プロジェクトの現場はいつも「想定外」「トラブル」と隣り合わせです。プロジェクトのオーナーと直接やり取りできない、複数のオーナーが存在する…といった難しいケースを円滑にまとめる方法を見ていきます。孫正義氏のもとで〈プロマネ〉を務めた三木雄信氏が解説します。※本連載は、三木雄信氏の書籍『孫社長のプロジェクトを最短で達成した 仕事が速いチームのすごい仕組み』(PHP新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

「本当のオーナーと直接やりとりできない」状況に潜むリスク

 Q 

上司の上司がじつは影のオーナーだったり、クライアント担当者の上司がオーナーだったりと、本当のオーナーと直接やりとりできない場合はどうすればいい?

 A 

チャーターを渡して「オーナーが承認した」という証拠を残しましょう。

これもチャーターを作成することが解決策になります。

担当者を介してオーナーとやりとりするしかないなら、口頭で伝言や情報共有を頼むのは危険です。

後で「言った、言わない」のトラブルになるので、必ず紙に書いたものを渡してもらうようにしてください。

定例会で新たに決まったことや変更したことがあれば、その都度チャーターを書いて担当者に託し、オーナーの承認を受けます。

オーナーが定例会や会議に出てくる意思がないなら、「あなたがチャーターとして承認した内容が、プロジェクトとしての意思決定になります」ときちんと伝えることが必要です。

議事録を渡す程度だと、ただの報連相だと思われて、後から「自分は意思決定した覚えはない」などとちゃぶ台返しをされる恐れがあります。

オーナーがプロジェクトに直接コミットしないケースほど、チャーターを交わして「オーナーのあなたはここに書かれたことを承認しました」という証拠を残して、鶴の一声を防ぐことが必要です。

「オーナーが複数いるプロジェクト」を円滑に着地させる方法

 Q 

プロジェクト・オーナーが複数いる場合、プロマネはどう対応すべき?

 A 

オーナー全員が集まって合議制で意思決定する場を作りましょう。

プロジェクト・オーナーは1人であるべきですが、現実には、どうしてもオーナーを1人に絞れないこともあります。

私がプロマネを務めた日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収プロジェクトでは、ソフトバンク孫社長(当時)、オリックスの宮内義彦会長(当時)、東京海上火災保険の樋口公啓社長(当時)の3名がオーナーでした。

企業同士が対等な合併や提携を行なう案件では、それぞれのトップがオーナーにならざるを得ません。よってどうしてもオーナーが複数になってしまうわけです。

この場合、プロマネがやるべきことは、定期的オーナーが集まる定例会をセッティングし、合議制で意思決定してもらうことです。

オーナーが複数いても、最終的に1つの結論が出れば、プロジェクトは円滑に進められます。

毎回の定例会で現場から上がってきた議題を合議にかけ、オーナーたちが出した結論を必ず紙に残して共有してください。

そうすれば、常に最新の状況に対してオーナー全員の承認が得られるので、後で鶴の一声による手戻りが発生することはありません。

当時、日本債券信用銀行は預金保険機構の管理下に置かれていたので、プロマネである私が窓口となって預金保険機構と買収交渉を進めました。また、オリックスや東京海上火災保険から参画したプロジェクト・メンバー同士の横をつないで、現場レベルでやるべきことはどんどん決めていきました。

こうして現場で決まったことをオーナーが集まる定例会にかけて、承認をもらいながらプロジェクトを進め、何とかこの大型案件を無事にやり遂げることができたのです。

この案件のように、どうしてもオーナーを1人に絞れない場合は、オーナーが集まるステアリングコミッティ(大規模なプロジェクトにおいて意思決定や利害調整を行なう委員会のこと)や定例会などの場を作り、全員が合意の上で1つの結論を出してもらうことが重要です。

三木 雄信 トライズ株式会社 代表取締役社長

(画像はイメージです/PIXTA)