ChatGPTの出現で一気に身近な存在となった生成AI。仕事への活用が進む一方で、「もっと効果的な使い方はないか」と暗中模索する人は多い。経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)の坂田幸樹氏は、生成AIは人間に“機能拡張”をもたらす有力なツールと位置づける。『機能拡張 テクノロジーで人と組織の可能性を追求する』(坂田幸樹著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集し、生産性を高める生成AIの活用法について解説する。

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 第1回は、生成AIが得意とする仕事のプロセスと、人間のアナログ感覚を生かすプロセスについて紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「生成AIを使ってはいけない仕事」をどう見極める?(本稿)
第2回 村上春樹は生成AIを使って小説を量産できるか
第3回 カンバン方式の導入で成功したSpotifyやNIKEに共通する、ある考え方とは?
第4回 島田紳助が生成AIで「漫才の教科書」を作っていたら、何が変わっていたか

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■すべての起点となる問いの設定

 どのような仕事も「問いの設定」「インプット」「変換」「アウトプット」「判断」の5つに分けることができる。その中でも特に大切なのが、すべての起点となる「問いの設定」である。間違った問いや、あいまいな問いを設定してしまうと、当然であるがその後のプロセスすべてが影響を受けることになる。

 次のような例を考えてみよう。

 (上司A)「競合X社について、できるだけ早く調べておいてもらえる?」

 (上司B) 「新商品Yの導入を検討したいと思っているのだけど、初期的な検討を進めたいから、競合X社の商品ラインナップと対象顧客、価格帯をA4一枚くらいで、明日中にまとめておいてもらえる?」

 上司Aの指示を受けたら、何を思うだろうか。指示の背景を詳しく知っていれば別だが、そうでないとすれば大いに混乱するのではないだろうか。競合X社について調べるにしても、沿革を知りたいのか、株価を知りたいのか、採用状況を知りたいのか、財務状況を知りたいのか、目的によって調査内容は大きく異なる。

 それに対して、上司Bの指示は調査目的が新商品Yの導入検討だという点がはっきりしている。アウトプットの形態や期限も明確になっているので、すぐに動き出すことができるだろう。もし不安な点があれば、上司にアウトプットの項目名を事前に確認してから調査に取り掛かれば、無駄な手戻りの発生を防ぐことができる。

■インターネットによって劇的に進化したインプット 

 問いの設定ができたら、それを解くために情報を収集するプロセスに進む。情報には1次情報と2次情報の2種類があり、次のように整理できる。

1次情報:最初に観察または収集された情報で、直接的な証拠やデータを示す 2次情報:既存の1次情報をまとめ、解釈、分析、または再構築した情報

 インターネットが誕生したことによって、1次情報も2次情報も簡単に入手できるようになった。

 私が経営コンサルタントになった20年前は、企業の詳細な財務情報を取得するには紙の有価証券報告書を入手する必要があった。調査レポートや論文、書籍なども電子化されていないものが多かったので、調査機関や図書館などに行って入手する必要があった。

 一方現代では、たとえばアンケート調査も、紙のアンケートを回収してパソコンに入力しなくても、マクロミルなどの調査会社に依頼すれば、世界中の消費者にウェブアンケートを回答してもらい、短期間で集計までしてもらうことができる。ときには自ら街頭に立って消費者に声をかけ、紙のアンケートに回答してもらっていた私からすると隔世の感がある。

■生成AIが得意とする変換

 情報を取得したら、それを意味のある形に変換する必要がある。変換には置き換え、要約、拡張の3種類がある。そして、生成AIの誕生によって変換の品質と速度が劇的に高まった

 たとえば、日本語で執筆した2000文字のレポートをヘブライ語に翻訳する必要があったらどうだろう。翻訳家を探すだけで一苦労ではないだろうか。その翻訳家に依頼して翻訳文が完成したとしても、当然費用もかかるし、その後日本語に微修正を加えた場合に修正してもらうにも手間がかかる。これを生成AIは、一瞬でやってのける。

 また、身近で起きた出来事を基に、アガサ・クリスティー江戸川乱歩の作風を混ぜた推理小説を書くことも、生成AIを使えばできてしまう。さらに、ロバート・ハインラインの作風も混ぜてSFの要素を取り入れることも簡単にできる。

