新潟市で開催中の第2回新潟国際アニメーション映画祭で3月19日、長編コンペティション部門の監督記者会見が行われ、『深海からの奇妙な魚』のマルセロ・マラオン監督、『マントラ・ウォーリアー ~8つの月の伝説~』のヴィーラパトラ・ジナナヴィン監督、『オン・ザ・ブリッジ』のフレッド・ギヨーム監督が出席した。

【写真を見る】第2回新潟国際アニメーション映画祭、コンペ部門の監督記者会見の様子

新潟国際アニメーション映画祭は、世界で初となる⻑編アニメーションを中心とした映画祭。今年の長編コンペティション部門には、昨年の倍以上となる29の国と地域から49作品が集まり、12本がノミネートされた。この日の会見に登場したマラオン監督はブラジル、ジナナヴィン監督はタイ、ギヨーム監督はフランスから来日。またマラオン監督は「紙に鉛筆で描く技法を使っています」、ジナナヴィン監督は「3Dでもなく、2Dでもない、その間を取った2.5Dアニメと呼んだ手法の映画」、サム&フレッドの双子の兄弟で監督をしているギヨーム監督は「2Dや3D、ロトスコープも使っています。ハイブリッド」と語るように、各国からあらゆる手法を使ったアニメーション作品を携えた面々が集った。

『深海からの奇妙な魚』は、変わった超能力を持つ女性が深海への不思議な旅に出るさまを描いたもの。マラオン監督は「初めての長編です。とてもシンプルなロードムービー。即興でストーリーを作っていったので、とても奇妙な物語になっている。仲のいい友だちなど少人数で臨みました」と語る。「お互いを思いやる気持ちを感じ取ってほしい」と願いつつ、「実在する魚、自分自身の家族との記憶。そして女の人がゴリラに変わってしまうような、現実では起こり得ないこと。そういった3つの要素を中心に描いています。深海の魚たちがおかしいのではなく、この世に生きている私たちがおかしいのだということを表現しています」と不思議な世界観から、人間を見つめるような作品だという。

マントラ・ウォーリアー ~8つの月の伝説~』ジナナヴィン監督は、「この映画を作るのに3年ほどかかりました」と切りだし、「インドの叙事詩であるラーマーヤナを別の形から取り入れようとしました」とストーリーについて説明。クールなキャラクターが続々と登場するが、「すべてラーマーヤナに登場するキャラクターから作りました。ラーマーヤナで有名なキャラクターである、ハヌマーンも描いています。東南アジアやタイでは、ハヌマーンはとても有名なんです。スーパーヒーローを取り入れたかったという意図もあります」と作品に込めた想いを明かした。

生と死をテーマにした『オン・ザ・ブリッジ』のギヨーム監督は、「アニメーション・ドキュメンタリーと言える作品。アニメーションに本当の人たちの声を重ねた作品」だと解説。「生と死を描こうと思いました。死のあとにはなにがあるのか、もしくはなにもないのか。知っているものがあるのか、想像もしていないものがあるのか。それを描きたかった。死に直面している人たちの声をレコーディングしていくうちに、この映画では死について語りたいなと思い始めました」とテーマについて語り、「日本で自分の作品を紹介するのは初めてで反応が気になっていましたが、いいリアクションや反応をいただけてとてもうれしい」と笑顔を見せていた。

それぞれがいろいろなアニメーション表現の可能性にチャレンジしている。マラオン監督によると「ブラジルでは、ここ20年でやっとプロフェッショナルなアニメーションの制作が行われるようになった」と盛んな時期を迎えているという。マラオン監督はコミックに影響を受けてきたと続け、とりわけ「タンタンの冒険」は自身にとって思い出の作品だとコメント。「この業界にはさまざまな手法の可能性がある。私のように手描きで描くことにも、まだ可能性がある」と話す。

ポール・グリモー監督の『王と鳥』(80)に影響を受けたというギヨーム監督は、「『王と鳥』が、アニメーションは詩編、詩作になるという可能性を教えてくれた。宮崎(駿)監督もこの映画から影響を受けたと思います。宮崎監督と同じ気持ちを分かち合っていると思うと、非常に光栄です」とにっこり。「アニメーションの表現には、いろいろな手法が残るはずだと信じている。2D、3D、そのミックスもある。私のようなインディペンデントの映画の作り手にとっては、制作がしやすい未来があると思います。AIの台頭も、私たちにとってはアドバンテージ。アイデアの部分はAIに取られたくないけれど」と会場を笑わせながら、「誰にでもできるような作業はAIに任せて、クリエイティブなことを私たちがしていきたい」と未来を見つめた。

週刊少年ジャンプに親しみ、「『ドラゴンボール』『ワンピース』『NARUTO』はタイでも大人気」と日本の漫画やアニメから影響を受けたというのがジナナヴィン監督で、「私も様々な技法を使って表現していきたい。ツールが進化することで、私たちを助けてくれる。私たちはアイデアにフォーカスすることができる。これからの未来のアニメ制作にはたくさんの可能性がある」と力を込めるなど、3人の監督がチャレンジ精神をみなぎらせていた。

新潟国際アニメーション映画祭は、世界で初となる⻑編アニメーションを中心とした映画祭。アニメーションや漫画関連に従事する人々を約3000名以上輩出している日本有数のアニメ都市である新潟から世界へと、多岐にわたるプログラムを発信している。3月20日まで新潟市内で開催される。

宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記

取材・文/成田おり枝

さまざまなアニメーションの表現にチャレンジしている監督たち。影響を受けた作品も明かした