NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23』プレーオフトーナメント決勝から10か月、王者と2位が大きく立場を変えて再会する。2023年5月20日国立競技場で初優勝を遂げたクボタスピアーズ船橋・東京ベイは今季5勝5敗の6位に甘んじ、連覇の夢が潰えた埼玉ワイルドナイツは唯一の全勝で首位を快走する。過去2シーズンをリードしてきた両チームが『NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24』第11節・金曜ナイターで激突するのだ。

ディフェンディング王者は開幕戦で東京サンゴリアスに26-52の完敗。黒星発進となったS東京ベイは第2節・三重ホンダヒートを相手にディビジョン1の洗礼を浴びせが、第3節・静岡ブルーレヴズ戦はラストワンプレーで19-23の逆転負け、第4節・東芝ブレイブルーパス東京戦は20-24の力負けに終わった。しかし、第5節では試合終了間際にコベルコ神戸スティーラーズから38-34の劇逆転勝利をマークすると、第6節・ブラックラムズ東京戦もFBゲラード・ファンデンヒーファーのサヨナラPGで18-17の逆転勝利を手繰り寄せ、第7節・花園近鉄ライナーズに56-19の完勝。3連勝で乗っていくと思われたが、第8節は三菱重工相模原ダイナボアーズに24-28の逆転負け、第9節もトヨタヴェルブリッツに27-31で競り負けた。『NTTリーグワン2023-24』プレーオフトーナメント出場へ背水の陣となった第10節・横浜キヤノンイーグルス戦も最後までもつれにもつれた。

3月15日の秩父宮ラグビー場にはニュージーランド代表90キャップのPRデイン・コールズもウエールズ95キャップのFBリアムウィリアムズも日本代表5キャップのファンデンヒーファーも、昨季のベスト15&ベストラインブレイカーのWTB木田晴斗も不在。オーストラリア代表75キャップを誇る昨季得点王のSOバーナード・フォーリーも第3節で脳震とうで途中交代して以来、戦線離脱したままである。さらに前半終了間際にはNo8ファウルア・マキシが退場、残り20分でスコアは8-26、まさに絶体絶命だった。60分CTB立川理道のグラバーキックに後半出場のCTBハラトア・ヴァイレアが反応するもグラウディングはできず。ならばと再びラインアウトからモールを横浜Eのディフェンスに跳ね返されると、SH藤原忍が中央へ展開、ボールを受けた立川が背後から回り込んだSO岸岡智樹へパス、そのまま岸岡が守備網の穴を突いてインゴールにボールをタッチした。

74分にはその岸岡が広い視野と確かな技術を生かして、50:22で敵陣でのラインアウトを獲得。75分モールの攻防から横浜EのLOコーバス・ファンダイクがシンビン(10分間の一時的退場)で数的有利となると、すぐさまモールからHO江良颯がトライをマーク。FB島田悠平のゴールも成功して、22-26に詰め寄った。そして79分アドバンテージを得るとハーフウェイライン手前から岸岡がショートパントでディフェンスラインの裏を取って自らキャッチ、22mラインまで走りFL嶋田直人に捕まるも立川のサポートでボールをキープ。藤原が素早く右へ展開し、島田、江良とつないだボールは最後WTB根塚洸雅に渡って劇的逆転トライ。島田がシビアな角度のGも通して29-26でノーサイド。S東京ベイが喜びを爆発させた。

江良颯(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ) (C)JRLO

試合後、フラン・ルディケHCが「今日の大逆転勝利は、私がクボタに来てから一番の逆転勝利と言えるかもしれない。みんなが信じる力を発揮した。前半は自陣に釘付けになったが、地に足を付けて戦ってくれた。レッドカードも出たが、この結果は選手たちがしっかりとゲームをコントロールした成果。直近2試合は大事な局面でスコアを動かせなかったが、そこを修正して得点に変えることができたのは今後の試合につながると思う」と手応えを口にすれば、立川主将も「勝点4を取れたことは大きい。ここからは勝ち続けないとプレーオフトーナメントには行けない。その点においても今日の勝利は大きい。ただ今後の改善点を整理し、我々の大きなFWが前でプレーできるような状況を作っていきたい」と先を見据えた。

(写真左より)立川理道、フラン・ルディケHC(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ) (C)JRLO

プレイヤーオブザマッチ(POTM)に選出された岸岡は「何としても落とせない試合だったので、かなり厳しい展開だったり、カードが出たり、反則があったりしたが、最後は何とかしなければいけない、強気にキック、ランをしようと思った。それがチームの勝利につながってすごくうれしいし、評価していただいてPOTMだったので非常に光栄。ここ数試合、僕が抜けたシーンが何回かあったけど、それがトライにつながらなかった。今日はそれをしっかり取り切ってしっかり勝てたのは、ここ数試合の反省が生かされているかなと思う」とホッとした表情を覗かせた。

『第60回全国大学ラグビーフットボール選手権大会』で主将として帝京大を3連覇に導いてから2か月、前節トヨタV戦にてアーリーエントリーでリーグワンデビューし、横浜E戦で2戦連続トライを決めた江良は「フィジカルもウェイトでは負けているし、体の当て方も今まで通りではだめ。ブレイクダウンが(大学と)一番違う。数cm遅れたらすぐにジャッカルされるし、スピードも速いし、練習から全然違う。相手にフィジカルの強さをどう出させないかというのが大事。真正面でそのまままっすぐでは絶対勝てないので、ずらしたり、いろんなスキルを駆使してやっている」と大学とリーグワンの違いを挙げた。

