孤独死があった不動産物件は、その後どうなるのでしょう。孤独死の場合、死亡から日数が経過していると、遺体の腐敗が進行し、家が凄惨な状況となることもあり得ます。本記事ではBさんの事例とともに、戸建て自己所有住宅内での孤独死と、その後の対応について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

「孤独死」があった物件、その後はどうなる?

「孤独死」という言葉をご存じでしょうか。これには明確な定義はありませんが、不動産業界では「孤独死=住宅内で死亡した事実が死後判明に至った1人暮らしの人」という意味で使われています。特に賃貸住宅のオーナーは入居者の孤独死には敏感になっています。

孤独死が発見された現場は目を覆いたくなるような惨状です。遺体は腐乱し、体液と脂が溶けだして強烈な悪臭を放ちます。通常の清掃ではその臭いは取れず、孤独死現場を専門とする特殊清掃業者に依頼せざるをえません。清掃、消毒だけでは済まず、床下の根太まで体液で濡らしている場合は大規模なリフォームが必要になることも。壁のクロスには臭いが染みつき、どこから臭うのかわからなくなるほどです。

浴室で死亡していた場合は配管が脂で詰まり、その修理にはさらに莫大なお金がかかってしまいます。入居者に孤独死をされると、賃貸物件の価値が大きく毀損し、利回りが低下してしまいます。そのためリスクの高い単身の高齢者には部屋を貸したくないと思っているオーナーも少なくありません。

このように孤独死と聞くとマンションやアパートなどの集合住宅内での孤独死をイメージしてしまうのですが、当然ながら戸建ての持ち家でも孤独死は発生します。

戸建て住宅の場合は、遺体が発見されるまで長期間になりがちです。集合住宅と比較して臭いが近隣に伝わりにくいためです。賃貸住宅での孤独死が発見されるまでの平均日数は18日(日本少額短期保険協会孤独死対策委員会調べ)。戸建て住宅ではもっと日数がかかるケースが多いと思われます。日数が長いほど遺体の損傷具合はさらに凄惨になります。

賃貸住宅ではオーナーへの賠償が高額になると、入居者本人が火災保険に加入していない場合、遺族は大変な思いをします。しかし戸建ての自己所有住宅ではどうなるでしょうか。どんなに居室内が凄惨になろうと誰かに賠償する必要はありません。残された遺族は建物を解体して土地を売れば済むのでは? と考えがちですが、実際のところそう簡単に事が運ぶわけではありません。

事例を紹介しながら、戸建て自己所有住宅内での孤独死と、そのあとの建物の処分の考え方を解説していきます。

子のいない伯父逝去、警察から連絡が来て…

<事例>

Aさん(78歳男性):無職、未婚独身、年金月10万円の収入

Bさん(42歳男性):会社員、Aさんの甥

Cさん(46歳女性):会社員、Aさんの姪

東京都内で会社員をしているBさんは、ある日、伯父のAさんが亡くなったことを警察から連絡を受け知りました。東北地方の故郷に住む伯父は、3年前に亡くなったBさんの母親の兄でした。どうやら孤独死だったらしく、Bさんは身元確認のために警察署に行く必要があるようです。

伯父は生涯独身で、すでにきょうだいは全員亡くなっています。地元には親族は誰もいません。Bさんは、急でしたが仕事を休み新幹線に乗って生まれ故郷に戻りました。

警察署で孤独死した状況の説明を受けました。すでに現場検証と検視が行われていて、事件性がないと判断されたため、死体検案書をもらい遺体の引き渡しとなりました。遺体や部屋の状況から、叔父はしばらく寝たきりになっていたと推測されるとのこと。死亡から2ヵ月程度経過していたらしく、遺体は腐乱していたようです。そのまま火葬することになり顔を見ることは叶いませんでした。

地元の地方銀行で働いていた伯父は30代で自宅を購入していました。当時は結婚をする予定があったのかもしれません。子供部屋がふたつある間取りで、延床面積40坪、土地面積70坪という広めの住宅です。ところが40代半ばで脳梗塞を発症し、障害が残ったため銀行を退職。住宅ローンが残っていましたが、Aさんの父親が亡くなったときの生命保険金を使って残債を完済したようです。それ以来、結婚することなく一人暮らしを続けていました。病気以来、身体が弱く、亡くなる直前にはもう一人での生活は無理な状態になっていたのかもしれません。

伯父Aさんは人付き合いもなく親族もBさんとBさんの姉のCさんしかいないため、宗教者を呼ばず火葬だけを行う「直葬」にしました。遺骨は都内の寺院に依頼し永代供養とすることに。

ひととおりの手続きが終わり、Bさんが伯父のAさんの自宅に入ってみたところ、その荒れ方に驚きました。足の踏み場もないほどゴミが散乱しています。いわゆるごみ屋敷というものでしょう。玄関前にもごみが積みあがっていて、どこで拾ってきたのかわからない自転車数台や電子レンジ、テレビアンテナなど粗大ごみにしか見えないものが大量にありました。

近所の方からも異様な目で見られていたに違いありません。そしてリビングのテレビの前に敷かれた布団には大きなシミが。夏場の生ごみの袋に顔を突っ込んだような強烈な悪臭がします。2ヵ月も遺体が放置され遺体から脂が染み出ていたようです。

この家をどうしたらいいのか?

