がどんなものなのかをしっかり理解したうえで、それすら組み合わせてブレイクスルーを作っていくということがおもしろさなのではないかな、と漠然と思っています。

 僕は常々、「制約を認識しよう」と開発チームに言ってきました。自分たちにしかできない制約の壊し方、突破の仕方をするからおもしろいんだと。そのためにも、制約を認識しておかないと突破ができない。たまに業界以外の人と話をすると、「やっぱりドMですね」と言われます(笑)。でも、なにが障害になっているのか認識できていないと、急に足を引っ掛けて転んでしまって、「こんなところに(障害が)あったのかよ」となってしまいますよね。どこにどんなハードルがあるのか最初からわかっていれば、飛び越え方もたくさんあります。陸上競技とは違いますから、下をくぐっても、横を回ってもいいんです。もし「早くゴールしないといけない」という制約があるのなら、またどうするのか考えればいい。そういう考え方でやっています。

――では逆に、制約がどれだけあったとしても外せない要素はどのようなものになりますか?

吉田:第三開発事業本部のみんなが目標設定をするとき、シートの一番上に書いてあることですね。ひとつは、少なくとも自分たちはおもしろいと思うゲームを作ること。そしてしっかりと利益を出すこと。このふたつです。

 まず前者について、自分たちがおもしろいと思っていないものをリリースした場合、世界中の誰ひとりとしておもしろいと思ってくれない可能性があります。せめて自分たちがおもしろいと思えるものを作っていれば、誰もおもしろいと思わないという事態にはなりません。ここで「自分たち」としているのがポイントで、個人の「俺はこれつまらないと思うからダメです」という意見は話にならない。世界中全員がその人のコピーではないからです。自分たちのチーム、第三開発事業本部として、自分たちがおもしろいと思うものを作る。議論もするし、協議もする、「自分たちが」のためにですね。

 そのうえで、赤字は出さない。なぜなら、次を作らせてもらえなくなるからです。最悪、おもしろさに対する世間の評価が僕たちの考えていた75%程度だったとしても、黒字が出ていれば「まあまあの評価だったし、一応黒字だから次も頑張って」という状態になります。でも、僕らの考えるおもしろさが95%伝わって、評価が100点満点中95点と言われていたとしても、赤字になっていたとしたら……ものすごく少ない人が遊んで、その人たちが95点を付けてくれたということですが、次の作品は作らせてもらえなくなってしまうんです。

 だから、このふたつを絶対に達成するというのが信条です。小さい会社も経験してきていますし、食えなくなったり作れなくなったら終わりだというのもわかっていますから、お金を出してくれた人たちに利益で返す、買ってくれた人たちにその分のおもしろさを提示するのが、プロとして当たり前だと思っています。ただ、それ以外はなにをやってもいい。第三開発事業本部は“下剋上上等”ですし、アルバイトからリーダーやサブリーダーになったスタッフもいます。僕自身、契約社員で入ってからずっと正社員オファーを蹴り続けて、急に社員になって、執行役員で、取締役で……となっている人間ですから、そんな下剋上も「ゲーム業界はその方がおもしろいから」と思っています。

――『FF14』の「プロデューサーレターLIVE」を見ていても、頻繁に役職が変わったり、新しいスタッフの方が就任されたりしていますよね。

吉田:役割のコンバートは結構しています。本当に1個の仕事だけを長くしていると、どうしても飽きが来てしまう。開発チームも人間の集まりだからです。もちろん、その仕事を突き詰めたい人の存在はありがたいですし、そのまま続けてもらってもいいんですが、その人のキャリアパスを考えたとき、経験することを増やさないといけない。だからコンバートはしますし、上が詰まっていると下が上がってこられないという事情もあります。上に行ったスタッフはもっと昇格させて……という形になっていますね。

 上に行ったスタッフはだいたい優しさを発揮して、「ギリギリまで(開発を)やらせてあげたいんです!」ということもあります。そんなときは「本当にギリギリまでやったらめちゃくちゃ疲れちゃうから、ここまでにして」という感じで伝えています。この辺は難しいところで、ギリギリまで粘らせたいという気持ちがあったとしても、「ここまで」とズバって切ってあげるのも上の役目なのかなとも思います。

――4月に『FF14』で『FF16』とのクロスオーバーイベント「炎影の旅路」が予定されていますが、ご自身が両方プロデューサーを務めるイベントとして、どのような心境で迎えられるのか教えてください。

吉田:『FF16』は現状、PlayStation 5でしかプレイできない一方、『FF14』はPCで遊んでくださっている方が世界中にたくさんいます。そこに『FF16』の濃すぎる内容を持っていっても、置いてけぼり感が出てしまうのではないかなと。これはどのコラボレーション、クロスオーバーでも気を付けている部分ですが、今回はより強く意識しています。今回のクロスオーバーイベントは“さわり”の部分だけにしておいて、腕まくりして本気で取り組むのは今後、また次回でもいいのではないか、と思っているところです。

 僕が両タイトルを担当しているからこそ、クロスオーバーしたときに内輪ウケ感が出てしまうのはあまり好きではありません。「よく『FF16』の吉田プロデューサーが~」という話をすることがありますが、そうした表現を通して、ふたつのタイトルを分けておこう、という何となくの抵抗でもあるのです(笑)。

 とはいえ、ちゃんと両方わかっているからこそ、導入として「ここまでならやってもいいだろう」という内容にしたつもりなので、楽しみにしていただけたらうれしいです! 『FF16』を気に入っていただけて、まだ『FF14』をプレイしていない方も、ぜひこの機会にエオルゼアの世界へお越しいただけると幸いです!

■最後に

 吉田氏へのインタビューを通じて印象的だったのは、「制約を認識するからこそ、ブレイクスルー/突破ができる」という考え方だ。ゲーム開発はもちろん、どのような仕事にも制約はあり、“制約を意識する”=“制約に縛られる”という考え方になりがちだが、吉田氏の持論にはハッとさせられた。その考えのもとに生み出される作品は、これからも驚きと魅力に満ちあふれたものになっていくのだろうと、あらためて確信している。

(取材・文=片村光博)

『FF14』など手がける吉田直樹に聞く“ゲーム創作論”