殊勲の岸岡とスーパールーキーの評価を求められた指揮官と主将はこうコメントした。
ルディケHC「(岸岡について)確実に成長している。モールトライなどモメンタムのコントロールのところ、前半良く後半悪い試合が過去何試合かあったが、今日はステップアップし、彼の才能が見えた。試合の中でも落ち着いてプレーできている。
(江良について)毎試合良くなっているし、特にボールキャリー、接点の強さでインパクトを見せている。後半大事なところで組んだスクラムでも大きな成長を見せてくれている」

立川主将「(岸岡について)タイトな試合を戦っていく中で若い9番(藤原)と10番(岸岡)もいい経験が積めている。途中から入った選手もいいインパクトを与えてくれたことで最後の勝利につながった。ケガ人が多い中でもチームの力を示すことができた。
(江良について)見てわかるように大学を卒業してすぐあれだけのパフォーマンスができるのはすごい。人間としてもいい奴。クボタの将来を担う人材だと思う。明るいし、堅苦しくないし、2~3年チームにいるような雰囲気もあるし、チームにもエナジーを与えてくれている。早く日本代表になった方がいい」

一方、埼玉WKは盤石の戦いぶりを見せ付けている。第1節・横浜E戦53-12、第2節・近鉄花園ライナーズ戦49-0、第3節・BR東京戦44-17と危なげなく開幕3連勝。第4節・トヨタV戦こそ前半に4トライを許して5-27のビハインドとなったが、前半ラストプレーでPGを選択。8-27で折り返すと、後半は一転5トライを記録、守っては相手をシャットアウト。終わってみれば43-27。

第5節・相模原DB戦は12トライを量産して81-21、第6節・三重H戦は10トライの雨を降らせて70-12と2試合連続で大勝すると、第7節・東京SGと取りつ取られつの白熱したシーソーゲームを繰り広げた。それでも61分にSO松田力也のPGで21-20と逆転すると、ラストプレーでも松田のPGで締め括り24-20でフィニッシュ。第8節は昨季リーグ戦で初黒星を付けられた因縁の静岡BR戦を45-19でクリア。BL東京との全勝対決となった第9節も数的不利となった相手に追い上げられたものの、最終的には36-24で締め括った。

松田力也(埼玉ワイルドナイツ) (C)JRLO

前節も一貫したパフォーマンスを披露。3月16日・敵地で開始早々、神戸Sにトライを献上するも、9分センターライン付近でペナルティを受けるとPGをチョイス。松田が決めて3点返すと、14分にLOマーク ・アボットがシンビン、その2分後に相手もシンビンとなる中、33分までに互いにPGを2本ずつ決められて9-11に。35分には自陣深くでのラインアウトから神戸Sにモールでインゴールに雪崩れ込まれるもグラウディングは許さず。36分SH内田啓介のターンオーバーからのビッグゲインはインゴールラインに届かなかったが、38分WTB長田智希が大外右から中へ切り込んで逆転トライ。対する神戸Sも譲らず53分に逆転トライ、さらにGを決められて14-18とされたが、ここで埼玉WKがギアを一段上げる。今季初先発のFL大西樹が守備網の穴を突いて再逆転トライをマークすると、65分には第5節以来の出場となるFB山沢拓也がとどめのトライ。埼玉WKが神戸Sを28-18で切って落とした。

長田智希(埼玉ワイルドナイツ) (C)JRLO

昨季まで“逆転のワイルドナイツ”の異名通りに薄氷を踏む逆転劇も散見したが、今季はそこまで追い詰められた試合すらない。クラブ間の戦力差が詰まり、タイトなゲームが多くなっている3季目の『NTTリーグワン』に於いて、埼玉WKは余裕すらを感じさせる10連勝をマークしているのだ。10試合を終えて、埼玉WKはリーグ最多の473得点、リーグ最少の170失点。リー2位が神戸Sの395得点、BL東京の226失点と言えば、いかに埼玉WKの数字が際立っているかわかるだろう。

下馬評では埼玉WK有利である。だからこそ、S東京ベイには勝利が求められる。プレーオフ圏内の4位神戸Sに勝点3差を付けられたS東京ベイには起爆剤が必要不可欠である。全勝の埼玉WKからの白星はリーグ終盤戦に向けて、これ以上ない起爆剤となるはずだ。

果たしてS東京がここから浮上してくるのか、それとも埼玉WKがここで引導を渡すのか。『NTTリーグワン2023-24』第11節・S東京ベイ×埼玉WKは3月22日(金)・秩父宮ラグビー場にてキックオフ。当日、オレンジのアイテムを着用した来場者先着3000名にこの試合限定のスッピーステッカーをプレゼント。チケット発売中。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ対埼玉ワイルドナイツ NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 DIVISION 1のチケット情報 https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2404556

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24の特設ページ
https://t.pia.jp/pia/events/rugby-leagueone/

岸岡智樹(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)