―[テーマパークのB面]―


3月1日にオープンした「イマーシブ・フォート東京」。かつてお台場に存在した「ヴィーナスフォート」の跡地を活用した話題のテーマパークだ。プロデュースしているのは、これまでUSJ西武園ゆうえんちのリニューアルに携わってきた森岡毅が代表を務める株式会社・刀。否が応にも期待は高まるものだ。

本邦ではじめてとなる「イマーシブシアター」というアトラクションを主体としているようだが、具体的には何が特色で、どういった楽しみ方があるのか。テーマパークラボ代表の中野キューさんに見どころを語ってもらった。

◆受け身でも「置いてきぼりになる人が少ない」

中野さん曰く、同テーマパークには“いい意味”で予想を裏切られたという。

「事前の情報では、他のテーマパークに比べるとアトラクションの数が少なかったり、いわゆるライド形式の乗り物が無かったりと、不利な側面があると思っていました。でも、実際に行ってみると、純粋に一つの面白いテーマパークが生まれたな、と」(中野キューさん、以下同じ)

イマーシブ・フォート東京にあるアトラクションは、そのすべてが「イマーシブシアター」という種類のアトラクション。これはイギリスを発祥とする「体験型演劇作品」の総称。諸説あるところだが、実際にショーを見ている観客が主体的に入り込んでいくことを特徴としている。このように聞くと、受け身でも楽しめるライド形式のアトラクションより、観客への負荷が高そうに感じるが、実際はどうなのだろうか。

海外で流行っているイマーシブシアターに比べると、かなり日本人にローカライズされていると思います。イマーシブシアターは、ゲスト側から物語の中に介入して、観客が登場人物のように振る舞う必要があります。でも、イマーシブ・フォート東京では、ゲストの勇気が出なくてもキャストが率先して何かしらアクションをしてもらえるので、置いてきぼりになる人が少ない。日本人が観客だと、どうしても受動的な遊び方になることが懸念になりますが、それでも十分楽しめる。テーマパークは、何も考えずに園内にいても、楽しいことが起こることが一つの魅力。その要素が満たされる場所になっていると思います」

◆圧倒的な没入感を楽しめる「江戸花魁奇譚」

新しい形式のアトラクションだと、どうしても身構えてしまうかもしれないが、その必要はないようだ。8種類ある館内のアトラクションのなかで、特に強い没入感があったというのが、「江戸花魁奇譚」だそうだ。内容は、とあるオークションに参加したという設定のゲストが、オークションの目玉である妖刀「藤烏」を落札した瞬間、江戸の花街へと迷い込み、その妖刀にまつわる物語に巻き込まれていく……というもの。

「ネタバレになってしまうために詳しくは言えないのですが、受動的にも楽しめる一方で没入感が圧倒的。濃密な体験ができます。シーン転換ごとのワクワク感、次に何が起こるのかがわからないドキドキ感が確実にある。ライド形式のアトラクションでも、次の部屋に入ると、いきなり照明が明るくなって『おー!』となるじゃないですか。それに近いすごさがあります」

◆常設で体験できるのはここだけ

「江戸花魁奇譚」のほかにも、有料で楽しめる「ザ・シャーロック」「東京リベンジャーズ イマーシブエスケープ」は、どれもセットのクオリティが非常に高いという。無料のアトラクションでのおすすめはあるのだろうか。

「無料のアトラクションでいうと、ジャック・ザ・リッパーという、切り裂きジャックをテーマにしたホラーメイズ(ホラー型迷路のこと)は、もっともテーマパーク感が強いと思います。これはUSJのホラーナイト期間にやっている『ホラーメイズと同じようなクオリティですが、常設で体験できるのはここだけだろうと思います。

ホラー映画の世界を追体験することが主眼に置かれている『ホラーメイズ』と比べると、アトラクション内が明るく、広いのが特徴です。というのも、イマーシブシアターとして、アクターが演じるエリアと観客が歩く場所が合体している必要があるからでしょうね。その世界に没入することをいかに重視しているのかがよくわかります」

アトラクション世界の中に、文字通り“入り込む”ことができ、なおかつ日本人にローカライズされたイマーシブシアターを提供する「イマーシブシアター東京」。一見の価値があるだろう。

<取材・文/谷頭和希>

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)

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居抜きだからこそ、ヴィーナスフォートの噴水広場も健在だ(撮影・中野キューさん)