2024年現在、航空自衛隊が導入を進める最新鋭のステルス戦闘機F-35Aは、従来のF-15戦闘機と比べて高性能なのでしょうか。両方の機体に乗ったことのあるベテランパイロットに話を聞いてきました。

F-35Aの飛行隊長にズバリ聞いた

航空自衛隊の最新鋭戦闘機であるF-35AライトニングII」には、これまで運用してきたF-4EJ「ファントムII」やF-15Jイーグル」といった戦闘機とどう違うのでしょうか。今回、F-35Aの現役パイロットに話を聞くことができました。

対応してくれたのは、三沢基地で第302飛行隊長を務める入田(いりた)太郎2等空佐です。

F-35Aが初めて航空自衛隊に導入されたのは2018年のこと。青森県の三沢基地に第301飛行隊と第302飛行隊の2つの部隊が編成され、パイロットや整備員の育成を行うとともに部隊の練度向上を図ってきました。

入田2佐はF-35のパイロットになる前、F-15Jイーグル戦闘機を操縦していたそうで、同機での総飛行時間は2000時間以上になるとのこと。なお、千歳基地の第203飛行隊在籍時には、優れたパイロットに送られる称号「ベスト・ガイ」を手にしたこともあるベテランです。

そもそもF-35Aは、メーカーであるロッキード・マーチン社がF-15よりも優れた第5世代戦闘機としてカテゴライズし、従来の戦闘機との違いをアピールしているものです。その最も大きな違いは、レーダーで捉えにくいステルス性です。ほかにも、高性能なレーダーや各種センサーを備え、それを自機や僚機だけでなくさまざまなプラットフォームに共有できる高度なデータリンク性能のほか、空対空戦闘だけでなく、F-2戦闘機すら凌駕する高度な対地攻撃も可能なマルチロール性能も付与されています。

では、パイロットとしてのF-35Aの評価はどうでしょうか。その優れたポイントについて、次のように話します。

F-35Aの優れた点は、やはり戦闘の状況を正確かつ迅速に認識することができることだと思います。この機体はコックピットに備えた大型ディスプレイだけでなく、ヘルメットのバイザー内部に各種情報を投影するHMD(ヘッド・マウントディスプレイ)もあり、これらによって瞬時に情報を入手することができます。両方のディスプレイF-35のあらゆるシステムの情報を表示させることが可能なため、必要な時に必要な情報を、デバイスを切り換えながら得ることができます」

F-35Aのキモ「センサー・フュージョン」とは?

さらに、F-35F-15の違いについて、入田2佐は次のように話してくれました。

F-15のコックピットでは、たとえばレーダーとレーダー表示装置、レーダー警戒装置とその表示器、エンジンとエンジン計器のように、それぞれのシステムごとに、専用のディスプレイや計器が設けられていました。パイロットは、それらディスプレイや計器から得られた個別の情報を『自らの頭の中で統合』して、戦闘状況を自分なりに構築する必要があります。

しかし、F-35の場合は、機体システムが各種センサーなどによって収集した様々な情報を自動的に統合してディスプレイに表示してくれるため、パイロットは戦闘状況を視覚的に把握し認識することが可能となっています」。

F-35というと、冒頭に記したようにステルス戦闘機であることばかりが注目されていますが、この機体の重要な能力としては、このような「情報の統合化」も挙げられます。

戦闘機が、敵機や目標を探し、戦闘空域がどのような状況になっているかを知る手段はいくつもあります。敵機や飛行目標であればレーダー、地上目標や近距離の空中目標であれば光学センサー、味方の航空機などが探知した目標であればデータリンクで情報共有することが可能です。しかし、これらで得られる情報はフォーマット(書式や体裁)から内容、表示の仕方までバラバラであり、従来の戦闘機ではそれらをまとめるのもパイロットの仕事とされていました。

F-35では、それら複数の情報を機体側のシステムが自動的にまとめてくれ、パイロットが理解しやすいよう、統合化された1つの視覚情報として表示することが可能です。このような能力は「センサー・フュージョン(融合)」と呼ばれ、F-35がカテゴライズされている第5世代戦闘機には必須の条件だと言われています。

パイロットのやるべきことはF-15よりも増えた?

一考すると「センサー・フュージョン」とは情報の整理を機体側に任せて、戦闘機の戦いを自動化しているようにも思えます。しかし、入田2佐によるとそれは違うようです。

F-35は優れたセンサーシステムを持っているため、(収集する情報の量も膨大であることから)機体がパイロットに提供できる情報も限りなく多いです。そこから、パイロットが戦闘状況を正確かつ迅速に認識するには、ディスプレイに表示させる情報を適切に選択し、なおかつそれらを瞬時に理解する能力が必要になります。

私自身も経験があるのですが、F-35に機種転換したばかりの頃、コックピットのディスプレイ情報を見た際に、視覚的にそれを認識していても、情報を頭で理解して自分の次の行動に結びつけることがスムーズにできませんでした。F-35パイロットに職人芸というものがあるならば、これら膨大な情報の選別とそこからの素早い状況判断だと思います」。

メーカー情報によると、F-35のコックピットにあるディスプレイの大きさは幅約50cm、高さ約20cm。そこを2分割、4分割、8分割と区切って異なるウィンドウで情報を表示することができます。これは、パソコンで複数のアプリケーションを同時に動かす「マルチ・タスク」と似ています。

アプリケーションソフト自体を快適に動かすのはパソコンの処理能力に左右されますが、複数のソフトを組み合わせて効率よく作業を進められるかは、使う人間の技量に左右されます。パソコン作業と戦闘機の操縦を同列に扱うのは乱暴かもしれませんが、作業効率という点では共通性があるのではないでしょうか。

機体が高性能化してもパイロット頼みなワケ

それについて入田2佐は、次のように語っていました。

「よく、F-35のような新型機の場合、操縦システムが自動化されてパイロットの負担が減るようにいわれることがあります。たしかに、F-35もフライトコントロールが優秀で、自動操縦装置(オートパイロット)も高性能です。しかし、システムが高性能になったことで、対応できるタスクや能力も飛躍的に向上しており、パイロットには操縦以外の能力が求められます。

以前、操縦していたF-15と比べると、F-35はパイロットがやるべき事柄や学ぶべき知識が本当に増えています。それは、この機体の性能がそれだけ高度化したことの裏返しともいえます。ですから、F-35のような新しい機体のパイロットに求められる技術は、純粋に操縦技量だけでなく、『戦闘システムをオペレートする能力』といったものまで合わせて必要になってくると思います」。

F-35戦闘機としての能力は、従来機と比べて非常に高性能になり、システム的に自動化された部分も多いようです。しかし、その機体を操縦し使いこなすのは、昔と変わらず人間であり、パイロットのスキルに大きく左右されるのは変わらないといえるでしょう。

第302飛行隊のF-35A「ライトニングII」。2017年までF-4EJ改「ファントムII」を運用する飛行隊だったが、2018年よりF-35A飛行隊になった(布留川 司撮影)。