性暴力やドメスティックバイオレンスなどの被害に遭い、トラウマを抱えた女性たちが暮らすシェアハウスを舞台に、女性たちの葛藤と信念、連帯を描く青春群像劇『ブルーイマジン』が公開中。



 子役の頃より活躍し、主演を務める山口まゆさん(23)に話を聞きました。


 本作で山口さんは、かつて映画監督に性暴力を受けたトラウマを、誰にも話せずにきた俳優志望の女性・乃愛(のえる)を演じています。


◆初監督の俳優・プロデューサーの松林監督が「自分自身の手で」と



 2017年、アメリカのハリウッドで映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが告発されたことをきっかけに、「#MeToo」運動が沸き起こっていきました。


 この動きは世界中で一大ムーブメントになりましたが、日本のエンターテインメント界は、まだまだそうした“声”を受け入れる体制になっているとは言い難いかもしれません。


 それでも以前よりは性加害問題が取り上げられるようになってきました。


『ブルーイマジン』で初監督を務めた俳優、プロデューサーの松林麗さんも被害当事者のひとり。


「当事者からみた世界でどう訴えてゆくべきか。自分自身の手で、自分を救う事を訴えたかった」とコメントしています。


 先に企画・プロデュースを手掛けた映画『蒲田前奏曲』でも、業界におけるセクハラ被害を扱いました。


◆“いろんな人が救われる作品”を作りたいとの思いを感じた



――センシティブな題材を扱った作品です。松林監督からは最初にどんなお話を聞かれましたか?


山口まゆさん(以下、山口):この作品のお話をいただいたときに監督の思いがたくさん込められた企画書をいただきました。


 そこには作品を発信したい、届けたい思い、“いろんな人が救われる作品”を作りたいということが詰まっていました。


――性被害に対する問題や、「#MeToo」運動については、山口さんご自身は、これまでどんな風に感じていた、もしくはこの作品で何か感じたことはありますか?


山口:正直なところ、これまで「#MeToo」運動といったことにすごく関心があったかと言われるとそうではありませんでした。


 本当に知らないことばかりだったので、インターネットを使って調べたり、記事を読んだりしていきました。


 もちろん作品のテーマとして「#MeToo」運動や性加害の問題もありますが、私は乃愛が自分自身とどう向き合っていくかということを考えながら演じていきました。



――本編では、山口さん演じる乃愛が、性暴力やDV、ハラスメント被害を受けた女性たちを救済するためのシェアハウス「ブルーイマジン」に縁あって入居。


 やがて自身の心の傷と向き合い始めた彼女は、「ブルーイマジン」に関わる人々との連帯を深め、勇気をふりしぼって“声をあげるための行動”を起こす決意をします。


◆自分と向き合う時間には第三者に伝えることが大切なことも



――この作品に触れたことで、新たに気づいたことはありますか?


山口:乃愛は自分の過去の嫌な記憶をずっと抑え続けてきました。それが、シェアハウスに住むことになり、自分と同じようにトラウマを持つ女性たちを助けたり、話を聞いたりすることで、自分自身の気持ちとも向き合っていたのかなと。


 自分で自分を慰めてあげることができるようになったのが乃愛の一番の成長で、なにより“自分と向き合う時間というのがとても大切なことなんだ”ということを、教えてもらいました。



――自分自身と向き合う。


山口:はい。そこに深く向き合って、はっきりと見つめていくために、第三者に伝えていく瞬間が必要になってくるかもしれない。


 そういう決断を出さなきゃいけない時があると、この作品を通じて感じました。


◆解決方法じゃなくて、ただ寄り添ってほしかった



――第三者に伝えることで、より深く自分と向き合うことができると。ちなみに本作では、乃愛は被害に遭って弁護士でもあるお兄さんに相談します。でも、お兄さんは現実を知っているからこそ、「裁判は難しい。負けると思う」と答えてしまいます。


