「あの子と遊ぶと母親から電話かかってくるの知ってる?」「うちの子を不良にする気なの!って」…そういう噂が教室内で飛び交い、主人公・相原葉子に話しかけるクラスメイトはいなくなっていた。彼女の親は、いわゆる過干渉の“教育ママ”で、高校受験を控えた中学3年になると、その毒親っぷりはエスカレート。進路についても本人の意向は聞かず、母親が希望校を決めていた。

【漫画】本編を読む/不良少年との友情で主人公が変わった…!?

そんな自分を取り巻くすべての状況をあきらめていた主人公・葉子だったが、2学期の始まりの席替えで、クラスで唯一の不良・伊藤尚と隣の席になる。決して交わることのない“ガリ勉ちゃん”と“不良くん”の組み合わせに、化学反応が起こる。ある日、彼が小テスト用紙を折って作った“紙飛行機”を窓から飛ばした。風に乗って、自由に空を飛んでいく紙飛行機。一瞬目を奪われた葉子の心に、本人も意識しないくらいに小さな、でもフワッと広がっていくような新しい風が吹き込まれた瞬間だった。

その日の帰り道、葉子は家に帰るのをためらっていた。土手に座り、進路希望調査の用紙をため息交じりに眺める。母親にそれを見せるのが憂鬱だった…。彼女は紙飛行機を折って飛ばしてみた。しかし、風を切ることも宙を舞うこともなく、まったく飛ばない紙飛行機。葉子の現状を表わしているようだった。葉子の空は小さく息苦しく、紙飛行機でさえも自由に飛び立つことができない。

そこに現れたのは伊藤だった。“ガリ勉ちゃん”と“不良くん”という真逆のレッテルを貼られた2人の距離が縮まっていく。しかしこのあと、青春ならではのあらゆる障害によって引き離されていくのだった…。一体どうなってしまうのか?

この作品を描いたのは、「貧女ハウスへようこそ」(小学館)や、「実録怪談 本当にあった怪奇村/新犬鳴トンネル」(竹書房)などの代表作を持つ三ノ輪ブン子(@minowabunko)さん。最近はホラー漫画を主に描いている漫画家なのだが、実は派手な絶叫シーンだけでなく、静かな恐怖や登場人物たちの細やかな心理状態や機微を描くのにも長けた漫画家だ。本作を読んだ読者からは「ホラー漫画がおもしろくて読ませてもらっていたんですけど、こういうのも描けるんですか…!!すごくおもしろかったです!」という感想や「ストーリーがいい!」という感想が届いている。作者の三ノ輪ブン子さんに本作について話を伺ってみた。

――この作品は、三ノ輪さんの中学時代の思い出に着想を得て描かれたそうですね。

そうなんです。中学時代に席替えで隣になったヤンキーが、よく話しかけてきてたんですよね。たぶん彼は出席日数のために学校に来ていたけど授業がつまらなくて、隣の席にいた私が唯一話しかけられる存在だったようで…!でも受験シーズンだったのでこちらはなかなか迷惑でした(笑)。

――そのモデルとなった彼も、漫画に登場する伊藤のように優しい人柄だったのでしょうか?

はい。学校はさぼるし怖い上級生と付き合っていたのに、本人の性格は穏やかでした。怒っているところなんて見たことなかったんですよね。不思議です。

――モデルとなった彼は無事に卒業できましたか?

雪が降った日は通学が面倒なようで欠席していたので出席日数が心配でしたが、無事に卒業できていました。よかったです。

――読者に魅力を感じたところについてのアンケートを取って、600を超える回答が届いているようですが、どういった回答が多かったですか?

「ストーリーがよい」という回答が多かったですね。もう少し「キャラクターがよい!」という反応ももらえるようにならないとな、と感じるところはあります。キラキラした青春恋愛ものを描いたのはこの作品だけだったので、楽しんでもらえるのかかなり自信がなかったのですが、よい反応をたくさんもらえてうれしかったです。

コメント欄には「アンケートに答えたいけど『表情』っていう選択肢がない」という意見もあるほど、三ノ輪さんの描くキャラクターたちの表情は生き生きとしている。作中で喜怒哀楽の感情を描くのを得意とする三ノ輪ブン子さんは、現在は電子雑誌「comicタント」(ぶんか社)にて、都市伝説系漫画「ただのうわさです」(原案:飯倉義之)を掲載中!ホラー漫画家として知られる三ノ輪さんの真骨頂である都市伝説系ホラーの世界観も見てみたい人はぜひ!

取材協力:三ノ輪ブン子(@minowabunko)

主人公の息苦しかった世界に、ほんの少しだけ新しい風が吹き込んできた