上の画像をよく見て欲しい。小さな体で羽をパタパタさせながら空中でホバリングして花の蜜を吸っている。「知ってる、それハチドリ!」と思うだろ。でもこれ蛾の仲間なんだ。
スズメガ科に属する「ホウジャク」は、それほどまでにハチドリに似ているのだ。1秒間に85回も羽ばたかせて空中に停止しながら、長い口吻で花の蜜を吸うかわいらしい姿はハチドリそのもの。
だがハチドリが北米や南米などのアメリカ大陸のみに生息しているのに対して、ホウジャクは日本を含む、ヨーロッパ、アフリカ、アジアに生息している。それなのに両者が似ているのは、収斂進化の賜物だ。
スズメガ科のホウジャク( Macroglossum stellatarum)の大好物は、筒状の花を咲かせる植物だ。普通なら吸えないような形でも、ストローのように長い口吻を正確に花の真ん中に差し込んで、甘い蜜を吸い取る。
口吻の長さは体とほとんど同じくらいあり、普段はクルクル丸めて収納されている。
自分の身長と同じくらい長いストローをくわえて、小さな的を狙うところを想像してみれば、その技術がどれほど素晴らしいものかわかるだろう。
しかもホウジャクはハチドリと同様にそれを空中でやるのだ。
photo by iStock
昆虫では珍しい視覚による誘導
そんなことができるのも、ホウジャクの驚くべき視覚のおかげかもしれない。ホウジャクは昆虫としては珍しく、目を頼りにして長い口吻の狙いをつけている。
コンスタンツ大学(ドイツ)のアンナ・シュテッヒェル氏らは、そんなホウジャクの視覚の凄さを解明するべく、さまざまな模様が描かれた”造花”のそばでホバリングする様子を高速度カメラで撮影。その結果を『PNAS』(2024年1月29日付)で報告している。
それによると、ホウジャクは視覚から連続的なフィードバックを得ることで、自分の動きや位置を微調整し、的へ向けて口吻を伸ばすことがわかったという。
視覚によって狙いを細かく修正するには、かなり高度な神経系が必要になる。そのため、自然界では主に哺乳類で広く見られる。
だがホウジャクは、比較的シンプルな神経系でも、この複雑な動作を行えることを示している。
目で付属器の狙いを定めるのは、昆虫ではあまり見られないことです。ですから、視覚でもって並外れた付属器を操作する昆虫の潜在的な例があったことに、本当にワクワクしました(シュテッヒェル氏)
photo by iStock
全く違う種が収斂進化で同じ能力を獲得
ご存じの通りハチドリは鳥の仲間で、ホウジャクは蛾の仲間だ。なのになんでこんなにもそっくりなのか?
それは収斂進化(収束進化)によるものだ。
収斂進化(しゅうれんしんか)とは、異なる系統の生物が、同じような環境に適応するために、同じような形態や機能を獲得する進化のこと。
ハチドリはアメリカ大陸にのみ生息する。一方でホウジャクは日本を含む、ヨーロッパ、アフリカ、アジアに生息しており、住んでいる場所が違う。
違う場所で違う種のハチドリとホウジャクだが、花蜜を効率よく吸うために、同じような長い吻を持つようになった。空中で静止できるホバリング能力も、花から花へと移動しながら蜜を吸うために必要な機能だ。
真似したわけじゃないのに環境に適応するために進化していった結果、すごくそっくりになっちゃったというわけだ。収斂進化って面白いよね。
ただし蜜を吸っている時はハチドリとそっくりだけど、止まっている時は魔法がとけたかのように普通の蛾の姿に戻っちゃうあたりも興味深いよね。
photo by iStock
References:Hummingbird hawk-moth: The bird-like insect with a giant sucking mouthpart / written by hiroching / edited by / parumo
コメント