「オシッコから病気がわかる」というのは人も猫も同じですが、野生の本能を色濃く残す猫は、排泄に関してとりわけデリケートで、人がチェックしようとすると神経質になってしまうことが多く見られます。猫が気持ちよく排泄し、かつ、飼い主も健康チェックのための採尿をスムーズにできるやり方はどのようなものでしょうか? 獣医師である、宮下ひろこ氏の著書『獣医さん、聞きづらい「猫」のことぜんぶ教えてください!』(日東書院本社)より、猫のための多様なトイレや、猫にストレスを与えない採尿の方法などを見てみましょう。

「猫のトイレ」は、メリット・デメリットを重視して選ぶ

昨今の猫トイレは単に形やデザインだけでなく、かたづけが楽なシステムトイレ、尿量や回数、体重チェックなど、健康管理ができるIoTタイプのトイレなど実に多彩なものが登場しています。

そもそも猫の排泄は砂を掘り、その穴に排泄をして、また砂を足で搔いて排泄物をおおい隠して終了、という流れです。そう考えると、砂を入れる一般的なトレイ型のトイレで十分な気がしますが、そこは飼い主のライフスタイルや健康意識の変化に伴い、いろいろ試したくなる気持ちもわかります。

まず、一般的なトイレの基本として、掘っても底が見えない程度の量の砂を入れてあげてください。およそ5㎝以上の深さが理想です。猫砂のサイズは粒がより小さいほうが猫には好まれるようです。

また、トイレのとき体の向きを変えるので、トイレの大きさは猫の体の1.5倍以上が理想的。複数頭猫がいる家では、トイレの数は「猫の頭数プラス1以上」がベストです。洗濯機など激しい音がする場所は避け、猫の食事や寝る場所から数メートル離れた静かなところに設置しましょう。

左に最近のトイレを表にしました。トイレ選びで大切なのは猫さんが心地よく排泄できること。飼い主さんにとって便利でも猫さんが不自由を感じるようであればまちがったチョイスといえます。

便利なアイテムを活用し、若いときから採尿に慣れさせる

尿検査は、泌尿器系の病気や糖尿病の診断などができる検査です。猫の場合、多くの病気を早期発見できるので、若いうちから自宅で採尿して定期的に検査をすることをおすすめします。

とはいえ、猫の家での採尿は犬とちがって難しいですよね。特にナイーブな性格の子は、いつもとちがう動きをすると、敏感に感じ取って途中で排尿をやめてしまうことも。

動物病院にもよりますが、一般的なものはスポイトや注射筒(シリンジ)、棒の先にスポンジが付いたもの(ウロキャッチャー)を渡され、それに尿を取ってきてください、といわれます。容器がもらえない場合は、お弁当のおしょうゆ入れなどスポイト式のきれいな容器でもOKです。

まずは、猫さんがトイレに行ったタイミングで、図表2のいずれかの方法で行ってみましょう。猫にとって排泄はとてもデリケートなもの。強引にやろうとすると、トイレに行かなくなる場合もあるので、様子を見ながら何度かトライするのがよいでしょう。

どうしても難しければ膀胱穿刺という方法も

家での採尿がどうしても難しい場合、病院で膀胱穿刺を行う手もあります。おなかに針を刺して尿を取る方法で、触診しながら針を刺す方法と、超音波で確認しながら針を刺す方法の2種類があります。無菌状態の尿が採取できるので、細菌培養などが必要な場合にも有効です。安全に行えば正確な検査ができる方法ですが、出血など合併症のリスクもあるので獣医師とよく相談してください。

オス猫の場合は、尿カテーテルを行う場合もあります。比較的安全な方法ですが、カテーテル挿入時に尿道を傷つけないように行う必要があります。

直接手で膀胱を圧迫する方法もありますが、圧迫することで膀胱内の尿が逆流し、細菌が尿管や腎臓に運ばれるリスクがあるため、あまり行われません。

リスクが低いのはやはり家での採尿といえそうですね。小さいうちから慣れさせておくとスムーズかもしれません。

宮下 ひろこ

獣医師/動物病院専任カウンセラー

(※写真はイメージです/PIXTA)