プロジェクトの現場はいつも「想定外」「トラブル」と隣り合わせです。複数組織が参加するプロジェクトの場合、最初に杜撰な対応をすると、後々訴訟になるリスクもあることから、細心の注意が必要です。孫正義氏のもとで〈プロマネ〉を務めた三木雄信氏が解説します。※本連載は、三木雄信氏の書籍『孫社長のプロジェクトを最短で達成した 仕事が速いチームのすごい仕組み』(PHP新書)より一部を抜粋・再編集したものです。
プロジェクトメンバーには「部門間の通訳ができる人」が不可欠
Q
プロジェクト・メンバー選定の際に気をつけるべきこととは?
A
ステークホルダーになり得るすべての部門から、必ず1人はメンバーを出してもらいましょう。また、メンバーの中に「部門間の通訳ができる人」がいるとすごくラクです。
まず大前提として理解しておきたいのは、「プロジェクトのメンバーに選ばれた人たちは、機能部門の代表者である」ということです。
プロマネに人事権はないので、誰がプロジェクトに参加するかを決めるのは、それぞれの機能部門で人事権を持つ人です。
つまり、各部門の権限者が自分の代理として派遣するのがプロジェクト・メンバーだということです。
プロジェクトが始まると、メンバーは機能部門の権限者とプロマネをつなぐ橋渡し役になります。
現場で何か起こるたびに、メンバーが自分の部門に持ち帰り、権限者と対応を協議して、その結果をプロジェクト側に伝えるという作業が頻繁に繰り返されます。
プロジェクトは組織横断的に行なわれるので、プロマネに横の調整が必要になるのは当然ですが、実は各部門の上司と部下の間で行なわれる”縦の調整”も非常に重要です。
よって、プロジェクト・メンバーの選定で重視すべきなのは、この件のステークホルダーになり得るすべての部門から人を出してもらうことです。
後になって「しまった、この部門と縦の調整をしてくれる人が誰もいないぞ」ということにならないよう、立ち上げの時点でステークホルダーとなる機能部門をすべて洗い出し、必ず1人はメンバーを出してもらってください。
プロマネに人事権はないと言いましたが、もしメンバーを指名することが可能なら、「部門間の通訳ができる人」をメンバーに入れると仕事が非常にラクになります。
通訳ができる人とは、複数の部門の業務に通じていて、それぞれの側が理解しやすい言葉で調整や交渉ができる人のことです。
特に、業務とシステムの両方に詳しい人が1人でもいると、本当に助かります。
なぜなら、この2つのつなぎ目が最も依存関係に陥りやすく、プロジェクトの遅延につながるボトルネックになることが多いからです。
一般的に業務側の人間はシステムのことがわからず、システム側の人間は業務への理解が不足しています。
お互いのことがわかっていれば、「入力の項目内容を決めなくても、項目数さえ決めればウェブサイトの設計に取りかかれる」といった依存関係の断ち切り方ができますが、知識がなければそんな発想はそもそも浮かびません。
でも、業務もシステムもそれなりにわかるという人間がいれば、すぐにこのボトルネックを解消できるはずです。
私もソフトバンク時代は、”通訳”に幾度となく助けられました。
現在、IT関連企業に転職して幹部を務めているAさんは私と同時期にソフトバンクに在籍していたのですが、彼は本当に優秀な通訳でした。
サービス企画から降りてきたオーダーを聞くと、「なるほど、わかりました」と言ってシステム開発側にわかりやすく翻訳して伝え、あっという間に業務側がイメージする通りのシステムを作り上げてくれるのです。
もちろんプロマネが通訳を兼務できるならそれでもいいのですが、他にも大量にやるべきことを抱える立場としては、やはり自分の代わりにつなぎ目になってくれるメンバーがいると本当にラクです。
通訳できる人材を見抜くコツは、会議での発言に注目すること。
議論がグダグダになってきたところで、「それは結局こういうことですよね」「つまりあなたが言っているのは、こういう意味ですよね」などと整理してくれる人が、どの会社にもいるはずです。そういう人がいたら、ぜひプロジェクトにスカウトしましょう。
もし社内に人材がいなければ、外部の人間を招いてもいいと思います。
現在はどんな業務にもITやシステムが関わってくるので、プロジェクト全体を円滑に進めるための大きな力になってくれるはずです。
逆に、プロジェクト・メンバーに入れてはいけないのは、「口だけ出して、タスクを負わない人」です。
会議であれこれ意見は出すくせに、いざタスクの割り振りの話になると、自分でタスクを引き受けることはできるだけ避けようとする。こういう「言いたいことだけ言って手を動かさない人間」が1人でもいると、他のメンバーのモチベーションは著しく下がってしまいます。
プロジェクト開始後に発覚してしまった場合は、ただちにその上司にフィードバックして、そうした姿勢を改めるように指導してもらいましょう。それでも変わらない場合は、メンバーチェンジをしてもらうしかありません。
プロジェクトに参加する組織が多いほど「言葉の定義」が重要に
Q
所属部署の違うメンバー同士、あるいはメンバーに社外の人がいる時、お互いの話がかみ合わない場合どうすればいい?
A
まず「言葉の定義」を決めましょう。特に「納品」や「納期」の定義は必ず確認してください。
所属する部門や組織が違えば、使う言葉も異なります。
それが原因でまったくかみ合わない不毛な議論が続いたり、誤解が生じてミスやトラブルにつながる危険性もあります。
よって、言葉の定義を早い段階で確認することが必要です。
私が「Yahoo!BB」のプロマネをしていた時も、こんなことがありました。
ADSL事業に参入するには、NTTの回線を借りてネットワークを構築する必要があります。それを担当していたのが、シスコシステムズときんでんから出向してきたメンバーでした。
ところが、この2社が使っている用語や書式がバラバラだったのです。
例えば図面を作る際、シスコはNTTの局舎を「◎」で表すのに、きんでんは「■」で記入したり、ある設備機器をシスコは英語の略称で書き込むのに、きんでんは日本語を使ったりしていました。
そのため、お互いが作成した図面が何を指すのかわからず、現場の作業が進まないというトラブルが起きていました。
それを知った私は、すぐに言語の共通化に着手しました。
「局舎は『■』で統一する」「機器の名称は英語で統一する」というように、言語の定義づけをしたのです。
その結果、双方のスタッフのコミュニケーションも円滑になり、図面の作成や現場の作業も加速度的に進むようになりました。
このケースはどちらかといえば専門用語に近い言葉ですが、なかにはもっと一般的な言葉でさえ、まったく異なる意味で使われることがあります。
なかでも「納品」や「納期」という言葉の定義には特に注意が必要です。
この言葉を、「システムをパッケージとして納品するまで」と定義している会社もあれば、「パッケージを納入後、サポートサービスが終了するまで」と定義している会社もあります。
これを最初の時点できちんと定義して、認識を共通にしておかないと、後でとんでもないトラブルになってしまいます。場合によっては、訴訟にまでなりかねません。
プロジェクトに参加する組織が多いほど、プロマネは「言葉の定義」に気を配ることが非常に重要です。
三木 雄信 トライズ株式会社 代表取締役社長
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