毎年3月8日は国際女性デーだ。北朝鮮では国際婦女節と呼ばれるが、国営の朝鮮中央通信は、このような記事を配信した。

「わが女性たちはこんにち、年代と世紀を継いで不世出の偉人たちの懐で幸福な生を享受してきた大いなる誇りを抱いて祖国の富強・繁栄のための道に自分たちの誠実な汗をささげている」

「偉人たち」というのは言うまでもなく、金日成金正日金正恩の「世襲独裁者」のことだ。朝鮮労働党機関紙・労働新聞も、概ね似たような内容の社説を掲載したが、それを読んだ北朝鮮女性は呆れ返っているという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

「こんにち、わが国の女性たちは、敬愛する総書記同志(金正恩総書記)の天のような愛と格別な配慮で、幸せな生活を満喫している」
「敬愛する総書記同志を社会主義大家庭の親として高く慕って生きることこそ、わが国の女性の最大の幸運であり、幸せだ」

そんな労働新聞の社説を読んだ女性たちは、一様に苦々しい表情を浮かべていたという。

北朝鮮の男性は、何らかの職場に属していなければならない。それを求められない女性たちは、市場に出て早朝から夜遅くまで懸命に働き、現金収入を得て、一家の生計を懸命に支えている。一方で男性は、最近賃上げが行われたものの薄給であることは変わらず、経済的にさほど助けにならない。

そんな状況がどうして「幸せ」なのか、バカバカしさに苦笑するしかないということだ。デイリーNK内部情報筋は、女性の怒りの声を伝えた。

「幸運や幸せは暮らし向きが楽ならば言えることで、今のように貧乏すぎて倒れてしまうような状況にはふさわしくない。子を持つ母親は、子どもに十分な食事を与えられず涙を流しているのに、労働新聞やテレビはフェイク情報ばかり垂れ流しているのだから、口からは悪態しか出てこない」会寧(フェリョン)在住 40代女性 Aさん

「わが国の女性たちは、家庭の生計のみならず、社会的動員(勤労動員)や経済的負担(金品の供出)にも苦しめられている。疲れ果てて眠りにつくときは、もう永遠に目覚めなければいいのにと思ってしまうほど」会寧在住 50代女性 Bさん

Bさんは怒りが収まらない様子で、さらに不満を吐き出した。

「自分のような専業主婦(実際は市場で商売しているが、北朝鮮では職業扱いされない)が集まれば、なんでこんな星の下に生まれたのかと嘆くばかりで、自分たちの苦しみに背を向けて、作り話のプロパガンダを流し続けるテレビや新聞に接すると怒りがこみ上げてくる」
「わが国の女性のように国、家庭、社会に忠実に献身している女性は世界中探してもいないはず。それなのに現実は貧困と苦痛ばかり。もう女性を牛のようにこき使うのではなく、本当に幸せな暮らしができるように国が措置を取るべきだ」

市場が活性化し、生活が安定すれば不満は自然と収まるだろう。しかし、金正恩氏が進めている政策は、人々の現金収入の源である市場を押さえつけようというものだ。全世界がコロナ禍から急速に回復する中で、北朝鮮ばかりが取り残されているのは、人災に他ならない。

平壌での国際婦女節の祝賀行事(画像:労働新聞)