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 ゾーン、それは周囲の邪魔なものは全て意識の外に排除され、自分の感覚だけが研ぎ澄まされ、やるべきことに没頭できる超集中状態のことだ。トップアスリートなどは良く経験すると言われている。

 心理学用語では「フロー」と呼ばれるゾーンだが、この状態に突入すると、脳内ではどのようなことが起きているのか?

 新たな研究がその謎を解き明かした。

 ゾーンに入ったギタリストの脳をスキャンして分析したところ、自分の意識をコントロールすることから離れ、「自動運転」モードに入ることが示されたという。

 これは、集中している作業に完全に没頭し、自分の意識的な思考が背景に退くことを意味する。

【画像】 ゾーン(フロー)についての2つの仮説

 ここでいうゾーンとは、心理学用語でいうフローのことで、目の前の作業に完全にのめり込んだ超集中状態のことだ。

 そのメカニズムについて、これまで大きく2つの仮説が提唱されてきた。

 1つは、脳内にある特定の2つのネットワークが関係しているという仮説だ。

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 そのネットワークを、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と「実行制御ネットワーク(ECN)」という。

 DMNは、白昼夢に関連する回路で、特定の作業を行なっていないとき(要はぼんやりしているとき)に活発になる。

 もう一方のECNは、問題解決のような複雑な認知プロセスを助けており、気を散らすようなものがあってもそれを無視させる。

 DMNとECNは、それぞれ別々に働くこともあるが、ある程度は連携しており、特に創造的な作業ではお互いに作用し合うことが知られている。

 そして最初の仮説では、ゾーンとは「ECNが活発になり、DMNが集中して働けるようにすることで、いろいろなアイデアが湧き起こるようなった状態」だと説明する。

 だが、もう1つの仮説では、そうした特定の脳内ネットワークは関与していないとされる。

 そのかわり「経験を通じて育まれた専門的な知識によって作られた、独自の神経処理ネットワークが関係している」と説明する。

 今回行われた新たな研究はこのどちらの仮説が正しいのかを検証するものだ。

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photo by Pixabay

どちらの仮説が正しいのかを検証

 どちらの仮説が正しいのかを調べるために、米国ドレクセル大学の心理学者ジョン・クオニオス教授らは、32人のジャズギタリストに協力してもらった。

 ジャズの特徴である即興は、きわめて創造的で、ギタリストを没頭させ、ゾーンに導きやすいと考えられる。

 そこでこの実験では、ギタリストに脳波の測定キャップを被らせ、ギターを演奏してもらった。

 またそれと併せて、”ゾーン”に入っていたかどうかも質問した。ゾーンに入っていた時の彼らの脳波からは何が言えるだろうか?

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実験に参加したギタリストがゾーンに入ったときの脳波を測定 / image credit:/Image credit: Image provided by John Kounios, PhD, of Drexel University

ゾーン状態では意識が放たれ脳が自動操縦に切り替わる

 この結果、ゾーンに入った経験豊かなギタリストでは、ECNとDMNの活動が低下し、かわりに聴覚・視覚・運動情報を処理する領域が活発になることが確認されたのだ。

 このことは、ゾーン状態にある人は、いわば「自動操縦」に切り替わり、意識的に何かをやっているわけではないことを示している。

 またDMNがあまり働いていないということは、アイデアが湧き上がってくるのは、DMNの影響ではないだろうことも示している。

 そのかわりに、ギタリストが演奏の腕前を磨きながら生涯を通じて形成してきたネットワーク(つまりは聴覚とギター演奏に関わるネットワーク)が利用されていた。

 つまり最初の仮説ではなく、脳内ネットワークは関与していないとする、もう1つの仮説の正しさを裏付けているということだ。

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経験豊富なギタリストが深いフローに入ったとき、経験の浅いギタリストとの比較で活発になった領域 / mage provided by John Kounios, PhD, of Drexel Universityimage credit:

ゾーンに入るのに必要なのは高度な技術習得と意識を手放すこと

 このことからは、演奏に没入し、深いゾーンに入るためには、専門的な技能を身につけ、そのうえで意識を手放すことが大切であることもうかがえるという。

 クオニオス教授は、この発見について、「創造的なアイデアを生み出す新しい技術の基礎になる可能性があります」と、プレスリリースで述べる。

 同教授らは今後、もっと高度な脳スキャン技術で今回の結果を再現したり、絵画のような演奏とはまた違った作業で彼らの理論の正しさを検証したりしたいと考えている。

 この研究は『Neuropsychologia』(2024年2月21日付)に掲載された。

追記:(2024/03/21)本文を一部訂正して再送します。

References:'Flow state' uncovered: We finally know what happens in the brain when you're 'in the zone' | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo

 
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超集中状態「ゾーン」に入ると、脳で何が起きているのか?新たな研究でその謎が明らかに