電動モビリティの新区分として特定小型原付が創設されましたが、無届・無保険・無免許の違法車両が横行するなど、その状況はますます混迷を極めています。抜本的な解決は「道路を変える」――規制緩和の立役者が語りました。

法整備がすごく速い

「本気で取り組むべきは『道路政策』」――電動モビリティの違法走行が横行するなかで、規制緩和の立役者が解決の糸口を語りました。電動モビリティを展開するglafit和歌山市)が2024年3月14日が開催した、特定小型原付の新モデル「NFR-01」の製品発表会での一幕です。

2023年7月から新たに創設された「特定小型原付」は、免許が必要な原付1種と自転車の中間区分として創設されました。最高速度20km/h、16歳以上であれば免許不要で乗ることができ、さらに条件を満たせば「特例特定小型原付」として最高速度6km/hで歩道を走行することも可能、といった新ルールができています。

特定小型原付は電動キックボードなどのカテゴリーとして認知され、シェアサービスの電動キックボードなども原付区分から特定小型原付へと切り替えられているほか、新製品も続々登場していますが、必ずしも電動キックボードに限るものではありません。NFR-01は自転車に似た座り乗りタイプですが、自転車として「漕ぐ」機構を廃した、純粋な電動走行のみのモビリティです。

この特定小型原付の創設の立役者となったのが、glafitの鳴海偵造社長です。電動モビリティを原付のカテゴリーに“当てはめざるを得ない”状況のなかで、2018年から経済産業省の制度を利用して、国交省警察庁とともに電動モビリティならではの区分として「特定小型原付」の要件を検討してきた実績があります。

発表会のトークショーに登壇したモビリティジャーナリストの楠田悦子さんは、特定小型原付について、世界的にみても「法整備がすごく速い。ふつう10年はかかるはず(のところを5年で実現した)。法律が変わって、あとからモノ(特定小型原付の製品)がついてきている状況」と評価しました。

ただ、特定小型原付が創設された2023年以降、電動モビリティの違法走行はますます混沌の度合を深めています。都内では以前から、ナンバー登録なし、無免許運転電動キックボードなどをよく見かけましたが、明らかに原付区分であろう座り乗りタイプのペダル付電動バイクなども、ナンバーなしで堂々と歩道を走っている姿も目立ってきています。

制度はできた でも「走るのに適した環境がない」?

「モペット」と呼ばれるペダル付電動バイクの交通違反の摘発件数は、2023年には前年の3倍以上に急増。この状況を受け3月5日には、モペットが電源を停止した状態で走行しても「原付」に該当することを明確化する道交法改正案も閣議決定しました。

こうした違法走行の問題を根本的に解決するには、「自転車道の整備しかない」と鳴海社長は力を込めました。

20km/hで自転車道も走行できる特定小型原付は、鳴海社長をはじめ日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)などが提唱してきた理念を具現化したものといえます。モビリティを「速度と大きさ」で分類し直し、自転車と同じような速度で走る電動モビリティの走行環境として、車体の法整備とともに自転車道の整備促進を訴えてきたのです。

危険な違法走行は言語道断ですが、結局は、自転車も含めて低速モビリティの適切な走行環境を整備しなければ「どこを走ればいいの」状態が続くというわけです。

「ヨーロッパでは急ピッチで(既存道路の)車線を潰して自転車道をつくっています。潰さなくてもできます。本気で取り組むべきは道路政策」(鳴海社長)

楠田悦子さんも、自動車優先の道路整備に対し、「モノだけじゃなくて都市の構造を複合的に変えないといけない」と話しました。

鳴海社長は、特定小型原付の創設を「始まりにすぎない」と話します。「向こう50年くらいで街の在り方は変わり、道路も自動車が中心の整備から、人が中心になります。そこでパーソナルモビリティがようやく注目され始めています」と話します。

いわゆる「若者のクルマ離れ」は、クルマ離れではなく「所有離れ」だと鳴海社長。クルマの利便性は認めつつも、所有するには至らない、シェアで十分、でもやはり何か移動手段を個人で所有したい、そこで選ばれるのがパーソナルモビリティだといいます。一人で移動するのなら、1トン以上のクルマよりも、人間の体重より軽いパーソナルモビリティ――その効率の良さは、すでに学生などにも選ばれていると話しました。

ただ、glafitが実施した特定小型原付についてのアンケート調査では、3589人のうち特定小型原付の存在を「知っていた」と回答したのは28%にすぎず、そのうち、16歳から免許なしで乗れるようになったことを明確に「知っていた」と答えたのは37.8%という結果に。鳴海社長は「世の中にほとんど知られていない」状態だと話します。その認知度向上、交通ルールの周知徹底は、いま目の前にある高いハードルかもしれません。

横断歩道を渡ろうとしている無届・ノーヘルの電動バイク。確信犯か知らないのか、明らかに原付区分だ(乗りものニュース編集部撮影)。