Bさんは姉のCさんと相談し、お金を出し合って特殊清掃業者を依頼しました。家の中の物を一掃し、とりあえず耐えられないほどの悪臭のもとになっている部分を清掃、消毒してもらうことに。

当初Bさんは、清掃が済んだこの建物と土地を売却できるのではないかと考えていました。最悪でも建物を解体すれば土地だけでも売却できるものと想定していました。自殺や他殺ではあるまいし、病気で亡くなったのだからクリーニングと多少のリフォームで売却できるのではないかと思っていたのですが……。

地元の不動産業者に問い合わせたところ、予想外の事実を知ることに。「特殊清掃が入った孤独死の物件は、買い手や借り手に告知する義務があります。築年数が古いことも加わって、おそらく売るのは難しいのではないかと思います」と告げられたのです。

特殊清掃が必要なかった孤独死については告知の義務がないというルールが、2021年に国土交通省によって「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」として制定されました。しかし、今回のように特殊清掃をした場合、自殺や他殺の場合は取引の際に告知が必要になるとのこと。いわゆる「心理的瑕疵物件」と呼ばれるものです。このガイドラインでは事案が発生してから3年を経過すると「時間的希釈の原則」によって告知をしなくてもいいということにもなっています。ただしそれは賃貸の場合のみで、売買のケースでは明記されていません。

Bさんはそんなものかと思ったのですが、さらに質問してみました「では解体をして、土地だけ売却をするのはどうでしょうか」。

不動産業者が言います「建物がなくても告知の義務は残りますが、買い手の心理的に多少は抵抗感が和らぐかもしれません。値段が多少安かったら買い手はつくかもしれません。しかし、それは都市部での話でしょう。この田舎では警察が出入りして現場検証したことを周辺住民が覚えていて、告知の義務がなくなっても住民が告げてしまうこともあり得ます。売却には相当な時間がかかることもありえます」。

更地を購入しようと見学にきた人を見かけると、近づいていって「ここは事故物件」だと教えてしまう近隣住民の存在はめずらしくないのだとか。そうなると時間希釈の原則も告知ガイドラインも無意味になります。

聞いてしまった以上は避けたいと思うのが人の心理です。また、更地にしてしまうと固定資産税の負担が大きくなり、売却に時間がかかると年々重荷になっていくとのこと。そもそも解体するには安く見積もっても200万円以上の費用がかかり、立地の相場的に土地を売却できたとしても赤字になります。「田舎ではこんなに土地の価値が低いのか……」とBさんはがっかりし、売却を諦めることになりました。

心理的瑕疵物件を空き家として所有し続けることのデメリット

現実的には、建物をきれいに清掃し、名義をBさんに相続登記して当面のあいだ所有し続ける必要がありそうです。しかし空き家は風通しが悪く劣化が進む恐れがあります。台風などで窓ガラスが割れ、そこから侵入した野良猫など動物が住み着くと近所の住民に迷惑をかけてしまいます。

さらに時間が経過すると、雪の重みで屋根が落ちてしまうかもしれませんし、シロアリで躯体が劣化し地震で倒壊するかもしれません。遠方から建物の保全のためだけに通うわけにもいきません。遠方の地方都市に築古の空き家を所有するのはデメリットしかありません。

このままBさんが亡くなると、今度は子供たちにこの建物を押し付けることにもなります。

検討すべき「相続土地国庫帰属制度の活用」

2023年4月から、相続土地国庫帰属制度がスタートしています。これは相続によって取得した土地が不要である場合、国に返還できるという制度です。Bさんのように「売れない理由がある土地」「もう所有する意思がない土地」を国に引き取ってもらう制度なので、検討する価値はありそうです。しかしこの制度にもデメリットが存在します。

・建物は解体しなければならない

・審査手数料と10年分の管理費用がかかる

・10年分の管理費用は、市街化区域や用途地域の場合は面積によって決まる

・接道していない、ごみが残っている、他人が使っている土地などは返還不可

Bさんの場合、

建物の解体費用 200万円

審査手数料 1万4,000円

10年分の管理費用231m2で86万2,750円

合計 284万750円

284万円を支払って国に返還するということです。「さ、さすがに高すぎないか……」Bさんは悲鳴をあげます。費用と引き換えに安心感が得られるのでメリットのほうが勝る場合には利用すべきでしょう。

しかし将来的に時間とともに心理的瑕疵が希釈され、売却に成功するかもしれません。国庫に返還するか、時間をかけて売却を目指すのかは、立地や相続した人の年齢にもよるでしょう。また地域に寄っては心理的瑕疵物件を積極的に買い取る業者もあります。専門家のアドバイスをもらいながら、あらゆる選択肢を検討してください。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

(※画像はイメージです/PIXTA)