新潟市で開催中の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」で3月19日、今年の長編コンペティション審査員長を務める、アイルランドの世界的アニメーションスタジオ・カートゥーン・サルーンのノラ・トゥーミー氏が、「カートゥーン・サルーンとビジュアルストーリーテーリング」と題したトークイベントを行った。

アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた「ブレンダンとケルズの秘密」(トム・ムーアと共同監督)などで知られる、トゥーミー氏。「アイルランドには日本に比べて人口は少ないですが、神話がたくさんあり、それらを基に物語を作ることができます。学生の頃はビジネス的なことは何もわかりませんでしたが、映画が好きでアニメ制作をスタートしました」と学生時代の制作風景の写真とともに振り返る。

アニメーション制作の柱としていることは「ストーリーテリング」「世界観の構築」「時間」「テーマ」「観客の時間の尊重」だといい、具体例を挙げる。

ストーリーテリングについては実作から学んだそうで、2002年に発表した初監督作の短編「From Darkness」を挙げ「手探りで12人で作った9分の作品です。イヌイット族の物語をベースにしています。恐怖に立ち向かい、自分がどう変化するのかというテーマです」と紹介し、「ストーリーテリングは、ビジョンが何より大事。監督のビジョンからパーソナリティが生まれます。パーソナリティは12人からできることもありますし、200人以上が携わって生まれたものもあります」と語る。

テーマの設定については、「"恐怖と戦う"ということは自分も怖がり屋なので設定しやすかった。何かしらの恐怖に立ち向かう、という経験は誰しもあると思うので、それは観客と作り手の間で共有できること。そして、観客の時間をリスペクトすること。人間の第一の資産は時間。短編でも、長編でも見る価値があるものを作ることが大事です」と強調した。

スライドで、カートゥーン・サルーンでの仕事風景も映しながら、「我々はアニメーションを付ける前から音声を録音して、その音からインスピレーションを受けます。そして、脚本が何より大事。世界一のアニメーターを雇っても、脚本がよくなければ良い作品はできません。コンセプトデザインも重要で、人々が入り込みたくなるような世界観を作ることが大事です。そして、コンセプトデザインの段階から、いくらくらい予算が必要かがわかるので、ここで賢い選択をすることが重要です」と解説。

そのほか、編集の大切さとともに、作品制作を続けていくうちに、監督という立場について次第に理解が深まったと明かす。「2004年の短編『Backwards Boy』で、スタッフに力を与えることを学びました。監督はスタッフとコミュニケーションをとることが仕事で、監督のビジョンを共有することが大事です。以前、私は監督はスタッフに指示を与えて動いてもらうと思っていましたが、やりたいことを実現するためにスタッフに仕える身分なのです。そういう風に働かないと、自分のビジョンが観客に伝わりません」とチームでの協業の重要さを説く。

そして「妥協」も大事だそう。「これは悪い言葉ではありません。予算がたくさんあろうがなかろうが、自分の時間も知識も限られています。ですので、何を手放したくないか、何が諦められるのかを常に自問自答します。ある1点にこだわりすぎて、ほかの要素がだめになってしまう、そんな例を見たことがあります。ですので、何が重要かを見極めること」

そして、スタジオ10周年の初長編作「ブレンダンとケルズの秘密」の話題に。モチーフについては、スコットランドアイルランドの修道士たちの写本から着想を得たこと、作画とキャラクター構築、芸術性、デザイナー、アニメーション、技術チームの振り分けやその上での人間関係の難しさなど、経験から得たことを様々な角度から紹介する。

タリバン政権下のアフガニスタンを舞台に、過酷な日常を生き抜こうとする少女とその家族の姿を描き、第90回アカデミー長編アニメーション賞にノミネートされた「ブレッドウィナー」で、トム・ムーアから監督に指名された経緯を問われると「話をいただいたときにまず感じたことは、自分は女性として恵まれている、と思ったのです。例えば、私の先祖のことを考えると私の母は1960年代に結婚、その後仕事はできす、自分で銀行からお金も引き出せなかった。そして、この映画の主人公は何も持っていない女の子。そういう存在に光を当てたい、という思いで作りました。多くの人と会い、ひどい話も聞きましたが、つらい事実も美しいストーリーの中に秘めて表現できる、それがアニメーションの素晴らしさだと思うのです」と感慨深げに語った。

最後に、トゥーミー氏が尊敬しているという作家、トミ・ウンゲラーの言葉を引用し「『恐怖に打ち勝つ方法を知るには、恐怖を知る必要がある』と彼は言っています。大人は次の世代に、どうやって困難に立ち向かうか、それを伝える役割を担わなければならないのです」とメッセージを送った。

第2回新潟国際アニメーション映画祭は3月20日まで開催、チケットは絶賛発売中。公式HP(https://niaff.net)でのクレジットカード決済、または上映会場にて現金でも購入可能(※一部例外もあり)。チケット販売、プログラム、会場など詳細は公式HP、SNSで随時告知する。

ノラ・トゥーミー監督