 ビジネスに応用すると、自社が保有しているすべての知的財産を基に特定の社会問題を解決する方法を考えてもらうことができる。異業種の他社と知的財産を共有すれば、異業種の知見を活かした解決策を考えることもできる。

 もちろん人間でも、一定程度はこのようなことができることは否定しない。ただ、これを瞬時にやり切ってしまう生成AIにはかなうはずもない。ある砂場の砂をすべて覚えた人がいたとしても、世界中の砂浜の砂を知っている生成AIにはかなわない。

テクノロジーの進化とともに変化してきたアウトプット

 変換した情報をアウトプットする方法は多様である。表現形態で整理すると、動画、画像、文章、音声のように整理できる。そして、これらはテクノロジーの進化とともに変化してきた。

 ビジネスにおけるプレゼンテーションの方法で考えてみると、パソコンが普及する前は文字や図形を、透明なプラスチックフィルムに書いたり印刷したりし、それを専用のオーバーヘッドプロジェクター(OHP)にセットしてスクリーンに投影していた。

 その後、OHPに代わってデジタルプロジェクターが登場した。これにより、フルカラーの画像や動画を表示することができ、OHPよりも視覚的に高度なプレゼンテーションが可能になった。

 そして、パワーポイントなどのプレゼンテーションソフトウェアがデジタルプロジェクターと組み合わせて使用され、スライドショー形式で情報を表示できるからと広く使用されるようになった。これらのソフトウェアを使えば、テキスト、画像、グラフ、動画などを組み合わせてプレゼンテーションを作成できる。

 現在は、これにZoomなどのウェブ会議が加わり、スクリーンに投影するだけでなく、画面を共有することも一般的になった。

 私はかつてある国際的なファッションデザイナーの支援をしていたことがある。ある日彼に、どのようにしてデザインを考えるのか聞いたところ、次のような回答が返ってきた。

「青山やニューヨーク、パリなどの都市を行き来していると世の中の変化が見えてくる。そこで感じたものを抽象化して紙の上に表現しているんだよ」

 同じように、作家や編集者は、世の中で感じたものを自らのフィルタを通して文章という形で表現する。映画監督はそれを映像という形で表現し、音楽家は音で表現する。

 生成AIは、用途に合わせてさまざまなアウトプットの形態に対応している。これまでアウトプットの形態によってすみ分けされていた専門家の垣根が取り払われたともいえる。

■デジタルだけで判断することはできない

最後のプロセスは「アウトプット結果に対して、どのように判断するか」である。

 たとえば、友人の結婚を祝うためのレストランとして3つの候補が提示されて、どのレストランを選ぶかというような判断である。あるいは、その中で満足のいくレストランがなければ、問いを修正して新たな候補を出してもらう必要がある。

 ここでのポイントは、デジタルな情報を基にしたアウトプットに対して、我々人間がどう判断するかである。立地や価格帯、料理のジャンルなどのデジタル化できる情報は重要な判断基準である。しかし、それには限界があることを理解していないと、意味のある判断はできない。

 それは、将棋などのゲームと異なり、現実世界の変数は無数にあるからである。予約したレストランが友人の行きつけのお店かもしれないし、予約した前日に別の人達と行くことになっているお店かもしれない。当日に友人夫婦の体調がすぐれないかもしれないし、大雨が降っているかもしれない。判断に使用する変数を増やすことはできるが、すべてを網羅することは難しい。

 最終的な判断を下すのは人間で、その際はアナログに頼らざるを得ない。多くのものがデジタル化されている現代だからこそ「今ある情報を基に考えるともっともらしいが、人間的な感覚からはずれている」「嫌な予感がするから今回はやめておこう」といった人間の経験に基づいたアナログな感覚も重要になる

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■第1回 「生成AIを使ってはいけない仕事」をどう見極める?(本稿)
第2回 村上春樹は生成AIを使って小説を量産できるか
第3回 カンバン方式の導入で成功したSpotifyやNIKEに共通する、ある考え方とは?
第4回 島田紳助が生成AIで「漫才の教科書」を作っていたら、何が変わっていたか

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