ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。

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NetflixのSFドラマ「三体」がいよいよ3月21日に世界配信される。世界的なベストセラー小説で、「ゲーム・オブ・スローンズ」のクリエイターチームが映像化を手がける話題作だ(中国のテンセントが手がけるドラマ版は別モノ)。

ぼくは原作のオーディオブックを散歩の最中に聞きながら、期待と不安を募らせつつ、この日をずっと待ち続けていた。そして、先日、「三体」シーズン1がマスコミ向けに公開された。第1話で不安は吹っ飛び、気がついたら全8話を見終えていた。

まったく知らない人にひとことで説明するなら、「三体」は地球侵略モノだ。エイリアンははるかに優れた文明を持つ知的生命体だから、人類を滅ぼすことなど、虫けらを踏み潰すことに等しい。

だが、「三体」がユニークなのは、そんな強力無比なエイリアンたちが地球に襲来するまでに400年の年月を要する設定になっている点だ。審判の日までのとてつもなく長い猶予期間のあいだの、人類の葛藤とエイリアンとの駆け引きが三部作にまたがって描かれる壮大な叙事詩になっている。

何の前知識もなくても楽しめる作りになっているので、壮大なスケールで展開するSFドラマを満喫してほしいと思う。

ここから先は、原作ファン向けにNetflix版の違いについて触れておこうと思う。ちょっとネタバレになるので、観賞してからのほうがいいかもしれない。

まず、Netflix版は原作にほぼ忠実なので、ご安心を。原作で描かれた重要なイベントは踏襲されている。

同時にアレンジされている点もある。明白なのは、キャラクター設定だろう。

実は「三体」三部作の主人公は各巻でそれぞれ異なる。「三体」はナノテク素材の研究者の汪淼(ワン・ミャオ)、「三体II 暗黒森林」は元天文学者の羅輯(ルオ・ジー)、「三体III 死神永生」は女性エンジニアの程心(チェン・シン)である。全員が中国人で、舞台も主に中国。そして、生きる時代も異なる。

そのおかげでこの危機が多角的に描かれるわけだが、読者にとっては次巻に進むたびに新しいキャラクターに慣れなきゃいけないというハードルがあった。

Netflix版は、現代のパートの舞台をイギリスオックスフォードに移した。そして、主要キャラクターはこの大学都市で働く若い研究者たちだ。それぞれ国籍も人種も専門分野も異なるが、自らを「オックスフォード・ファイブ」と呼ぶほどの仲良しだ。

世界をターゲットにするNetflixが、登場人物を多様化させたのは当然の流れだろう。ついでに言うと、原作は女性の扱いがひどかった――絶世の美女か、家事をこなすだけの存在で、深みがないのだ――が、ナノテク素材の男性研究者「汪淼」を女性のオギーに変更するなど、このあたりのバランス感覚もさすがである。

でも、ぼくがもっとも驚いたのは、「オックスフォード・ファイブ」のなかに、三部作の主人公3名が潜んでいたことだ。冒頭はオギーと4人の仲間たち、という感じなのだが、やがてこのなかに「羅輯」と「程心」もいることがわかる。これはNetflix版の発明だ。つまり、オックスフォードに場所を移しただけでなく、主要キャラクターたちが生きる時代も統一したのだ。おかげで、ひとつの物語としての一体感が生まれた。

もうひとつの大きな違いは速度だ。「三体」第1巻の映像化にテンセント版は30話も費やしていたのに、Netflix版は5話でほとんどを終えて、その先にずんずん進んでいくのだ。原作の魅力に、劉慈欣が想像力を羽ばたかせて綴る思考実験やさまざまなサブキャラのドラマなどがあるが、Netflix版ではバッサリいっている。原作と比較すれば、まさに光速の展開である。このあたりは、原作ファンからすると不満があるかもしれない。ぼく自身、ちょっと飛ばしすぎじゃないかと思った。

だが、一緒に視聴したうちの子供たち(13歳と10歳)は、食い入るように見ていたので、ドラマとしては成功しているんじゃないかと思う。

実は現時点でシーズン2以降の製作は決まっていない。かなりの製作費が投じられたリスキーな作品なので、Netflixとしては継続の価値があるかどうか、反響を待ってから判断するつもりなのだろう。

実は、これこそがぼくがこのコラムを書いた理由だ。ぜひ「三体」を観てほしい。そして、もし気に入ったら、口コミを広げてほしい。Netflix版をフィナーレまで見届けたいからだ。

 Netflix「三体」 Netflixシリーズ「三体」3月21日(木)より世界独占配信