日向夏のライトノベルをアニメ化した「薬屋のひとりごと」(毎週土曜深夜0:55-1:25、日本テレビ系/ABEMA・ディズニープラスHuluLeminoほかにて配信)の第23話が3月16日に放送された。猫猫の両親である羅漢と鳳仙の馴れ初めが明らかに。そのあまりに壮絶な末路に視聴者からは「不憫すぎる」「やりきれない」といった声が上がった。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】羅漢(CV:桐本拓哉)の煽るような視線に、わなわなと震える壬氏(CV.大塚剛央)

■「薬屋のひとりごと」とは

同作は、日向夏の小説を原作とする後宮謎解きエンターテインメント。小説は「ヒーロー文庫」(イマジカインフォス)より刊行中で、「ビッグガンガン」(スクウェア・エニックス)および「サンデーGX」(小学館)でのコミカライズも展開されており、シリーズ累計2400万部を突破。中世の東洋を舞台に、「毒見役」の少女・猫猫が宮中で起こるさまざまな難事件を次々に解決する姿を描く。

TVアニメは長沼範裕監督(「魔法使いの嫁」や「劇場版 弱虫ペダル(2015)」など)のもと、TOHO animation STUDIOOLM(「オッドタクシー」や「古見さんは、コミュ症です。」など)がタッグを組みアニメーション制作を担当。CVは猫猫役を悠木碧、壬氏役を大塚剛央が務める。

■猫猫と羅漢による象棋対決の結果は

青い薔薇を完成させた猫猫は、ついに実の父である羅漢(CV:桐本拓哉)と対峙。彼が最も得意とする象棋の勝負をある条件付きで申し込む。その条件とは、猫猫が勝ったら羅漢は緑青館の妓女を身請けすること。羅漢は条件をのむ代わりに、負けた場合は自分の正式な娘になるように命じる。そばで聞いていた壬氏は思わず身を乗り出すが、それで構わないと言う猫猫。父親を嫌っているはずの彼女が大人しく条件をのんだのは何故なのか。

続いて猫猫はルールを説明する。ゲームは変則なしの5回戦で3勝した方が勝ち。さらに5つの盃を用意し、そのうち3つに、1杯飲む分には害はないが、3杯飲むと猛毒になる“薬”を入れる。負けるたびに盃を1つ選んで飲む。どんな理由があろうと試合を放棄したら負けという決まりで勝負がスタートした。

2人の対決を固唾を呑んで見守る壬氏。何か策はあるのだろうと思っていた壬氏だったが、猫猫はあっという間に2敗する。もしすでに飲んだ2杯の盃にいずれも薬が入っていたらと、心配する壬氏をよそに今度は猫猫が勝利。ただそれは羅漢が勝ちを譲ったようにも思えた。少々歪んではいるが、娘のことを心から愛している羅漢。その娘が猛毒を食らうのを良しとはしないだろう。

羅漢が飲んだ盃には薬が入っていた。ということは、もう猫猫が薬を3杯飲む心配はないわけで、羅漢が勝ちを譲る所以もない。終わりだ……と壬氏がそう思ったその時、羅漢が倒れる。猫猫の言う“薬”とはアルコール度数の高い薬のことで、下戸の羅漢にとっては1杯でもある意味”毒”だった。最初から猫猫は、羅漢が娘を毒から守るため、1回は勝ちを譲ることが分かっていたのだ。それは同時に猫猫が父親から愛されていることを分かっているからでもある。

■羅漢は相貌失認だった?

酔っ払って意識を失った羅漢は夢の中で自分の人生を振り返る。幼い頃から人の顔が見分けられなかった羅漢。実際に相貌失認と呼ばれる脳障害がある。おそらく羅漢もそうなのだろう。ゆえに父親から見放された羅漢は、名家の長子でありながら碁と象棋にのめり込んだ。そんな羅漢に唯一理解を示してくれたのが、猫猫の育ての親である叔父の羅門(CV:家中宏)。その羅門から「顔ではなく、声やそぶり、体格で人を覚えるんだよ。お前なら、象棋かな」と言われ、いつしか人の顔が駒に見えるようになった。

そうして成長し、宮廷勤めになった羅漢は、武の才能はないのに家柄のおかげでいきなり長を任される。まるで人を駒のように動かすゲームのように日々をそつなくこなしていた羅漢。だが、どこかで虚しさもあったのではないだろうか。だからこそ、付き合いで訪れた緑青館で妓女に象棋で負かされた時に笑いが止まらなかった。それが、今は緑青館の離れに隔離されている鳳仙(CV:桑島法子)だ。

爪が鳳仙花の赤にうっすらと染まった彼女は、羅漢が顔を認識できるほどに特別な存在だった。しかし、きつい性格ではあったものの、一部の好事家に受けていた鳳仙の値段はどんどん跳ね上がっていく。やがては3ヶ月に1度会うのがやっとになり、そうしているうちに鳳仙の身請話が持ち上がった。

そんな中、勝った方が好きなものを与えられるという条件で羅漢は鳳仙と碁で勝負する。だが、勝負の途中に手が触れた2人。おそらく鳳仙も羅漢のことを思っていたのだろう。成熟した実に触れると種が弾け飛ぶ鳳仙花や片喰のように、2人は互いを求め合った。

■羅漢と鳳仙を引き裂いた不幸な出来事

その3ヶ月後、医官だった羅門が皇太后と阿多妃の出産の対応時の責任を負わされて失脚。羅門から可愛がられていた羅漢も父親から家を出て、しばらく遊学するように命じられる。半年ほどで帰れると思っていた。しかし、予想以上に遊学期間が延び、3年経ってようやく羅漢は帰還する。

家に戻ると、鳳仙から送られてきた大量の手紙に気づく羅漢。その一つに小枝のようなものが2つ入っていた。だが、目をよく凝らすと、それは人間の指だった。一つは鳳仙のもの。もう一つは小さな子供の指。すぐに羅漢はその意味を理解し、緑青館へと走った。

しかし、入り口でやり手婆(CV:斉藤貴美子)に追い返される。もう遅かった。鳳仙は羅漢との子を身ごもり、人知れず出産していたのである。身請話は破談となり、店の信用を落とした妓女には夜鷹のごとく客をとるしか道はなかった。結果的に鳳仙は梅毒にかかる。それでも彼女はずっと羅漢を待ち続けていたのではあるまいか。梅毒は末期になると、脳にまで影響を及ぼす。鳳仙は我を失い、最後は“ゆびきりの呪い”にかけたのだろう。幼い我が子の指まで切断して。

猫猫には母親である鳳仙が幼き日の自分にナイフを振りかざす映像が脳裏に焼き付いている。あまりに悲しい末路を辿った猫猫の両親のエピソードに、視聴者からは「羅漢さんの過去が思っていた何倍も壮絶すぎて」「羅門が肉刑に処されたタイミングも、巻き添えに3年間帰ってこれなかったのも不憫すぎる」「不幸な偶然が重なったとはいえ、猫猫母の無残さはやりきれないね」「本当に運が悪かったし、本当に二人とも不器用だけどお互い愛していたからこそ切なくて尊いんだよ」という声が上がった。

また、猫猫が羅漢に身請けさせようとしているのは三姫の梅梅(CV:潘めぐみ)なのだろうか。鳳仙の禿をしていた彼女はおそらく羅漢にずっと前から淡い恋心を抱いていて、猫猫もそれに気づいている。けれど、羅漢には梅梅の顔も駒にしか見えていないのが切ないところ。彼女の思いは報われるのか。そして猫猫との父娘関係は。ついに次週、本作は最終回を迎える。

◆文=苫とり子

アニメ「薬屋のひとりごと」第23話が放送/(C)日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会