自分の死後を見据え、着々と準備を重ねてきた相続対策。しかし、資産の配分までしっかりと指定しておかなければ、せっかくの努力も水泡に帰すことも……。本記事では、相続対策において効果的に資産配分をする方法について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

あとは次の代に託した!

相続対策のために、税理士や不動産コンサルとも打合せを重ねて賃貸マンションの建築など実施してきた。計算によれば、相続税はかなり圧縮できたことから次の代の納税は可能であろう。

ここ数年、一生懸命に対策を進めてきたが、すでに自分自身は80代になっており、心身ともに衰えが進んできているように感じる。あとは、2人の息子と娘、その孫たちで協力しながら承継をしていって欲しい。

可能であれば、自分の代では先代からの資産を減らさずにできそうであるから、次の代でも減らさずに残していって欲しい。

相続対策が完了したらそこでおしまい!?

現在の法制度においては相続による資産の承継については「平等」が原則である。配偶者と子供がいれば、半分は配偶者、残りの半分は子供の数に応じて配分される。また、子供がいなければ、被相続人の親や兄弟姉妹が法定相続人となるため、自分の遺志を明確にしないまま相続が発生すると親族間で骨肉の争いになる可能性が高い。

また、地主家系であれば資産の大半は不動産が占めていることから、平等に配分するということも難しい。不動産は「一物四課」であり、相続税評価額が時価と大きくかけ離れていることが一般的であるから、改めて時価で相続資産を計算すると金融資産と不動産とでさらに大きな価格差が出る。

このようなケースでは、おそらく「遺産分割協議」は成立しない。金銭による代償分割を要求する相続人がいたり、不動産の共有による解決を図ろうとしたり、あるいは不動産を売却して現金での配分を図ろうとするケースなどが発生する。

なお、不動産の共有は問題の完全な先送りであり「悪手」である。相続人にさらに相続が発生すると共有者が多くなりすぎて「売却」や「修繕」など共有者全員の意思決定が必要な事項については合意困難となる。売却も同様であり、納税期限内に慌てて売却しようとすると、正常な状態で意思決定ができないため安く買いたたかれる可能性が高い。

このような状況に陥ってしまっては、せっかく努力をして対策をしてきても「水泡に帰す」ことになりかねない。  

遺言を残そう

遺志を残すという点では「遺言」の作成が不可欠である。

「公正証書遺言」を残すことが望ましい

本件では、地主を対象として検討をしていることから作成にあたっては、専門家を招聘したうえで「公正証書遺言」を残すことが望ましいと考える。昨今では、法務局で保管する「自筆証書遺言保管制度」ができた。当該制度では通常の自筆証書遺言で必要となる「検認」手続きが不要となるし、手数料も以下のとおり数千円程度と安価で、とても利用しやすい制度である。

※遺言書における保管の申請の撤回、および変更の届出については手数料はかかりません。

ただし、法務局では内容や遺留分についての検証を行うものではないことから、地主一族においては専門家と一緒に「公正証書遺言」を作成しておくことを推奨したい。

「遺言」を作成することで子供の取り分は遺留分(法定相続割合の半分)までとなることから、必ずしも平等でなくても相続人の遺留分を侵害していなければ文句は言えない。

遺言に「付言」を残す

また、「遺言」の内容にも留意したい。たとえば、「不動産〇〇は長男であるAに相続させる」など事務的な内容のみであると、配分の少なかった次男や、長女などは「親の面倒をたいして看なかったくせに、長男ばかり得して……」との不満を募らせやすい。したがって、遺言に「付言」を残すことが重要である。

たとえば、「次男に対しては、長男に比べて財産が少なくなっていることを申し訳なく思っていること、いままで一族のために貢献してきたことを見ていて感謝していること、資産についてはあくまでの一族の所有物との認識であり自分勝手に使うものではなく適切に次の代に承継していくものであること、そのためのサポートをして欲しいこと」など決定した理由を明確にすることが必要だ。

「付言」によって、すべてが解決するものではないが自分としての遺志を残して伝えるという点では効果があるように思う。  

本質的な解決を図るための「隠居」!?

以前、筆者は家系図を作成したことがあるが、ご先祖の何代かにおいては「隠居」をして、家督相続を行っていた。生前に、次の代にバトンを渡すことで揉め事も少なかったのではないかと推測した。また、その制度がうまく機能していたので、隠居による承継を継続していたのではないかと思った。

現代においても、「隠居」できるような状況を作り出すことで円滑な承継ができるのではないかと考えている。有名な一族経営の事業会社においても、経営者としてふさわしい後継者に代表を任せ、株式も生前に贈与や譲渡で移転させながら、本人は会長職や相談役として第一線を退き、場合によっては経営からも距離を置いて余生を楽しんでいるのではないかと思う。

地主一族においても同様の仕組みを設けることが必要だ。すでに一族の「資産管理会社」を持っている方も多いと思われる。土地については、代々の土地であるため取得費が不明であることから資産管理会社(以下「法人」)への移転コスト(譲渡所得税や登録免許税など)が高額となるため、既存建物を法人に移したり、新築建物を法人で建設したりと法人で不動産を所有するような仕組みである。まだ、法人を設立していなくても銀行や税理士などから過去に提案を受けたことがあるのではないだろうか。

地主としての仕事を考えた場合、関係者は借地人や、建物の賃借人、管理する不動産会社、リフォーム業者、税理士、銀行など多岐にわたる。それぞれの、関係者と良好な関係を保ちつつも必要な意見は伝えなければいけない。また、不動産収支についても適切に把握をしておき、状況に応じて収支を改善させるような取り組みもしていかなければいけない。

つまり、不動産知識や財務知識はもちろんのこと、その人間性や経済に対する感度、将来の予見能力なども不可欠である。したがって、長男であるから法人の代表者、という訳ではなく適性のある人物(次男や長女、場合によっては孫)が代表者になるべきである。

場合によっては、数年試してみたが残念ながら能力的に不足していると判断すれば、次の代表者に託すことも必要かもしれない。

最終的に、代表者としてふさわしいと判断できれば、その人物に所有している株式を贈与などで移転させていけばよい。これによって、生前に承継は完了するし実質的に「隠居」出来るのではないかと思う。当然、土地については簡単に法人へ移転できないことから遺言を準備し相続時などに移転させていくことが必要である。

必ずしも高齢になってから相続対策を行うのではなく、元気なうちに承継を開始し生前に「隠居」するという方法が、将来の親族間での骨肉の争いを生じさせない円滑な承継の対策として必要であると思う。

まとめ:資産の配分を次世代に任せる、で本当によいのか

相続税を圧縮したところがゴールではない ・相続税の納税できるところまでで対策完了とすると、後々大揉めになる可能性がある ・資産の内訳に不動産があれば平等に配分することはできない ・遺言により本人の遺志を残すことが必要である ・生前に「隠居」する方法を考えることも必要である ・資産管理会社の活用は円滑な承継に寄与する可能性がある

以上のポイントを押さえることが重要である。

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

(※画像はイメージです/PIXTA)