山口:みんな乃愛のことを助けようとしてくれているし、悪い気持ちを持った人はいない。兄も助けようとしてくれているけど、乃愛が求めているものとは違った。


 あのとき、乃愛は解決方法じゃなくて、ただ“つらかったな”と寄り添って欲しかっただけだと思うんです。だけど兄は現実を知っているからこそ、解決策を考えた。


 誰も悪くないけど、あのときは食い違ってしまったんですよね。


◆以前は「自分の足で立たなきゃ」との意識が強かった



――ところで山口さん自身が、自分を見つめて成長できた時期はありますか?


山口:乃愛とは全く状況が違いますが、私も自分の気持ちを隠したり本当の気持ちを言わないことが結構ありました。


 小さい頃からこの業界に入っていたからか、自分の足で立たなきゃいけないという意識が強かったんです。


 でも最近になって、それだとせっかく手を差し伸べてくれている人に対してすごく失礼で、そんな生き方を続けていたらこの先だれも助けてくれなくなるかもしれないと感じ始めました。


 それで人に甘えたり、委ねたりすることも大事だと思うようになりました。


◆変化のきっかけは「大学卒業」
――その変化には何かきっかけがあったのでしょうか。



山口:去年大学を卒業して、俳優のお仕事一本になったことが大きいと思います。仕事を始めたときからどこか学業があるからと安心していた部分もあったし、両方頑張るというのが、自分にはすごく向いていたんです。


 だからひとつになったときに、現実を突きつけられた感覚がありました。漠然とした不安があってどうしていいか分からなくなったので、いろいろ見つめ直したんです。


 この仕事は特に人との関わりが大事だし、自分の味方や応援してくれる人がいるからこそ頑張れる。


 ひとりで立ち続けるというのは、難しいなって。そのためにも自分自身が人から好きになってもらえないとダメだ、と思うようになりました。


◆SNSは便利だけれど、答えを出すのは自分でありたい



――もうひとつお聞かせください。本作にも“マスコミ”が登場します。芸能界とマスコミは切っても切れない関係ですが、山口さん自身は、マスコミにどんなイメージを持っていますか?


山口:情報を伝えるうえで欠かせないし、私たちの仕事は伝えてもらって成り立っているところもある。だからマスコミのみなさんに味方でいてもらえる人になるのも大事だと思います。みんな自分の仕事に一生懸命なんだろうなとも思いますし。


――いまはSNSの存在も強大です。そちらについては。


山口:なかなか難しいですよね。本当はSNSとかがない時代に生まれたかったです(笑)。


 いまは情報が溢れすぎていて、何が正しくて何が正しくないとか、これは取り入れなくていい情報だとか、そういう取捨選択が難しくて。


 私自身、どこかで情報に流されているところもあると思うんです。たとえばダイエットの情報とか(笑)。


 便利なものではありますよね。でも答えを出すのはSNSじゃなくて、ちゃんと自分で考えたいです。


◆映画やドラマの感想を書いてもらえるのは嬉しい
――エゴサーチはしますか?


山口:しますよ。特に抵抗もないです。“そんな風に見えてるんだ”くらいの感覚です。


 自分が出たドラマについても、よくエゴサします。“こういうところを面白いと思ってくれてるんだ”とか。だから嫌だとかいった感覚はないです。


 むしろ映画やドラマを観て感想をちゃんと残してくれる人はすごいなと思うし、嬉しいです。私はそうやって感想をSNSに残したりするのは怖くてできないので(笑)。


 だから感想を書いてくれる人は作っている側としてすごく嬉しいし、今回の『ブルーイマジン』のことも観て書いてもらいたいです。


<取材・文・撮影/望月ふみ ヘアメイク/美樹(Three PEACE) スタイリスト/竹岡千恵>


(C) “Blue ImagineFilm Partners
ブルーイマジン』は全国順次公開中


【望月ふみ】70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi