文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)

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生駒ケーブルを一躍全国区にまで押し上げる

 ワンちゃんとネコちゃんの形をした、なんともかわいらしい車両が走っているのは、奈良県にある近鉄生駒ケーブルだ。まるで遊園地の乗り物と見間違えるほど、そのインパクトは絶大で、おとなにもこどもにも大人気。犬形は「ブル」、猫形は「ミケ」という愛称がついており、とても魅力的な愛らしいスタイルは生駒ケーブルを一躍全国区にまで押し上げた。一度見れば絶対に忘れないし、絶対に乗りたくなるユニークなスタイルのケーブルカーの秘密に迫ってみよう。

 そもそも「ブル」と「ミケ」はどのようにして誕生したのか、生駒ケーブルの歴史から紐解いてみたい。宝山寺1号線と呼ばれているこの路線が開業したのは1918年。「聖天さん」として親しまれている宝山寺への参拝客を運ぶためのケーブルカーとして、なんと日本で初めて造られた歴史ある路線なのである。

 鳥居前駅から宝山寺駅までの935mを結んでいたのだが、その8年後の1926年には輸送力増強のために宝山寺2号線が増設される。1929年には生駒山上遊園地の開業にともない、宝山寺駅~山上駅間を結ぶ山上線も造られた。その遊園地内に1999年7月、「IPCわんにゃんふれあいパーク(現在は閉園)」がオープンしたことにちなみ、2000年に車掌の帽子をかぶったブルドッグ「ブル」と、美しい生駒の風景を双眼鏡で覗いている三毛猫「ミケ」がデビューすることとなったのである。

「ブル」と「ミケ」は独創的な外観だけに留まらず、車内にも特徴があふれている。まず天井には天窓が設置され開放感いっぱいのほか、間接照明を用いた空間演出も施されている。座席のモケットには「ブル」と「ミケ」が散りばめられ、BGMには「ブル」は「ピクニック」、「ミケ」は「ねこふんじゃった」が用意され、「ワンワン」「ニャーン」といった鳴き声も流れるなど、遊び心も忘れていない。

国内最古の車両も健在

 さて、生駒ケーブルのお楽しみは宝山寺1号線の「ブル」と「ミケ」だけではない。山上線にはその仲間ともいえる、これまた独特のケーブルカーが走っているのだ。こどもたちが楽しみにしている行事の音楽会と誕生会をモチーフにした、オルガンの「ドレミ」とバースデイケーキの「スイート」である。これら4両の車両は、単なる乗り物としてではなくアトラクション的要素を加え、こどもたちを中心にすべての人に夢を与えられる楽しみにあふれたケーブルカーをというコンセプトから造られている。その狙いは見事に的中し、近頃はSNSなどで話題になり大いに盛り上がっているという。

 乗っても楽しい生駒ケーブルだが、やはり走っている姿、しかも「ブル」と「ミケ」がすれ違うシーンを是非みなさんの目に焼きつけておいてほしい。1本のワイヤーロープで2台の車両を繋いでいるケーブルカーというシステムの特性上、車両は必ず路線の中間点ですれ違うようにできている。そのため宝山寺1号線でいえば鳥居前3号踏切付近で待ち構えていれば、必ず「ブル」と「ミケ」のすれ違いシーンを見ることができるのである。

 日本初のケーブルカーで愉快な車両が行き交う生駒ケーブルだが、実はこのほかにもたくさんの秘密が隠されている。まず宝山寺1号線、2号線と複線になっているケーブルカーは全国でもここだけだ。そして面白いことに生駒ケーブルは観光用としてではなく通勤通学路線としての顔もあるため、このような奇抜な車両にスーツや学生服を着たお客さんが乗り込むようすは、なかなかのミスマッチではないだろうか。

 またケーブルカーは安全面の理由から踏切は設置されないのが通常だ。そのためケーブルカーの踏切は全国でわずか7か所しかないのだが、宝山寺線と山上線にはそのうちの5か所の踏切があり、しかも先ほどの鳥居前3号踏切は日本で自動車が通れるただひとつの踏切でもある。

 ほかにも「ブル」と「ミケ」が走らない宝山寺2号線には、なんと1953年に製造された見た目もレトロな国内現役最古のケーブルカーすずらん」「白樺」が在籍している。生駒山上遊園地の休園日である木曜日にあわせて宝山寺1号線が点検で運休となるため、これらの古参車両はその際に運行される。つまり毎週木曜日は「ブル」と「ミケ」はお休みとなるので、ワンちゃんネコちゃん車両に乗りたい人はこの日を避けて訪問しよう。

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